神戸学院大学

法学部

土曜公開講座「育まれる命-『生殖補助医療』について考える-」を開催しました

2025/06/10

講義する春日教授
講義する春日教授
講義を聴く受講者
講義を聴く受講者

法学部の春日勉教授による第2回目となる土曜公開講座「育まれる命-『生殖補助医療』について考える-」を5月31日に有瀬キャンパスにて開催し、75人が参加しました。

今春の土曜公開講座は第89回となり、「私たちのくらしと文化」という統一テーマに基づき、各研究分野の教員が全5回の講義を行っています。

はじめに春日教授は、現代では、未婚化や晩婚化が進行しており、原因として家同士の結婚から自由恋愛へと結婚に対する価値観が変化したことや、女性が社会で活躍する機会が増え、専業主婦世帯が減少したことをデータを示しながら説明しました。

また子育てにかかる経済的負担や、女性に偏る家事や育児の負担、共働きや長時間労働などが原因となって、出生数が毎年3~5%減少しており、2024年には過去最少の72万988人の出生に止まったことを説明しました。

続いて、晩婚化によって不妊に悩む夫婦が増えていることを指摘しました。不妊治療については、国は積極的な支援策を打ち出していること、現在では、人工授精をはじめとする一般不妊治療には保険が適用され、検査や治療を受ける夫婦が増加していることを説明しました。一方で、治療によっては保険が適用されないケースもあり、全額自己負担となった事例や仕事を休むことに職場の理解が得られず、退職した女性の事例について紹介しました。また、不妊治療経験者にとって、出社・退社時間の柔軟性、有給休暇の取得のしやすさ、同僚の理解、キャリアが継続できることなどが大切であり、そのような支援制度に取り組む企業の事例についても紹介しました。

次に、主な生殖補助医療について説明しました。排卵のタイミングに合わせて洗浄・濃縮した精子をカテーテルで子宮内に直接注入する「人工授精」や、取り出した卵子と精子をシャーレの中で混合する「体外受精」、卵子に直接針を使って精子を注入する「顕微授精」などの方法があり、受精後は成長した胚を子宮に移植することで妊娠できることを説明しました。

また、不妊症の夫に代って第三者から提供された精子を用いて妊娠を試みようとする方法を「非配偶者間人工授精(AID)」といい、今国会に提出された「特定生殖補助医療法案」を取り上げ、この法案が対象を法律婚の夫婦に限定した問題や産まれてきた子らが提供者の個人情報をどこまで知ることができるのか、いわゆる「出自を知る権利」について現在の議論の状況を紹介しました。

続いて、重篤な遺伝性疾患を子どもが受け継ぐ可能性がある夫婦に限って認められている「着床前検査」や、妊婦の血液検査により特定の染色体異常が発見できる「新型出生前検査」を紹介しました。これらの検査については、「優生保護法」や「らい予防法」を取り上げながら、「命の選別」につながりかねない倫理的な問題を孕んでいることを指摘しました。最後に、出生前検査によって染色体に異常があることが判明した夫婦の葛藤にスポットを当てたドキュメンタリー映像を視聴しました。

春日教授はまとめとして、現在は産むか産まないかは産む人の権利として尊重する考え方が広がる一方で、出産・育児の負担は圧倒的に女性が背負わされる現状であること、また子が障がいをもって産まれた場合の負担・責任は家族が負うという暗黙の前提があることを指摘し、必要なのは、子を産みたいと考える人の精神的なケアと経済的・制度的な支援の見直しであり、そのためには、「生殖補助医療」を個人の問題ではなく、社会全体の問題として捉えることが大切であるとし、講義を締めくくりました。

参加者からは「不妊治療を受けてでも高齢結婚、妊娠出産したいと希望を持てた」「私は不妊治療で生まれたが、当時の母のことを想像でき良かった」といった感想が寄せられ、盛況のうちに終了しました。

次回は、6月21日、経済学部の木暮衣里准教授による「“場所”のブランドとプレイス・ブランディング」です。