神戸学院大学

法学部

法学部主催の第23回文化相互理解シンポジウムを実施しました

2023/01/20

聴講する学生ら
聴講する学生ら
シンポジウムのスライド
シンポジウムのスライド

法学部主催の第23回文化相互理解シンポジウム(企画:佐藤一進准教授)を1月12日に開催しました。23回目を迎える同シンポジウムのタイトルは、「すべての道は新渡戸に通ず――世界の美しき調和」。今回は講師に(株)岩手めんこいテレビ番組制作部プロデューサーの工藤哲人さんを迎え、岩手県が生んだ偉大な先人であり、近代日本随一の「国際人」ともいうべき新渡戸の足跡をたどりながら、国際調和のための「文化相互理解」の方向性を提案してもらいました。

工藤さんは『武士道』の著者としての有名度に反して、一般にはほとんど知られていない、世界中での新渡戸の修学と活躍の軌跡を広く世に知らしめるべく、テレビ番組の連続ドキュメンタリーを企画し、新渡戸を敬愛する若手映画監督のホープである大友啓史さんや若手俳優の戸塚祥太さんらとともに、新渡戸の留学先であるアメリカのフィラデルフィアやドイツ各地、さらには台湾やフィンランドを訪ね、現地での地道な取材に基づきながら、数多くのドキュメンタリーを10年以上にわたって制作し続けてきました。

東京帝大と京都帝大など多くの高等教育機関での教育者として後進の育成に努めるだけでなく、時の政府の要請を受け、当時は日本の植民地であった台湾の公衆衛生の向上や農業振興にも尽力した新渡戸は、その力量を評価され、設立まもない国際連盟事務次長に就任。分野と国を問わず、世界中のいたるところへ赴いた新渡戸の心中に一貫していたのは、学生時代に抱いた「太平洋の架け橋たらん」、つまり、日本(アジア)と欧米の文化の相互交流と相互理解の「媒酌人」を自分が担うのだという大志でした。

工藤さんは、新渡戸の国際性を決定づけた要因を、『幕末の戊辰戦争を佐幕派として戦った「最後の武士」であり、叔父にして育ての父である太田時敏への尽きせぬ敬慕の念』、『ベルギー遊学中の新渡戸に日本の道徳観念の根底について自問させる問いを発したエミール・ド・ラブレー法学博士との邂逅』、『アメリカ留学中に出会ったメアリとの国際結婚』の三を重要な契機として提示しました。

他にも工藤さんは、フィンランドで生まれた物語『ムーミン』の作者トーベ・ヤンソンと新渡戸の関係や、兵庫県生まれで日本民俗学の開拓者、『遠野物語』の著者である柳田國男、さらには20世紀最大のフランス人哲学者H・ベルクソン、ノーベル化学賞受賞者M・キュリー夫人、「相対性理論」を確立した物理学者A・アインシュタインと新渡戸の関わりなど、国や分野、そして文化を超えた新渡戸の人間交際の途方もない広さを紹介しました。

そのうえで工藤さんは、新渡戸という人間の学際性、そして新渡戸における「他者」に対する敬意と好奇心に触れながら、「こうした新渡戸の国際交流を支えた理念は、異質な『他者』への強い関心を持ちながら、一つの狭い専門に閉じこもらない総合的な知性や人柄をもって異文化に接することであったのではないか」と問いかけました。