神戸学院大学

グローバル・コミュニケーション学部

グローバル・コミュニケーション学部が学術シンポを開き、DXと言語教育の行方を考えました

2023/10/20

講師やゲスト・コメンテーターの総合討論を熱心に聴く参加者ら
講師やゲスト・コメンテーターの総合討論を熱心に聴く参加者ら
開会あいさつする大濱学部長
開会あいさつする大濱学部長
講演する仁科教授
講演する仁科教授
講演する東教授
講演する東教授
コメントする国立国語研究所の前川所長
コメントする国立国語研究所の前川所長
総合討論する講師と前川所長
総合討論する講師と前川所長

グローバル・コミュニケーション学部の学術シンポジウムが10月14日、神戸市中央区のアンカー神戸(神戸三宮阪急ビル15階)で開かれ、「デジタルトランスフォーメーション(DX)と言語教育の行方」のテーマで専門家が講演し、議論しました。

冒頭、大濱慶子学部長が、「コロナ禍を境に教育現場は大きく変化しています。中国語コース4年次生が対象の『翻訳の方法』という授業では、Vlogで動画発信し、AIを使って好きな音声を吹き込むという試みも始まりました」と、開会あいさつで述べ、デジタル技術を使った最近の言語教育の一端を紹介しました。

■電子コーパス、機械翻訳・ChatGPTの概要を紹介 仁科教授
続いて講演に移り、まず、英オックスフォード大学客員教授を経て帰国した英語コースの仁科恭徳教授が「コーパス、機械翻訳、そしてAIの現在」のテーマで研究内容を紹介しました。「コーパス」とは言語の集積。電子コーパスが誕生してからは辞書の編纂(へんさん)作業で、語句の意味や訳語の記述が大幅に変わり、進化したとの説明で始まりました。仁科教授は複数の英語辞書や英語教材などの編纂に関わっており、電子コーパスが辞書の編纂、英語(語学)教材の開発、英語(語学)教育研究、機械翻訳などの性能の向上に貢献してきたといいます。

仁科教授はさらに、現在の機械翻訳や英語校正ソフト、ChatGPTなど生成AIの概要について紹介しました。ChatGPTなどの生成AIは、翻訳でもかなり使えるようになってきたものの、例えば、関西弁で日本語を英訳するような指示を出した場合には不自然な文章となり、これが学習データ(コーパス)の不足であることを指摘しました。GPT4.0では、この点がかなり改善されていることも付け加えました。

■教育現場での生成AIの活用方法を紹介 国立国語研究所・宮川助教
国立国語研究所の宮川創助教は「生成AIを活用した言語教育」と題して話し、教育現場での生成AIの活用方法の実例を示しました。米国のトランプ前大統領の音声を模して生成AIに英文を読み上げさせると、そっくりな声色とテンポに会場から思わず笑いが漏れました。生成AIの性能には課題も多く、「ハルーシネーション(幻覚性)が現れて、おかしな回答をすることが時々ある」ことも指摘しました。

■「ムードル」活用で大学・学生間の関係作り 前橋工科大学・原島名誉教授
日本ムードル協会初代会長の原島秀人・前橋工科大学名誉教授は「Moodleで可能な拡張言語学習活動」のテーマで話し、オンラインで授業を行うために開発されたeラーニングのシステム「ムードル」のさまざまな機能を紹介しました。「ムードル」を活用し、大学間や学生間で多くのやりとりがあり、新たな関係が生まれていることが分かりました。「人間よりAIの教師の評判がいいみたいです」という報告には驚きの声が上がりました。

■広がるTTS合成音声サービスの教育現場での活用 東教授
最後に英語コースの東淳一教授が「合成音声と言語教育―過去・現在・未来」と題して話し、「TTS音声合成サービス」の最近の発展ぶりと、教育現場での活用の可能性を論じました。TTSは文章から自然な音声を生成する「Text-to-Speech」を意味し、高品質な合成音声で架空のアナウンサーが英文を読み上げる事例を紹介しました。サービスの教育現場での活用例としては「反復会話練習の相手方の音声や文型練習のモデルとして利用できるのではないか」と述べました。

この後、総合討論に移り、ゲスト・コメンテーターの国立国語研究所の前川喜久雄所長(名誉教授)が「AIと言語研究・言語教育」と題して現在までの自身や専門家の研究を振り返り、「大規模言語モデルの研究に携わってきたが、生成AIによって『End-to end(入力から出力までダイレクトに音声を認識できる仕組み)』の処理を可能にした表現学習(の進歩)は衝撃だった」と述べました。各講師の講演にも所感を述べ、前川所長と講師とのやりとりや、講師間での議論がありました。

■「先生と学生・生徒の立場で、どこまで生成AIを使えばいいのか?」
会場との質疑応答では、グローバル・コミュニケーション学部の学生が「私は学習塾で英語を教えていて、Grammarly(AIによる英文添削ツール)を使うと文法の誤りを直してくれるので便利だよと生徒に言うことがあります。先生と生徒のそれぞれの立場でどこまで生成AIを使えばいいでしょうか」と質問しました。宮川助教は「(先生も生徒も)どんどん使っていけばいい。生成AIの利用のためか、生徒の答案が数年前と比べて格段に良くなった。機械翻訳ではできない質問を考えるなど、教師も対策を考えていく必要がある」と回答しました。他の講師からも「問題はあるが積極的に使おう」との回答がありました。

最後に英語コース主任のトーマス・シャーロー教授が閉会あいさつし、シンポジウムを締めくくりました。