山本順一郎栄養学部名誉教授らの研究グループがブドウの抗血栓作用をラットとマウスの動物実験で確認し、研究論文をオンラインの英科学誌「フューチャー・サイエンス　OA（オープンアクセス）」で発表しました。赤（黒）ブドウと白ブドウ計45種類のうち抗血栓効果が顕著に認められたのは１種類の赤ブドウ（カベルネソービニオン種）のみで、大多数の赤、白ブドウは、むしろ血栓の形成を促進することが分かりました。国内の学術集会では既に発表した内容ですが、英文で公開するのは初めて。ワインに使われるブドウの抗血栓効果をこれだけ体系的に実験室で調べた例はありません。研究論文は、岩崎真宏・Original　Nutrition株式会社代表取締役▽村上正裕・大阪大谷大学薬学部教授▽井尻吉信・大阪樟蔭女子大学健康栄養学部教授▽清水宗茂・東海大学海洋学部准教授――との連名で作成されました。

◆フランス人はなぜ心筋梗塞などの疾患少ない
血栓を作りやすい高脂肪の食事を好むフランス人に心筋梗塞（こうそく）などによる死亡が少ないのは「フレンチ・パラドックス」と呼ばれ、赤ワインを多く飲むことと関係があるのではないかと指摘されてきました。過去の研究では、赤ワインに多く含まれるポリフェノールなどが抗血栓作用につながるとの報告もあります。山本名誉教授は「ワインは醸造の過程でさまざまな変化があり、ブドウの調査結果をその品種を使って醸造したワインに当てはめることはできません。しかしながら、『フレンチ・パラドックス』の解明には少数の動物実験の論文があるものの、疫学的な論文が大きな流れを作ってきました。私たちの論文は、ワインそのものはさておき、ワインに使われるブドウに限って検討すると、赤ワインを多く飲む習慣と血栓が形成されにくいことを結び付けるのは無理があるのではとの疑問を投げかける結果になりました」と結論づけています。

実験には野菜や果物の品種ごとの抗血栓作用を簡単に調べることができる血栓形成能測定法（Global Thrombosis Test、以下はGTTと表記）を採用し、抗凝固剤を添加しない血液を試料として血流下で血栓のできやすさと溶解しやすさを測定しました。26種類の赤ブドウと19種類の白ブドウの果実と皮を果汁にして冷凍保存したものを調べました。ブドウはワインの醸造メーカー２社と農業・食品産業技術総合研究機構（農研機構）から提供を受けました。顕著な抗血栓効果のあったのは、カベルネソービニオン種で、しかも１社の提供した赤ブドウのみでした。
　
◆血栓を防ぐ野菜や果物の品種を広報
山本名誉教授は他大学の研究者らと「抗血栓食研究会」を設立し、野菜や果物の抗血栓効果をGTTで調べてきました。脳卒中や心筋梗塞など血栓を原因とする病気を防ぐために、抗血栓性の野菜や果物の品種を選んで食べるようにすることを推奨。イチゴの「濃姫」▽タマネギの「トヨヒラ」「もみじ３号」▽ジャガイモの「ホッカイコガネ」「とうや」「ニシユタカ」▽トマトの「ピッコラカナリア」▽小松菜の「あけみ」▽ニンニク（嘉定早生）――などを「抗血栓性野菜品種」として掲載したチラシを作り、病院などで配布しています。

山本名誉教授は「血栓は多くの病気と関係があり、その予防には食生活が重要です。血栓を防ぐ野菜や果物が品種によって異なることを知っていただきたい」と話しています。

論文（英文）の掲載サイトはこちら　抗血栓食研究会のホームページはこちら