人文学部の中村准教授が神戸海星女子学院中学校・高等学校で出前授業を実施しました
2025/12/02
人文学部の中村健史准教授が11月20日と26日の2日間、神戸市灘区にある私立神戸海星女子学院中学校・高等学校の「探究ラボ」で出前授業を行いました。
神戸海星女子学院では近年、探究学習を重視しており、今回は実物の和本(江戸時代以前に作成された伝統的な形式の書物)を通じて、本の歴史や古典の成り立ちを学ぶ「探究ラボ(人文分野)」の一環として中村准教授のレクチャーが行われました。テーマ選びは自然科学や社会的事象が中心となることが多く、人文分野、特に古典文学が題材に選ばれるのは珍しいことです。人文学を総合的に学ぶことのできる本学の強みを生かした出前授業となりました。
初回のレクチャーでは、まず和本の分類、構造、取り扱いの注意などを簡単に説明しました。中村准教授によれば、和紙と墨、糸、布などによってつくられる和本は、湿気に強く、劣化しづらい特徴があり、長期保存に適していますが、その一方で薄い和紙を使用しているため、立てて配架することを避け、丁寧にページをめくる必要があるとのこと。生徒たちは中村准教授の持参した和本を実際に手に取り、学んだばかりの注意事項を踏まえながら判読を試みました。
普段触れる機会のない資料にやや緊張しつつも、生徒たちは「実物」に接する楽しさを実感していたようです。和本の多くは「くずし字」とも呼ばれる独特の字体で書写、または印刷されています。現代人にはなかなか通読は困難ですが、一つ、二つと拾い読みできる文字を見つけるのも、和本の楽しみの一つ。くずし字をたどりながら書物をひもといてゆくと、いろいろな発見があります。
「本文を墨で書いた上で、朱色の点のようなものが打ってあります。この点は何の意味があるのですか?」
「ページのあいだに、植物の茎のようなものがはさまっていました。何ですか?」
生徒たちから寄せられたさまざまな質問にうなずきながら、中村准教授は「探究学習で大事なのは、自分なりの問いを持つこと。みなさんの質問に答えるのは簡単ですが、それぞれ疑問に思ったことを1週間かけて自分なりに考えてきてみてください。来週、答え合わせをしましょう」と答えました。
2回目のレクチャーは先週の「問い」から。中村准教授は朱色の点が打ってある和本の版面と、同じ部分を収録した現代の古典全集をコピーして配布しました。「くずし字で読めない部分もあるかもしれませんが、読めそうなところを拾い読みして、古典全集の活字と比べてみてください。内容は同じ文章ですね。どんなところに点が打ってありますか?」。生徒に質問を投げかけると、すかさず「音読するときに、間を置くところ」との答えが返ってきました。「そうです。ということは、この朱色の点は句読点なのです」と中村准教授がその答えを肯定しました。
中村准教授は以下のように呼びかけました。
「朱色の点が句読点であるのは、古典を専門にする研究者であれば常識です。先週、その場で答えてもよかったのですが、1週間、みなさんが自分で考えたり、また、先ほどのように現代の古典全集の内容と比べたりすることで、『自分なりの問い』が『自分なりの調査』『自分なりの思考』に発展してゆきます。そうやって出した答えが『自分なりの答え』です。質問して答えをもらうことだけが、学習ではありません。自分の頭で疑問を感じ、考えるということを大事にしてみてください」
生徒たちはその後、中村准教授の持参した和本を1冊ずつ手にとって、じっくりと眺めながら「自分なりの問い」を探しました。中村准教授がチューター役となって、「自分なりの問い」は教室のなかで共有し、今後の探究学習のなかで調査や考察を進めてもらいます。成果は図書展示のかたちで発表される予定です。
本学では専門的見地に立った高大接続教育を重視し、積極的に出前授業や模擬講義を実施しています。中村准教授は「人文学部においては高等学校における探究活動に深い見識を持つ教員が少なくありません。今後とも現場の先生方からの求めに応じて、『地域と繋がる大学』として中学・高校教育にも貢献してゆくことができればと考えています」と話しています。

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