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組織形成における
血管と幹細胞の相互作用を
解明する研究
薬学研究科
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組織発生・老化研究プロジェクト

臓器特有の血管構造を追究し
病気や老化現象の解明へ。

私たちの身体の中には、総延長約10万kmもの長さの血管が張り巡らされ細胞に酸素と栄養を与えています。血管は、生物が成長していく段階において重要な役割を発揮します。受精卵から始まって細胞分裂を繰り返し、ぞれぞれの臓器ができあがる過程で血管がその活動を支え成長を促すのです。

各臓器を形づくる際の土台となるのが、幹細胞と呼ばれる細胞。神戸学院大学薬学研究科の水谷健一特命教授と、その研究グループは、血管が発光し細胞内をリアルタイムに観察できるGFPマウスを用いて、脳を構成する神経幹細胞の周辺を詳細に解析。大量の細胞を生み出す神経幹細胞の周辺にのみ存在する特殊な突起を持った血管先端細胞が神経幹細胞に接触することで、細胞分裂が促進されることを世界で初めて突き止めました。

「今回発見された脳の血管先端細胞には、細く伸びる足のような突起がついています。この突起内には、不思議なことに血液は通っていません。本来、血液が通ることで細胞の活動が保たれているはずですが、脳ができあがる段階においては、むしろ神経幹細胞周辺に“酸素が届かない”ことで細胞分裂を活性化させることが分かったのです」と、水谷特命教授は説明します。

今回の研究における、神経幹細胞の周りにだけいる血管先端細胞のように、各臓器の細胞ごとに規則的な形をした血管構造が存在することが分かってきました。しかも、その血管構造の形や性質は各臓器でまったく異なり、それぞれの臓器や組織の形成に強い影響を与えていることが分かってきたのです。その血管構造が破綻したときに、老化は始まるのではないか。水谷特命教授は、こうした仮説のもと研究を進めているところです。

「今回の発見で重要なことは、血管の大切さと多様性を確認できたことでしょう。『人は血管とともに老いる』。今から100年以上前、アメリカのウイリアム・オスラー博士が残した有名な言葉です。人は年をとるとともに毛細血管が減っていく。脳や皮膚にある血管が加齢とともに、どのように組織内で変化し、これが老化や病気の発症・進展といかに関わっているのか。その解明が次の目標です」。

脳をはじめ、肺や胃腸、心臓など、あらゆる臓器が成長する過程において、血管は、それぞれの臓器によって厳密に設計された独自の“型”を形成しながら伸長していく。水谷特命教授らのグループは、脳や皮膚組織における血管の規則性を発見。老化現象においては、その”型”が劣化することがカギになると仮説を立てて研究を続けています。

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