学びのなかでの取組例フロントライン

地球環境問題を
異なった視点、立場から追究

研究事例 その1
“衣食住”を取り巻く環境における
有害物質を検索し生体への影響を探る

薬学部薬学科 山﨑 裕康 教授

明石川など大学近隣河川の水質調査結果を
マップにまとめて公表

山﨑教授は、衣食住を取り巻く環境、つまり、人間が生活をしていく上で欠かせない大気や水、食物中の有害物質を探し出し、そうした物質が生体に与える影響についての研究に取り組んでいます。通常、河川の汚れを測定する汚染指標としてBOD、CODといった評価項目が挙げられますが、山﨑教授を中心とした神戸学院大学地域研究センターのチームは、水質の変化を如実に反映する水中のイオン成分の変化に注目。河川に廃棄物処理場や下水処理場の排水が流入すると、流入した付近の水に含まれるイオン成分の構成バランスが崩れることを確認しました。こうした現象は、汚染排水が流入したすぐ後に生じるため、長期間測定しないと判別できない現行の評価項目に比べて、短期間で河川の汚染が分かるという利点があります。現在、山﨑教授の研究チームでは、このイオン成分を河川における汚染指標の評価項目として適用可能であることを裏付けるため、より多くのデータ収集とその解析のための実験を重ねています。また、同じ研究室の山口孝子助教が中心となって、ポートアイランドキャンパスC号館と有瀬キャンパス4号館の屋上に設置された機器で空気中の粉塵を収集。大気粉塵中に含まれる有害物質を取り出し、その種類や濃度を測定する実験も行っています。

C号館屋上に設置され大気中の粉塵を集めている「ハイボリューム・エア・サンプラー」
C号館屋上に設置され大気中の粉塵を集めている
「ハイボリューム・エア・サンプラー」

また、山﨑教授は、食品の安全を維持するために立ち上げられた国際協力機構(JICA)のプロジェクト「食品の安全性確保に関わるJICA外国研修員国内研修コース」のリーダーとしても活動しています。この事業は、発展途上国における食品の安全性確保水準の向上を図ることにより、日本への輸入食品の安全性確保はもとより、全世界共通の食品衛生基準作りのためのプロジェクトで、今年で10年目を迎えました。食品に混入された有害物質の計測方法や検査方法の知識が乏しい発展途上国の省庁管理職や技術者たちを日本に招き、4ヶ月間に渡り実習や講習会を実施しスキルアップと最新知識を修得してもらうというものです。これまで、40カ国以上から技術者が参加し、帰国後自国における技術レベルの向上に貢献しています。輸入食品に含まれる残留農薬の問題をはじめ食品の安全性がクローズアップされている昨今、プロジェクトの必要性はますます高まっており、毎年、多数の国から参加希望が寄せられています。その他、山﨑教授の研究室では、企業などではすでに行われている一方、国立大学でようやく作成が義務化されつつある環境報告書のデータや資料を収集。本学の環境報告書作成に向けての準備作業に着手し始めたところです。

山﨑 裕康 教授からの
エコ・メッセージ

薬学部薬学科 山崎 裕康 教授

現在、特に地球温暖化防止のためのエコ意識の高まりを受けて、企業や公共機関は非常な努力をして二酸化炭素削減を行っており、その結果、これら団体・組織のエネルギー消費量はかなり減ってきています。しかし、個人レベルのエネルギー消費量は、逆に増えているのが現状です。このような現象は、個人が環境問題に明確な判断基準を持てないことが原因の一つであるように思われます。例えば、電気のスイッチを1回切るとどのくらい二酸化炭素排出量が減るのか。逆に、空き缶をポイ捨てすれば、どのくらい地球環境に負荷がかかるのか―。そうした数値を個人の負担や利益として把握するのがきわめて困難なため、一人ひとりが自分に関わってくる問題だと認識しにくいのです。そこで、それぞれが「自分ひとりくらいはいいだろう」と考えてしまうわけで、結果的に、“ちりも積もれば山となる”となり、個人のエネルギー消費は増大し続けているのです。私は日頃から、学生たちにゴミの分別の徹底や、お湯の流しっぱなしは止めること、電気はこまめに消そうなどを機会があるごとに言っています。ちょっとした気配りの積み重ねが、地球環境を救うことになるということを自覚してもらうことが一番大切だからです。個人の意識が変われば環境問題はほぼ解決できるのではないでしょうか。

研究事例 その2
日本では歴史の浅い「環境法」を根付かせ
環境問題に対する意識を高めたい

法学部法律学科 黒坂 則子 講師

行政法を専門としている黒坂講師は、土壌汚染に関する法律の整備が進んでいるアメリカの環境規制法に触れるなかで、わが国においてもその必要性を深く感じ、環境(行政)法の研究を始めました。「環境法」とは、そうした名称の法律があるわけではなく、日本においては1993年に制定された環境基本法を頂点とする法律の総称を指します。環境法の基本的な理念を定めている環境基本法をベースに、大気、水質、土壌といった各分野の法律が定められています。とはいえわが国では、例えば2002年に至って「土壌汚染対策法」がようやく制定されるなど、法における環境問題意識は低いままでした。しかしながらわが国においても、2006年の新司法試験で環境法が選択科目として選定されるなど、日本でもようやくその重要性が認められるようになりつつあります。黒坂講師は、こうした日本の環境法を取り巻く状況を少しでも好転させるため、多くの国内外の研究者と連携しながら研究活動を行っています。なかでも、日米の環境規制の比較を研究対象とすることによって、より良い環境(行政)規制のあり方を模索しています。

黒坂講師が担当する「比較環境法」の授業では、原則的な共通概念を横断的な視点で解説した後、環境法に該当する法律を個々に取りあげています。黒坂講師は、学生に環境問題を自分のこととして受け止めてほしいとの願いから、具体的な事案、例えば4大公害訴訟や最近ではアスベストの問題などのビデオを学生に視聴してもらうなど、視覚的に訴える方法を取り入れた授業を積極的に行っています。また、環境問題は非常に今日的なテーマであるため、新聞各紙に掲載されることも多く、時には授業の題材として紹介するなどしています。また学生には自らの興味ある新聞記事について、レポートを提出してもらっています。その他、黒坂講師は、学外に出向いてさまざまな自治体の審議会委員を務めるほか、企業やNGO・NPOといった外部組織の勉強会や講習会に招かれるなど外部組織との活発な活動や交流を行い、環境法の普及・啓発に力を注いでいます。

黒坂 則子 講師からの
エコ・メッセージ

私が学生だった10年前までは、環境問題に関する法律はあまり研究が進んでおらず、環境法という講義すら存在しない状態でした。最近になって、ようやく日本においても環境法を専門的に扱う研究者も増えつつありますが、未だ少数です。ただ、逆に言えば、これまで研究されていない分自由な姿勢で取り組める上、近年特に注目を集める分野ということで、非常にやりがいのあるテーマとも言うことができます。環境法を考える上で難しいのは、法律で厳格に(事前)規制しすぎても企業の営業活動の自由を妨害してしまう恐れがあるということです。一方で、事前の規制を行わなかった場合、例えば、土壌汚染区域にマンションが建築されたとすると、今度は住民らが取り返しのつかない被害を受けることになるでしょう。このように、環境リスクを巡って立場の違う者同士が関わる場合、法律でどの程度規制するのか、どのラインで折り合いをつけるかということを、事業者、行政、市民、そして研究者それぞれの立場から意見を述べ合う場を作ることが重要となります。こうした話し合いを「リスクコミュニケーション」といいますが、リスクの不明確な環境問題に関わる案件の場合には、特に必要な作業となります。環境問題に関する事件を語る際、多くの者は“自分には関係ない”と思いがちです。しかし、例えば、汚染地域だということを知らずに購入した土地で何らかの有害物質による被害を受けた第三者がいたとすると、現行のわが国の土壌汚染対策法では、土地所有者が第一義的な責任を負わなければならないなど、実は、誰でも事件の当事者となりうるのです。このように環境問題を自分自身が関わるかもしれない身近なこととして捉えて欲しいと思っております。最後に、授業や研究を通じて、地球環境保全の一助を担うことができればと考えています。

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