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神戸学院大学

薬学部

薬学部が 「第27回大学-医療連携講演会~Pharmacist Scientist が拓く薬物治療の未来~」を開催しました

2024/01/15

大学院薬学研究科博士課程の堀田拓海さんによる一般講演
大学院薬学研究科博士課程の堀田拓海さんによる一般講演
京都大学医学部附属病院の中川俊作副薬剤部長の一般講演
京都大学医学部附属病院の中川俊作副薬剤部長の一般講演
米国シンシナティ小児病院の水野知行ファーマコメトリクスセンター長による特別講演
米国シンシナティ小児病院の水野知行ファーマコメトリクスセンター長による特別講演
講師らによるパネルディスカッション
講師らによるパネルディスカッション

薬学部の「第27回大学-医療連携講演会」が昨年12月18日、ポートアイランド第1キャンパスで対面とオンラインでのハイブリッド方式で開催されました。

薬学部の医療連携実行委員会では、神戸医療センター中央市民病院を中心とした近隣の医療機関との教育・研究の連携を図る活動の一つとして、2013年から定期的に本講演会を開催してきました。今回は、橋田亨教授の企画で、「Pharmacist Scientist(薬学研究者) が拓く薬物治療の未来」について、一般講演の講師2人、特別講演の講師1人を招き、議論を深めました。また、今回は初の試みとして福島恵造講師の司会で講師らによるパネルディスカッションが行われました。Zoomによる参加を含めて約90人の薬剤師を中心とする県内の医療関係者、本学教職員や学生の皆さんが参加しました。

■一般講演①「卒後臨床研修を薬学研究につなげる-シスプラチン誘発性腎毒性予測-」
初めに大学院薬学研究科博士課程の堀田拓海さんが、大学院進学の経緯とこれからの研究に対する抱負について発表しました。

堀田さんは大学院進学を前に臨床現場における「クリニカル・クエスチョン(医療現場で感じた疑問)」とはどのようなものか、またその解決のための臨床研究および、それによって構築されたエビデンスがどのように活用されているのかについての知見を得たいと考えました。このため卒業後は兵庫県立がんセンターで薬剤師レジデントとして2年間の研修を受け、本学大学院に進みました。現在は、シスプラチン誘発性亜慢性腎障害を予測する数理モデルの構築に取り組んでおり、今後はがん治療向上に貢献するための「トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)」を行いたいと語りました。

■一般講演②「未来に向けて抗微生物薬の古くて新しい課題を考える」
次に、京都大学医学部附属病院の中川俊作副薬剤部長・准教授が臨床でのエビデンスが少ない小児患者や移植患者に対する薬物動態に関する研究内容について講演しました。

初めに薬物間相互作用やスペシャルポピュレーション(特定の患者背景や合併症を持つ集団、特殊病態患者)における薬物動態の予測に生理学的薬物速度論モデルが有用であることを説明いただきました。また、このモデルを用いたシミュレーションの結果、小児では成人と比較して目標とする抗菌薬の血中濃度が異なる可能性があることを指摘。次に移植患者において副作用が発生するリスクを探索するために行った、母集団薬物動態解析について説明がありました。

質疑応答ではこれからの医療現場で上記のような問題解決のためにAIをどのように利用していくことが重要なのかなどの質問がありました。

■「ファーマコメトリクスが拓く精密医療の未来」について特別講演
最後に米国シンシナティ小児病院の水野知行ファーマコメトリクスセンター長・臨床薬理学部門准教授が講演し、臨床および基礎データを有効活用し、臨床現場におけるアンメットニーズを解決する強力なツールであるファーマコメトリクス(数理モデルと計算機科学を用いて薬剤の用量と効果・副作用を解析し、予測する手法)を用いてどのように医療に貢献するかをご説明いただきました。

初めに薬の投与から治療までのプロセスを示し、「ファーマコメトリクス」が薬物投与の意思決定に役立つツール・研究分野であることを解説してもらいました。特に小児では臓器サイズや機能の急速な成長が薬物動態に影響を与えるものの、臨床試験の結果は乏しく、年齢や個々の患者背景に応じた薬物治療の個別最適化が必要であり、「ファーマコメトリクス」による具体的な投与設計を行った症例を交えながらの説明がありました。

後半は数理モデル情報に基づく精密投薬(Model-informed precision dosing=MIPD)を活用した薬物治療支援を目的とした研究についての紹介でした。MIPDは臨床で実際に利用可能な具体的な投与量提案などを行うことができ、薬物治療の個別最適化の新しいアプローチとして有用だとされています。水野准教授のグループでは医療従事者がベッドサイドで簡単に利用できるアプリケーションの開発を行っており、すでにいくつかの薬物については最適な投与量・投与間隔などを提案できるように院内の電子カルテに実装されています。

今後はAIや機械学習による治療アウトカムの予測やバイオセンサーなどの最先端の技術を活用しながら精密な投与設計の実践を行いたいと述べました。

質疑応答では、若い研究者が海外で研究するための醍醐味などについて質問がありました。

■パネルディスカッションも活発に
パネルディスカッションでは、「MIPDにおいて遺伝子多型は活用されているのか」「研究を臨床実装するためにどのようなことが障害になるのか」「医師と薬剤師が考えるクリニカルクエスチョンには差異があるのか、またそれはどのようなものか」「薬剤師レジデントの経験では、どのようなことを感じたのか、また研究にどのように役立っているのか」などについて議論しました。