地域研究センターのヒューマンサイエンスカフェ・あかし市民図書館 SDGs 講座で人文学部の鈴木遥講師が講演しました
2025/10/29
地域研究センターのヒューマンサイエンスカフェ・あかし市民図書館 SDGs 講座で10月26日、人文学部の鈴木遥講師が講演しました。演題は「江井島海岸の藻が教えてくれること―身近な環境の保全について考える―」 。以下は人文学部作成の講演要旨です。
本発表では、明石市・江井島海岸のアマモ(アマモ場、藻場)を手がかりに、人と自然の関係性、そして地域に根ざした環境保全の方向性を考察する。発表者(鈴木講師)は、神戸市兵庫区の兵庫運河で、市民団体と連携した藻場再生や干潟保全に関する実践研究を進めている。こうした現場での経験を踏まえながら、本発表では、SDGsや脱炭素社会の流れの中で注目されている藻場保全の意味を問い直す。
江井島海岸は、護岸工事などの人為的改変を経ながらも、浅瀬の穏やかな水域にアマモが自生し続けてきた場所である。地元団体への聞き取りによれば、「特別な造成や移植は行っておらず、適した環境条件のもとでアマモが自然に繁茂してきた」という。つまり、江井島の藻場は、人の営みとともに生き続けてきた自然であり、沿岸の風景における人と自然のつながりの歴史や風土を象徴するものの一つだと言えよう。
近年、全国で急速に進む藻場再生の活動は、国連のSDGs(持続可能な開発目標)や日本政府のカーボンニュートラル政策とも関連している。藻はCO₂を吸収する「ブルーカーボン」として注目され、経済的価値をもつ資源となりつつある。江井島海岸の藻場は、2022年から政府および専門団体からカーボン認証を受けている。このように、藻場が経済的価値を帯びることは、環境保全を経済成長の一要素として取り込むSDGsの理念を体現する動きと言える。
藻場とSDGsとの関連は、経済活動にとどまらない複合的なものである。例えば兵庫運河での環境教育活動では、小学生を対象に干潟や藻場の生物観察、アサリの成長調査などが行われており、生物の生態や物質循環、生物多様性といった科学的知識の伝達を通じて、自然と人とのつながりを理解する教育が進められている。こうした活動は、地域の自然環境を学びながら、自らの暮らしと結びつけて考える実践の場として機能している。
都市化が進む現代において、大阪湾沿岸は相対的に、人と自然とのつながりを残す場所となっているのではないか。この風景は、近代土木技術による護岸や埋め立てが形成したものではあるが、その中に、歴史や風土を感じる人も少なくないだろう。江井島海岸のアマモは、そうした私たちと自然とのつながりの歴史の中で生き延びてきた存在であり、その風景の記憶を残すものとも言えるだろう。
アマモが私たちに問いかけるのは、自然とどのようなつながりを持ち続け、いかにその風土を次世代へ継承していくのかという根源的な問題である。本講演では、アマモや身近な環境の保全を入り口に、人と自然の共生の文化的側面について皆様とともに考えていきたい。



