神戸学院大学

学長式辞

2024/03/25

世界史に残るであろう新型コロナ禍も収束し、コロナ前の日常が戻ってきた中、本日ここにご来賓の皆様のご列席の下、2023年度学位記授与式を挙行できますことは、本学関係者にとりましてこの上ない喜びであり、ご出席の皆様には厚く御礼を申し上げます。
本日卒業の日を迎えられた学部卒業生・大学院修了生の皆さん、おめでとうございます。神戸学院大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、本日ご出席・ご参加いただいていますご家族ならびに関係者の皆様にもお祝いを申し上げると同時に、本日に至るまで今日を迎えた学生たちを支え続けてくださったこと、また大学への変わらぬご支援を賜りましたこと、深く感謝並びに御礼の意を表したいと思います。

2020年2月、突然始まった新型コロナ感染症の拡大。その当時この不気味な感染症によってその年4月の入学式を挙行することはかないませんでした。入学した途端、学生にとっても、そして教員にとっても不慣れな遠隔授業が続く日々。「近くのコンビニに行く以外、下宿から一歩も外に出ていません。どうかなりそうです」。Zoomの画面越しに聞いた、1人の下宿学生からの悲痛な叫びをまざまざと思い出します。
新型コロナ禍。それさえなければ、もっと違った学生生活を送ることができたのに。そう思う人は多いかもしれません。しかし、過去の時間は取り戻すことができません。あなたたちの目の前にあるのは未来という時間だけです。未来に広がる歴史だけを見つめ、どうか過去の歴史には負けないでください。

今年度2023年度のプレリュードは、ワールド・ベースボール・クラシックの日本優勝だったといっても過言ではないでしょう。決勝九回表ツーアウト、大谷翔平投手がアメリカ大リーグでは同僚であるエンゼルスのトラウト選手からスイーパーで奪った三振のあの奇跡的な偶然の瞬間。実は、日本監督であった栗山英樹さんは、その瞬間が最初から見えていたと語っています。
栗山監督は決勝でアメリカに勝つために、様々な人から助言をもらっています。その中で最も重要だった言葉が「逆算」という言葉でした。決勝でアメリカに勝つためには準決勝をどう戦ったらよいのか、準決勝で勝つためには準々決勝でどのように勝てばよいのか、そのためにはグループリーグをどのように戦っていけばよいのか。そのためにはどのような選手を集めればよいのか。すべてが「逆算」であったといいます。
その「逆算」は、すべてあの瞬間のイメージから出発をしています。あの奇跡的な偶然の瞬間は、緻密にそして計画的に考えられた「逆算」から作られたもの。素敵な偶然は、「逆算」から起こったのです。

皆さんの社会への旅立ちにあたって、四つのことを伝えたいと思います。
一つ目。「3年」がんばる。
3年という長さには不思議な意味があることを知ってください。どんな仕事だったとしても、一つの仕事について、1年目は手探りです。2年目、少し慣れてきます。そして3年目に入ると、2年間の経験や知識をベースにして自らの工夫もできるようになってきます。それでようやく一つの仕事をマスターしたかなと思えるようになります。
もちろん、どうしても仕事がつらく、あるいは自分に合っていないと考えたときは、1年目、2年目でもやめて構いません。でも、その時でも、3年続けていなければ一つの仕事をマスターしていないということは意識しておいてほしいと思います。
二つ目。「『面倒くさい』と思ったら、重要だと思え』。
皆さんが、これから人生や職場で出合う様々な問題には、必ずしも答えが用意されているわけではありません。そうした問題を考えるとき、「面倒くさいな」と感じる問題ほど大事な問題だと思ってください。
大学における学びは必ず役に立ちます。ただそれが、目に見える形で現れる場合もあれば、そうではなく問題にぶつかった時にいろいろ考えるときの「目に見えない風」として役に立つこともあるのです。面倒くさいと感じるときほど、目を閉じ、風を聞いて、しっかり考えてください。
三つ目。「自分の中に『もう一人の自分』を持て」。
問題の解決のためには、しばしば「説得」という作業が必要になります。出す答えが自分一人のためだけではなく、家族や職場の同僚など他人にも影響することが多いからです。自分の思いのみを声高に主張することが説得なのではありません。
その時、自分を疑う「もう一人の自分」をどこかに常に置いておいてください。「説得」とは、自分と「自分の中にいる他人」との何往復もの対話が生み出すということを覚えておいてください。
四つ目。あなたたちの中にある最もピュアな心、魂を大切に。
時代は変わるといいます。社会に出てからも、学ぶことは多くあり、新たな知識も身に着けていき、「考え方」も変わっていきます。むしろ、変わる方が健全です。でも、君たちの中にある心や魂は、それがピュアであればあるほど変わらないものです。いや、変えずに持ち続けてほしいと思います。
あなたたちの人生の旅に参考にすべき地図はありますが、その地図は目的地への経路を教えてはくれません。道のりは自分で「逆算」して決めてください。そしてその道で「偶然」という名の町に出合える準備をし続けてください。「人生で一番素敵なことは偶然起きる」。そして、「素敵な偶然は逆算から起こる」。覚えておいてください。

最後におねがいです。今日からは同窓生として、神戸学院大学を応援してください。そして、社会に出て少し余裕ができたら、気が向いた時にぜひキャンパスを訪ねてください。
「お元気ですか? 寒い日が続きます、ご自愛ください。私はなんとか元気にやっております。働くことが少し楽しくなってきました。また会いに行きます!」
私たち教職員にとっては、あなたたちからこのようなメッセージをもらえる時ほど幸せなことはないのです。
改めて卒業おめでとう。君たちが社会で生き生きと活動している姿が見られることを心より期待しています。

2024年3月25日      
 神戸学院大学学長 中村 恵