神戸学院大学の歩むべき未来を、
新旧学長が語り合う

対談01
魅力を広く伝え、
地域とのつながりを深める
中村前学長が在任期間中、とくに重点的に取り組んだのは、どのようなテーマだったのか。その間、神戸学院大学はどのように変化していったと、備酒学長は捉えているのか。それぞれの視点から振り返ります。
18歳人口が減りゆくなか、
神戸学院大学のアピールが大きな課題
中村:まず学長に就任したときに大きなテーマだと感じたのは、高校生に対するアピールでした。一つは大学全体を高校生に見せるという広い意味での広報です。入学・高大接続部門でも広報部門でもいろいろと考え、今までとは違う見せ方を工夫していただいたと思います。ただ、広報というのは、効果がどの程度あったのか測りがたい。最終的には志願者の動向と分析からある程度、推し測るしかないのでしょうが、1~2年やって終わりでは通じないでしょう。予算に限りはあるものの、対象は毎年替わっていくわけですから、今後も続けていく大きなポイントになるだろうなと思っています。
備酒:広報について中村先生は、「大学が訴えたいことを出す」というプロダクトアウトではなく、「受験生たちが何を、どんな情報を求めているのか」が常にあるマーケットインを徹底されていた印象です。これは必ず踏襲しないといけないことだと思っています。2年間、副学長としてそばにおりましたが、中村先生は本当にお話が素晴らしいです。一番感じたのは、副学長になって初めてご一緒した附属高等学校の生徒に向けた説明会のときです。校祖・森わさ先生のお話をなさったときの姿は、今でもありありと思い出します。その根底にうかがえるのは中村先生ご自身の教育への熱意です。学校や学生がお好きなのだということが伝わってきました。

中村:そう言っていただけるとありがたいですね。アピールのもう一つは、入試の仕組み、制度を変えること。執行部の中でもかなり議論してもらった部分です。受験生の金銭的負担を減らすために入学金を減額したり、公募制推薦入試の仕組みを変えたり、一般選抜入試の判定において、自身の得意とする科目を生かせる制度を導入したりと、少しずつ変えていきました。また、以前は一部の学部で行っていたAO(アドミッションズ・オフィス、以下AO)入試を、総合型選抜入試という言葉に統一して発展させ、2026年度入試からは全学部で取り組んでもらうことにしました。
備酒:総合型選抜入試について、中村先生は当初、肯定的に受け止めておられなかったのが、情報やデータに基づいて、それに価値を見いだされてからは果断に動かれましたよね。これも見習うべき姿勢だと感じています。全学部で実施というのは大学組織の中ではなかなか言いにくいことだったと思いますが明確におっしゃった。強引にではなく、皆さんを動かす手腕が見事でした。
中村:もともとAO入試について、アメリカの大学ではアドミッション・オフィスによる書類審査と面接で入学者を決定する制度がある、という形で知ったため、総合型選抜の制度がそれに近いものだとしたら不要だと考えていたんです。しかし総合型選抜ではさまざまな選考方法で、意欲ある学生の入口になるということがわかり、考えを改めました。
備酒:私が所属する理学療法学科では、昨年度、総合型選抜入試で入学した学生全員が上位の成績を維持しています。このことから意味のある選抜方法だと思います。ただし、そのためにはアドミッションポリシーに沿った適切な選考を行うことが必須で、そのための検証と検討は続けて参ります。
中村:心強いお言葉です。ほかにも新しい特待生制度づくりを進めるなど、学生の支援も含め、受験者を増やして定着してもらおうという施策を3年間考え続けてきたのが、一番大きな取り組みだったかなと思います。18歳人口が減少しているので受験者が減るのは当然なんですけれども、それ以上の圧力を各現場でも感じています。学生がいないことには大学が存続しません。神戸学院大学をしっかりアピールして少しでも良い学生を確保することが大学の存立にとって一番の命題ですからね。
「地域の住民・産業界と共に進化する大学」をめざすために
中村:2023年に発表した長期ビジョンの最も重要なコンセプトは「地域と繫がる大学」でしたが、そもそも「地域の住民・産業界と共に進化する大学」をめざし、地域に貢献する人材を育成したいというのは、2007年に制定した大学憲章でも既に謳っています。教育、研究、社会貢献、すべての局面において地域とつながっていくことをより強化したいと発信しましたが、それに応えていただけたプログラムが多かったのは、非常に嬉しく思っています。
備酒:中村先生のご専門が関係するのかもしれませんが、産官学の連携は、中村先生の学長時代にかなり加速したと思います。産学連携の取り組みを担当する副学長を中心にしっかりと地に足のついた具体的なものになったと感じます。
中村:神戸市の呼びかけにより、市内に拠点を置く大学等が設立した「大学都市神戸産官学プラットフォーム」も、2024年度から本格的に稼働しました。大学や企業等がタッグを組むことによって、学生の交流を広げたり、地域・社会貢献を進めたり、産業界と連携したりする基盤として、さまざまな事業を行っています。本学は医療福祉系を一つの大きな核として、備酒先生のプロデュースで医療・介護事業所の方を対象にしたリカレント教育のプログラムをつくっていただき、多くの方が参加されています。
備酒:「高齢社会を支える医療・介護事業の経営持続性と発展性を担う人材の育成」というプログラムを、他大学との共創により開発し開講しました。仕事に関する私の考えの一つに、「巧遅は拙速に如かず」があります。もちろんしっかり考えたうえで、という前提はありつつも、タイミングを逃さず実行していかなければ事は進みませんからね。だから今回の企画案も応募を決めた翌日には企画を書き上げ、そこから練り上げていきましたが、さまざまな人脈にも恵まれ良いものになったのではないかと思います。

中村:プラットフォームで教員という資源を使ってもらいたいというのは、準備会議のときからずっと伝えてきました。ある業界や地域の課題があるときに、大学を越えて研究者を拠出し、政策提言するのは、プラットフォームの中でできることでもあります。
ほかにも神戸市からは、次世代の農家を育てる「神戸ネクストファーマー制度」のプログラムを考えてくれないかとお声がけいただいたので、農学研究科出身だった現代社会学部の菊川裕幸先生をリーダーに、2023年度からスタートさせました。経営学部、栄養学部からも先生方に講師として登壇してもらい、JA兵庫六甲のご協力で講義と実地の研修をミックスさせました。このプログラムを修了した多くの方が意欲をもって農業に携わられています。プログラム自体にもお褒めや感謝の言葉をいただき、社会貢献に向けて大きな出発ができました。
備酒:地域と繫がるという面でも、中村先生の仕事はとても勉強になりました。これだけの規模の大学ですから、実施に当たっての学内外の調整には大変なご苦労もあったことと思います。中村先生からは、事業への熱意と全体を見たバランス感覚など、たくさん学ばせていただきました。
中村:学長になった当初は担当部署のメンバーとともに、会議や打ち合わせの場に次から次へと出向いたんですけれども、どういう連携をしているのか認識できるようになると、よりよい関係を築くにはどうお付き合いするべきか、かなり気を遣うようになりました。連携先の方々も、本学とどう付き合っていこうかと考えてくださっているので、より効果的な連携ができるよう、学内で事前に話を聴き、ときには提案をしながら関係を深めていきました。連携する際、動いてくれる教職員がやりやすいようにというのも、随分気を遣いましたね。
備酒:私のキャリアは民間病院と公立病院の理学療法士から始まりました。その後、病院から離れ、兵庫県の職員として、過疎と高齢化が進む但馬地域の福祉向上プロジェクトを担当しました。プロジェクトは斬新なもので、国からも注目されましたが、私自身に根本的な勉強が足りていないことに気づき、大学院の博士課程に進み知識を深めることにしました。その後、2005年の総合リハビリテーション学部開設とともに本学に赴任し、そこから研究者としての道が始まりました。つまり中村先生とは全く異なり、アカデミズムの経験は極めて希薄なんですね。私の役割は人を繫いでいくことだと認識しています。まだまだ至りませんがこれまで進めてきた歩みを着実に前に進めていきたいと思います。