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神戸学院大学

薬学部

「がん」をテーマに第4回大学ー医療連携特別講義が実施されました

2022/09/15

講師の永井医師(中央)と吉野薬剤師(右端)を紹介する橋田教授
講師の永井医師(中央)と吉野薬剤師(右端)を紹介する橋田教授
がん治療の最前線の講義をする永井医師
がん治療の最前線の講義をする永井医師
「レジメン管理」についての説明
「レジメン管理」についての説明

神戸市立医療センター中央市民病院との包括連携協定に基づく薬学部の大学―医療連携特別講義の第4回が8月9日に開かれました。授業は橋田亨教授と杉岡信幸教授が担当し、日本人の死亡原因第1位の「がん」をテーマに、同病院から腫瘍内科医長の永井宏樹医師と吉(吉は「土」の下に「口」ですが、「吉」で表記します)野新太郎薬剤師を講師に招きました。

2021年のデータでは、がんで死亡する人は男女ともに、肺がんと大腸がんがトップです。がんの治療法は、手術や薬物療法による積極的治療と症状を和らげる緩和治療があり、いずれもチーム医療が基本です。呼吸器内科、がん治療が専門の永井医師は、「大きな枠組みで言えば、医師は治療方針(治療戦略)を決め、全身管理を行う。一方で薬剤師は薬物療法の安全と質の向上に寄与し、リスクマネージメントを行う重要な役割を担っています」と説明しました。

薬剤師の具体的な業務として、レジメン(注1)管理に基づく調剤・調製、薬剤レジメンの事前登録、抗がん薬の適応や量、服薬スケジュールが正しいかの確認、ほかの病気で使っている薬との飲み合わせに問題がないかの確認まで多岐にわたることが示されました。さらに、患者への薬の飲み方の説明、副作用の対処法など服薬のサポートも担当するとの説明もありました。

(注1)レジメン:薬物治療における薬剤の種類や量、投与期間、手順などを時系列で示した計画

永井医師は最近のがん治療薬として、従前から使われている細胞障害性抗がん薬、最近注目される分子標的薬などを示し、多剤併用により有効性が高まる一方で毒性も高まることを指摘しました。副作用は患者自身が自覚できるものや検査で分かるものがあり、「事前に予測できる副作用をいかに抑制するかが医師と薬剤師の腕の見せどころ」と述べました。

同病院では、2004年からがん患者のために薬剤師による「ケモ(化学療法)副作用説明外来」があり、治療スケジュールや副作用が出たときの対策など、患者指導にあたっていることも紹介されました。点滴抗がん薬と違って服薬が患者任せになってしまう経口抗がん薬については、「全国の病院で10%しかやっていない」(永井医師)薬剤師外来があり、検査結果が出るまでの時間を使って、薬剤師が服薬の注意点を患者に知らせると同時に患者からの聞き取りも行っているとの紹介もありました。「がん薬物療法の安全の質の向上において薬剤師は重要な役割を担っています。がん患者や家族を支えるチーム医療に参加していただいて。患者・家族や医療スタッフから頼りにされる薬剤師になってください」と期待の言葉で締めました。

一方、「がん薬物療法認定薬剤師」、「緩和薬物療法認定薬剤師」などの資格を持つ吉野薬剤師は「がん薬物療法における薬剤師の役割と多職種連携」のテーマで話し、患者が安心・安全ながん化学療法が受けられるように支援することが重要だと強調しました。

吉野薬剤師は、点滴化学療法の流れを示し、事前に「レジメン管理」を行うことや、施行(投薬開始)当日は医師の処方確定を受けて、それが正しいかどうかの処方監査を行い、問題がなければ無菌調製を実行すると述べました。「レジメン」の一例として卵巣がんに使われる薬剤の種類や量、点滴時間を時系列で示しました。

未登録の「レジメン」の場合は、がん化学療法委員会による「レジメン審査」が行われますが、この過程で(薬の専門家である)薬剤師の果たす役割は大きいことを強調しました。

疾患ごとの薬の使い方を医師と薬剤師が協議して定めた規定「プロトコール」の導入後は、薬剤師が検査オーダーの入力状況を把握して、検査項目の追加入力も行うようになったことにも言及、「計画通りの検査ができるようになり、医師の負担軽減にもつながりました」との説明がありました。

このほか薬剤師の役割として、患者への説明を挙げました。個室で実施する「ケモ(化学療法)(副作用)説明外来」について、「点滴初日に安心して治療を受けてもらう」ことを目的にしていると話しました。お薬手帳に貼るシールにはレジメンの内容、コース名、副作用が書かれていることも示しました。

点滴当日は「ベッドサイドでの指導」があり、「当日の医師の診療や看護師の声、検査結果に基づく指導」になり、特に「治療への理解度、受け入れの把握」を重視しているとの説明でした。

また、「緩和ケアチームでの役割」としては、毎日のミーティングに薬剤師も出席し、治療薬の選択、投与経路、投与量の設定などを行います。週1回開かれる全員参加の「緩和ケアカンファレンス」にも出席します。さらに緩和ケア外来では診療に同席します。患者の痛みの評価を行い、服薬の「アドヒアランス」(注2)の向上を促します。最後に、「薬学部からの学習・実習を土台に、これからも患者個々に向き合い、経験と連携を深め、期待される役割を果たしていきたい」と決意を述べました。

(注2)アドヒアランス:患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること