神戸学院大学の歩むべき未来を、
新旧学長が語り合う

対談03
「後世に残る大学」に向け、
さらなる一歩を
神戸学院大学のモットーは、「後世に残る大学」です。実現させるため、今後さらに力を入れていくべきこと、変えていくべきこと、また逆に、大切に持ち続けていくべきことは何でしょうか。新旧学長からのメッセージです。
文理にとらわれない共通の基盤を持ったうえで、専門性を深める学びを
中村:さらに強めたかったのは、文理融合や文理横断の取り組みです。本学は文系理系10学部からなる総合大学で、共通教育科目などの横断的教育を重視し、部分的には文理を超えた学びを展開しています。IPE(専門職連携教育)として、薬学部・栄養学部・総合リハビリテーション学部・心理学部と連携協定先の神戸市看護大学からなるプログラムを運営し、外部からも非常に高い評価をいただいています。しかしまだ一部でとどまっています。言うは易く行うは難しなんですけれども、もともと大学は文とか理とかに分かれず、学びたい人が集う場所であったはずです。専門のベースになる部分に文理は関係ないはずだという立場に立って、もっと学生たちを育てていく方向性をとることができたらいいなと思っています。
備酒:おっしゃるとおりです。先ほどマーケットインという話をしましたが、それは迎合することとは別のものです。「ワイワイ楽しそうだから行きたい」、これは大学じゃないと思います。学生たちのなかには、内面の素材にはとても良いものを持っていながら、それを活かせない、あるいはうまく表出できない人もいます。そんな彼らには大きな伸びしろがあるという期待があるからこそ、幅広い学問領域に触れる機会はぜひつくりたいです。
中村:社会がどんどん変化していくなかで、他の専門分野のことも少しは知っておかないといけないことが増えてきている気がします。それが一番、まざまざと出てくるのは災害時です。いろいろな専門の知識を総動員することにならざるを得ません。
最近では文理融合分野としてAIやデータサイエンスがよく取り上げられますが、それ以外の現場でも何か課題があったとき、自分の専門以外の知識に目配せができるように育っていないと、適切に解決できないかもしれない。そういった面でも、文理を超えた学びがあったうえで、しっかりと専門性を追究できるプログラムが本来的には望まれるんじゃないかと思います。
エンジニアの育成に特化しつつも、リベラルアーツの部分を重視してプログラムを組んでおられる大学について知り、自分の考えに近いものを体現されていると感じました。難しいとは思いますが、そういう方向に向かっていくことが、実は「後世に残る」ということの一つになるのではないかというのが今の私の思いです。
備酒:いくら理系のエンジニアであっても、倫理学や哲学に触れておく必要はあるだろうと強く思います。先日、大学都市神戸産官学プラットフォームで、厚生労働省の講師が、「皆さん、介護・医療をどんな人に担ってほしいですか」「小学校のクラスにそんな人は何人いましたか」と投げかけられ、素晴らしいことをおっしゃるなと思いました。いくら専門性に長けていても、「この人には任せたくない」と思われるような人間であってはいけない。その部分も教育で培えるものでしょうし、本来はそれがあってこそすべての学問だと思っています。
教職員が自由に提案できる風土を育て、学生とともに成長できる大学に
備酒:私が今後どうしてもやりたいのは、学長選挙の所信表明でも一番目に書いた、「教育職員・事務職員の誰もが、物心両面で安心して働き続けられる大学」の実現です。これは教職員にとって楽な環境をつくりたいというよりも、だからこそ大学について真剣に考えてほしいという願いです。具体的に、職員提案の機会をつくることも考えています。部局を超えて、やりたいことを書いてもらい、みんなで大学をつくっていきましょうということは、ぜひ進めていきたいです。
文理融合と同じで、教員と事務職員、それぞれ専門性は違いますけど、「学生のために」という目標は一緒です。みんなで話し合い、みんなで実行すれば一番早い。中村先生は常にそういう姿勢でやってこられたので、そこも踏襲していこうと思っています。
中村:ある種、過激なぐらい、大学の運営そのものを事務職員がリードしてもらって構わないと、お話ししたことがあります。どういう学部にしようとか、学生に対してどういうことを行おうとか、事務職員が発案・提案していく形がもっと増えていいんじゃないかと思っています。教員はもちろん教育も一生懸命やりますが、研究も大事ですし、その周りのことはなかなか見えるものではありません。逆に事務職員も、教員の教育や研究のことを十分に知っているかというと、必ずしもそうじゃない。事務職員が何かを動かそうとすると、どうしても教員を説得する必要が出てきます。その際、教育現場や研究をある程度は認識し、教員の在り方をわかってもらった方が、もっとスムーズに進むのになと思うことがありました。

備酒:相互の理解は本当に重要です。学内で物事を進めていくには、事務職員の方々からの提案が欠かせないと感じます。
中村:教員が誤解している場合も部分的にはあると思うので、事務職員が発信力や説得力をつけてもらえると、より早く着手できると思うんですよね。先ほど述べた総合型選抜の件も、私自身、当初は勘違いしていたという面がありましたから。なかなか教員はウォッチしないので、事務職員が情報を収集、提供し、状況によっては教員を説得する材料に使ってもらえたらと。説得でなくても、オープンに情報や分析内容を共有してもらえると、大学全体として早く動けると思います。
備酒:逆に我々教員も、緊張感がないと事務方の皆さんに見捨てられかねませんからね。ただ、テンションばかり高い緊張感なんて何の役にも立ちません。みんなが働きやすい職場にすることが、結局は学生のため社会のためになるだろうと考えています。
中村:その通りです。民主的であることが、神戸学院大学の一番の長所だと思っています。いつどこで何が決まったか、誰にでも分かる透明性が保たれている。働いている現場の人間からすれば、不透明であるということが一番、労働意欲を削ぐんじゃないか思いますしね。極端な場合、他大学では理事長の鶴の一声でガラッと方針が変わることもあると聞きますが、本学ではあり得ません。もちろん理事会が最終決定者権を持つんですけれども、議論を経て決まったことを非常に尊重してもらえています。その分、責任を持って決めていくことが、教職員にも求められている。最終的に非常に民主的なルールで物事を決めていることは、絶対に壊してはいけないと思います。

備酒:私は今までいろいろな職場を経験してきましたが、働く者にとってこれほど自由な職場はありませんでした。自由な環境があるんだから、そこはもう中村先生がおっしゃったように、みんなで考えましょうよ、その機会がまだ希薄であると言うのであれば、つくりましょうよというのが、これからの私の進め方です。
中村:私の思いは、日々の仕事の中でも、今もお伝えをしたことなので、それを絶対に守ってくださいとか、絶対そこから外れないでくださいなどとは申し上げるつもりはありません。備酒先生のプランや哲学、考え方もおありになるので、そこは先生の個性で手腕をふるっていただきたいと思います。少なくとも今まで申し上げてきたようなことに関して、全く違いますという話ではなかったので、そこは引き続いて尊重して運営を進めていただけると嬉しいですね。
備酒:私は副学長として2年間お仕えしてきましたが、中村先生は学長として、それは歯を食いしばるほど大変なこともおありだったと思います。それを全部逃げずに取り組んでこられた。そういう方だからこそ、私は中村先生からの指示を断ったことは一度もありません。そういう学長に私もなりたいです。
最後に、教職員の皆さんには「話をしましょう」と、また「皆さんのお力をどうぞ存分に発揮してください」と申し上げたいです。