中国語を学び、歴史を知り、人と出会う言葉の先にある中国を知る学びin Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 中国語を学び、歴史を知り、人と出会う言葉の先にある中国を知る学び(千田 豊/グローバル・コミュニケーション学部 グローバル・コミュニケーション学科 中国語コース 講師)
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 中国語を学び、歴史を知り、人と出会う言葉の先にある中国を知る学び(千田 豊/グローバル・コミュニケーション学部 グローバル・コミュニケーション学科 中国語コース 講師)

『三国志』好きだった少年が「皇太子」を研究するまで

私はこれまで、中国の魏晋南北朝時代から隋唐時代にかけての皇太子や皇位継承について研究してきました。現在は、皇太子そのものの研究に加えて、皇太子教育や皇帝家の問題にも取り組んでいます。また、2025年に神戸学院大学に着任してからは、神戸と華僑・華人の歴史についても研究を始めました。

もともと私は子どもの頃から歴史が好きで、よく親と時代劇を観ていました。その後、歴史ゲームに夢中になり、小学6年生の頃に横山光輝の『三国志』を読んだことをきっかけに中国の歴史に興味を持つようになりました。中学生の頃に三好徹の『興亡三国志』や北方謙三の『三国志』も愛読し、その後も三国志の小説ばかり読み続け、自然と大学でも三国志を勉強したいと思うようになりました。

研究者の道に進むきっかけになったのは、神戸学院大学の人文学部1年次生のときに大原良通先生と出会ったこと。新入生歓迎会で「三国志を勉強したい」と話したところ、「漢文を一緒に読みましょう」と誘っていただきました。その出会いがあったからこそ今の私がいます。大原ゼミで学び、大学院への進学を考えるようになると、「こういう本を読むといいよ」と、さまざまな中国史の本を紹介してくださいました。そこで、古代中国の官僚制度について書かれた本を読んでいたとき、皇太子の身の周りで仕える「東宮官」という人々についての記述に目が留まりました。ところが、そこでは東宮官についての説明はほとんどされていませんでした。「ここは、あまり研究されていないんじゃないか。」そう思ったことが皇太子を研究する出発点になりました。大学の卒業論文では東宮官について取り上げ、大学院では時代やテーマを広げながら、皇太子を取り巻く制度や人々について研究を続けました。2021年には、博士論文をもとに『唐代の皇太子制度』を出版しました。中国の唐代を中心に、皇太子の位置づけがどのように変化したのかを考察しています。

研究を進めるなかで面白いと感じることは、皇太子を通して当時の人々がどのような皇帝を理想としていたのかが見えてくること。皇帝本人に対して「こういう皇帝になってほしい」と要求することは難しいですが、皇太子にはそれが可能です。その時代の人々が皇太子にどのようなことを学ばせ、どのように成長してほしいと考えていたのかを研究することで、理想とされた皇帝像も見えてくるのではないかと考えています。そうした史料を読みながら、皇太子ひいては皇帝が時代によってどのように捉えられていたのかを考えていく。そこに面白さを感じています。

言葉の背景にある歴史と文化から、自分と相手を知る

語学と歴史は非常に密接に関係しています。語学は好きだけれど、歴史は苦手という学生も実際にいますが、言葉を深く学んでいくと、その背景にある歴史や文化を知ることが大切だということが次第にわかってきます。

例えば、日本人同士なら「織田信長」「関ヶ原」「坂本龍馬」といった言葉だけでも、それぞれの背景やエピソードをある程度想像できます。また、映画や音楽、アニメなど、同じ文化を共有していることで、会話が自然に通じることもあります。それと同じように、中国語を学ぶのであれば、中国の人たちが共有している歴史や文化を知っておくことが言葉を理解するうえでも大切なのです。それだけでなく、「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」や「矛盾」、「春眠暁を覚えず」など、日本でもよく知られている言葉にも中国の故事や歴史に由来するものがあります。中国の文化や歴史、言語を知ることは、中国を知るだけではなく日本をより深く知ることにもなると言えるでしょう。

歴史は、高校までの教育の影響もあり、暗記するものだと思っている学生が多いかもしれません。しかし、歴史は単なる暗記科目ではなく、歴史を知ることで自分がどのような背景を持っているのか、そして相手がどのような背景を持っているのかを考えることができる。それがコミュニケーションにも役立つのだと思います。

私自身、大学生の時に中国へ留学した経験があります。最初に行った天津では、現地の人たちと交流することがとても楽しかった。「遊んでいた」とも言えるかもしれませんが、私にとっては、現地の人と話したり、一緒に過ごしたりすること自体が勉強でした。その後、修士課程の時に武漢大学にも留学しました。そこで出会った研究者の方々とのつながりは今でも続いています。そうした経験があるからこそ、学生にも「人」とリアルな交流をしてほしいと思っています。

今は翻訳機能やAIが発達し、言葉の違う人同士でも簡単にコミュニケーションをとれるようになりました。ただ、技術がどれだけ進んでも、言葉の裏にある機微やニュアンスまで理解するということは簡単ではありません。直接その言葉を学び、相手とやり取りすることでしか得られないものもあるのです。

中国についても、知らないと不安になったり、怖いと感じたりすることがあるかもしれません。でも、知っていくと、面白いところが見えてきたり、好きなところが出てきたりします。少しでも中国語を話して相手に通じたという経験があれば、それが自信にもなります。だからこそ、言語だけを学ぶのではなく、その背景にある歴史や文化も含めて学んでほしい。そう思いながら学生と日々向き合っています。

神戸に根付く華僑・華人文化を、学びの場に

本学で教えるなかで私が大切にしていることは、教室で学んだことを実際の人や文化、街と結びつけていくということ。神戸には古くから華僑・華人の文化が根付いています。南京町があり、舞子には孫文記念館もあります。こうした歴史や文化は神戸ならではのものですが、神戸に住んでいる学生でも意外と知らないことが多くあります。せっかくそうした文化に触れられる場所に本学があるのですから、コースも学部も関係なく本学の学生には実際に足を運んで学んでほしい。中国語コースの先生方や地域の方々とも相談しながら、今後も学生が文化に直接触れられる授業を考えていきたいです。

中国語コースに来る学生の多くは、大学に入って初めて中国語を学びます。これまで勉強が得意だったかどうかに関係なく、スタートラインは全員同じ。大学に入ってから頑張れば、卒業までに中国語を話せるようになり、達成感を得ることもできます。また、留学生も多いので、日常的に刺激を受けられる環境です。さらに、中国の文化や歴史についても知識を深めることができます。

実際に、「高校生のときは勉強が苦手で楽しくなかったけれど、大学に来て勉強するのが楽しくなった」と言ってくれる学生もいます。そういう言葉を聞くと、教える側としてもうれしく思います。まずは歴史に対する苦手意識をなくして、楽しみながら学んでほしいです。そして、わからないことがあれば、本で調べたり、人に聞いたりしてほしい。すぐに答えが見つかって「わかった」と思うのではなく、本当の意味で「わかる」ことの楽しさを知ってもらいたいです。

これからも、自分自身の研究に取り組みながら、できるだけ多くの人に中国の文化や歴史の面白さを伝えていきたい。それを続けることが、私にできる日中友好への貢献だと考えています。中国と日本はとても近いところに位置して、離れることはできません。だからこそ、「親日」や「親中」でなくてもいい。「知日(ちにち)」や「知中(ちちゅう)」でいいと思います。そして、神戸と華僑・華人文化の歴史についても研究を深め、学生に伝えていきたいです。地域の方々とも関わりながら、神戸という街について一緒に学び、より良い街にしていけるよう考えていければと思っています。

Focus in Lab

中国語や中国史を学ぶ授業に加え、ゼミでは中国の文化や歴史、文学について、学生それぞれが興味を持ったテーマを掘り下げています。今年からは中国語コースの先生との合同ゼミも始めました。

授業では、中華料理など身近なテーマから中国の歴史や文化を考えることもあります。私は中華料理が好きなので、料理そのものだけではなく、「なぜ今の中華料理になったのか」という背景にも目を向けています。中国で食べる中華料理と日本の中華料理には違いがあり、南京町には長い時間をかけて育まれてきた華僑文化があります。身近な料理から歴史をたどっていくと、日中の文化の融合など、さまざまな成り立ちが見えてきます。

また、中国や華僑文化に関わる方を招いた特別講義も行っています。獅子舞を題材にした授業では、学生に実際に獅子頭を見たり、触ったりしてもらいました。話を聞くだけではなく、実物に触れることで、学生の興味の持ち方も変わるのだと感じました。私は歴史を「暗記するもの」で終わらせないことを大切にしています。わからないことがあれば自分で調べ、考えながら知識を深めてほしい。南京町など、学んだことを実際の文化や街の中で体験できる環境も生かしながら、言葉だけではなく、その背景にある中国の文化や歴史まで楽しみながら学んでもらいたいと思っています。

プロフィール

学歴
2012年 神戸学院大学 人文学部 人文学科 卒業
2010年
-2011年
南開大学 漢語学院
2015年 徳島大学 総合科学教育部 地域科学専攻 博士前期課程修了
2013年
-2014年
武漢大学 歴史学院
2019年 京都大学 人間・環境学研究科 共生文明学専攻 博士後期課程修了
経歴
2025年- 神戸学院大学 グローバル・コミュニケーション学部 グローバル・コミュニケーション学科 中国語コース 講師
学位

2019年 京都大学 博士(人間・環境学)

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