神戸学院大学

2023年度学位記授与式 学長式辞

2023/09/30

世界史に残る新型コロナ禍も収束に向かおうとしているかに見える中、本日ここに、ご来賓の皆様のご列席の下、2023年度前期学位記授与式を挙行できますことは、本学関係者にとりましてこの上ない喜びであり、ご出席の皆様には厚く御礼を申し上げます。

本日卒業の日を迎えられた学部卒業生・大学院修了生の皆さん、おめでとうございます。神戸学院大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、本日ご出席・ご参加いただいていますご家族ならびに関係者の皆様にもお祝いを申し上げると同時に、本日に至るまで今日を迎えた学生たちを支え続けてくださったことに対して、深く感謝を申し上げます。

昨年の3月、卒業生にむけてのメッセージとして、ホームページに『「歴史」に負けるな』と記しました。コロナ禍によってキャンパス生活や研究活動が制限され、不本意な学生生活だったかもしれません。しかし、歴史に残る新型コロナ感染拡大を理由に後悔することはやめましょう。どうか、過去の歴史には負けないでください。この言葉をあなたたちにも送りたいと思います。

1年半前、テレビであるドキュメンタリ―番組を見ていました。一人の女子大学生の苦闘の物語でした。彼女は世界の舞台を目指していました。その舞台で表彰台にのぼること、それが彼女の目標でした。その目的を達成するためには二つの道がありました。一つは、高い評価を得ることができる特別な演技を組み込むこと。しかし、その特別な演技を修得するためにはかなりの無理が必要だと彼女は考えます。彼女がとったのはもう一つの道です。自らの長所であるスピードを生かした演技を完璧なものとするという道です。特別な演技なしに高得点をたたき出すためには、その演技を真に完璧にする必要があります。彼女はそこに全努力を集中しました。

2月、その舞台がやってきました。彼女は見事に演技をこなしました。しかし、まだあと有力者の演技が残っています。その有力者が特別な演技に成功したら、彼女の目的は達成できません。その時、だれもが予想しなかったことが起こりました。その有力者が演技に失敗したのです。その結果、彼女に表彰台という栄誉が舞い込んできました。

見方によれば、その有力者の失敗がなかったら、彼女の表彰台はなかったとも言えます。しかし、事前に彼女がそのようなことを想定したわけではもちろんありません。有力者が特別な演技に成功したとしても、それを上回る自分の長所を生かした演技を成功させる、そうした気持であったはずです。

「計画された偶然」という言葉があります。「偶然」が「計画的」というのは、矛盾しているように思えるかもしれません。しかし、意味することはこういうことだと考えてください。彼女は自分が決断した戦略に基づき細かな演技の完成度を究極にまで高めるという計画的な努力、準備をしたからこそ、最後に表彰台という「素敵な偶然」に出会うことができたのです。

学部卒業、大学院修了を迎える皆さんが社会に旅立つにあたって、伝えたいことがあります。

一つ目。「3年」がんばる。

3年という長さには不思議な意味があることを知ってください。どんな仕事だったとしても、3年続けていなければ一つの仕事をマスターしていないということは意識しておいてほしいと思います。

二つ目。「面倒くさいな」と思ったら、それは重要だと思え。

皆さんが、これから人生で出会う様々な問題には、必ずしも答えが用意されているわけではありません。むしろ、答えがない問題を解くことが多いでしょう。そのとき、「面倒くさいな」と感じる問題ほど大事な問題だと思ってください。

大学で学んだことは必ず役に立ちます。直接役に立つ場合もあれば、問題にぶつかり考えるとき、「目に見えない風」として役に立つこともあります。面倒くさいと感じるときほど、目を閉じ、風を聞いて、しっかり考えてください。答えはその時に聞く風の中にあります。

三つ目。自分の中に「もう一人の自分」を持て。

これは二つ目と関連します。課題に答えを出す時に、しばしば「説得」という作業が必要になります。答えによって周囲の人々にも影響が及ぶことがあるからです。「説得」のためには「証拠」が必要です。自分の思いを声高に主張することが説得ではありません。「説得」とは、自分と「自分の中にいるもう一人の自分」との何往復もの対話なのだということを覚えておいてください。

四つ目。あなたたちのピュアな心、魂を大切に。

時代は変わるといいます。変わってゆく時代の中でも、実は自分の「心」「魂」は案外に変わりません。もちろん、「考え方」は変わっていきます。むしろ、変わる方が健全です。でも、今持っている君たちの中にある心や魂は、それがピュアであればあるほど変わらないものです。否、変えずに持ち続けてください。

あなたたちの人生の道は、あなたたち自身が切り開いていくものです。参考にすべきマップはありますが、そのマップは経路を教えてはくれません。道のりは自分で決めてください。そしてその道でぜひ「素敵な偶然」と出会ってください。「人生で一番素敵なことは偶然起こる」。覚えておいてください。

以上四つをあなたたち皆さんへの餞の言葉とします。

最後におねがいです。皆さんは、本日から約9万人の神戸学院大学同窓生の仲間入りをします。神戸学院大学にとって、同窓生はその宝であり、財産です。今日からはその同窓生の一人として、神戸学院大学を応援してください。そして少し余裕ができたら、ぜひキャンパスを訪ねてあなたたちの成長を聞かせてください。私たち教職員にとって、あなたたちの成長した姿を見ることほど幸せなことはないのです。

改めて卒業おめでとう。君たちが社会で生き生きと活動している姿が見られることを心より期待しています。

2023年9月30日
      
 
神戸学院大学学長 中村 恵