栄養学部の田村講師らの研究グループが炎症によって筋力を弱める仕組みの一端を明らかにしました― 三次元培養筋モデルで機能低下を可視化 ―
2026/03/09
栄養学部の田村行識講師、大学院薬学研究科 水谷健一 特命教授、大阪工業大学工学部の中村友浩教授らの研究グループは、炎症によって筋力が低下する仕組みの一端を三次元培養筋モデルを用いて明らかにしました。本研究成果は、Journal of Bioscience and Bioengineering にオンライン掲載されました。(図と写真は三次元培養筋モデルと炎症による筋力低下 コラーゲン中で立体的に培養し、人工腱で固定した三次元培養筋は、電気刺激により実際に収縮する。炎症性物質TNF-αの作用により、収縮力は約90%低下する)
■ 三次元培養筋とは
私たちの筋肉は立体的な構造の中で規則正しく並び、腱に引っ張られながら力を発揮しています。しかし従来の細胞培養は平面上で行われるため、実際の筋肉の構造や力の出方を十分に再現することができませんでした。
本研究で用いた「三次元培養筋」は、コラーゲンの中で筋細胞を立体的に培養し、人工腱で両端を固定して張力をかけた人工筋組織です。電気刺激を与えると実際に収縮し、生体に近い構造と機能を再現します。顕微鏡下で収縮の様子を観察でき、その力を数値として測定できる点が大きな特長です。
■ 何が分かったのか
炎症性物質TNF-αを三次元培養筋に作用させたところ、次の変化が確認されました。
• 筋肉の収縮力が時間とともに大きく低下する(72時間で約90%低下)
• 速く収縮するタイプの筋線維が細くなり、減少する
• 筋肉の収縮を支える微細な構造(サルコメアと呼ばれる構造)が乱れる
• 筋肉の硬さ(剛性)が低下する
• 筋肉の内部構造を保つ因子や、収縮に必要なカルシウム調節に関わる遺伝子の発現が低下する
特に、筋肉の硬さの低下は、筋の土台を形成するコラーゲン関連遺伝子の発現低下とあわせて考えると、筋の構造的な強度が弱まることが筋力低下の一因になっている可能性を示しています。
これらの結果から、炎症は単に筋肉を「やせさせる」だけでなく、筋肉が力を生み出す仕組みを多方面から弱めている可能性が示されました。
■ 研究の意義
慢性的な炎症は、加齢に伴うサルコペニアや、がんに伴う体重・筋肉減少(がん悪液質)などにおける筋力低下と深く関わることが知られています。しかし、その詳細な分子機構や構造変化を直接検証できる実験系は限られていました。
本研究は、
• 炎症と筋力低下の具体的な分子メカニズムを示したこと
• 生体に近い三次元培養筋モデルの有用性を示したこと
に意義があります。
さらに、本研究で用いた三次元培養筋モデルは、動物を用いずに筋肉の収縮機能を評価できる実験系であり、動物実験に代わる研究手法としての可能性も有しています。
このように、本モデルは炎症による筋力低下を再現し、機能・構造・分子レベルで総合的に評価できる実験基盤であると同時に、動物を用いない点で倫理的な観点からも優れた研究手法です。今後は筋力低下の原因解明や治療法開発、創薬評価などへの応用が期待されます。
本研究は、兵庫県「成長産業育成のための研究開発支援事業(応用ステージ研究)」に採択された研究プロジェクトの一環として実施されました。詳細はこちら
■ 論文情報
Tamura Y, Ishizaka J, Yokoyama S, Ochi A, Kishishita K, Nakajima R, Sakai M, Zeng Y, Okugawa A, Higuchi R, Fujisato T, Mizutani KI, Nakamura T.
TNF-α-induced contractile dysfunction in three-dimensional engineered muscle.
Journal of Bioscience and Bioengineering
doi: 10.1016/j.jbiosc.2025.12.008
PMID: 41535197
【用語解説】
三次元培養筋(3D-engineered muscle)
筋細胞を立体的に培養し、人工腱で張力をかけることで生体に近い構造と機能を再現した人工筋組織。電気刺激により実際に収縮し、その収縮力を定量的に評価できる。
TNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)
炎症が起こると体内で増えるタンパク質の一種。慢性炎症や加齢、がん悪液質などで上昇し、筋力低下との関連が指摘されている。
サルコペニア
加齢に伴い筋肉量や筋力が低下する状態。転倒や骨折のリスクを高めることが知られている。



