AIの「不確かさ」を読み解き技術と社会を柔軟につなぐ人材を育てるin Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ AIの「不確かさ」を読み解き技術と社会を柔軟につなぐ人材を育てる(金澤 拓也/経営学部 経営学科 准教授)
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ AIの「不確かさ」を読み解き技術と社会を柔軟につなぐ人材を育てる(金澤 拓也/経営学部 経営学科 准教授)

どんな用途にも組み替えられる「中立的な汎用技術」の重要性

私はもともと物理学を専門とし、企業でも研究開発に携わってきましたが、いわゆる情報系のバックグラウンドから人工知能(AI)の研究に入ったわけではありません。コンピュータサイエンスの中にはOSやネットワーク、セキュリティなどさまざまな分野がありますが、それらを順に積み上げてきたというより、一歩外側から「AI研究」という領域に直接入ってきた感覚に近いと思います。研究分野を選ぶ際も、囲碁でAIが人間の世界チャンピオンに勝ったという出来事を見て、「これは今後大きく発展する技術になる」と直感したことが大きかったです。
ただ、その時点で私が興味を持ったのは、社会課題を直接的に解決するためのAIではなく、これだけ大きく発展する可能性を持つ技術とは何なのかということ。AIが何に使われるかというより、“仕組み”そのものに強い関心を持ったことが出発点です。

そして現在は、AIの予測に伴う「不確実性」をどのように評価し、扱うかというテーマを中心に研究しています。AIはさまざまな場面で活用されるようになりましたが、その出力がどれだけ信頼できるのか、あるいはどの程度の曖昧さや誤差を含んでいるのかを評価する方法については、まだ十分に信頼できる技術が確立されているとは言えません。
特に現実の社会でAIを使う際には、“正しそうに見えるが実は危うい判断”をどのように見抜くかが重要です。私はこの問題に対して数理的な枠組みからアプローチし、予測結果の背後にある「不確実性」を定量的に捉える手法の構築をめざしています。

私の研究の目標は、特定の社会課題を直接解決することというよりは、できる限り多くの状況に適用可能な、汎用性の高い基礎技術をつくることにあります。AIという技術は、医療や金融、物流、教育など多様な分野で利用されますが、それぞれの現場ごとに個別最適化された技術を一からつくるのは効率的ではありません。重要なのは、どのような用途にも対応できる、レゴブロックのように柔軟に組み替え可能な汎用的な技術としての基盤を整えること。「不確実性」の推定もまた、そのような基礎的な部品のひとつとして位置づけられるべきものです。

用途を限定しない形で磨かれた基礎技術が持つ価値、そしてAIも同様に

このような考え方は、ICTや工学分野における技術開発の在り方と深く関係しています。
例えば、スマートフォンの内部で動作するプロセッサや通信モジュールを設計する技術者は、それが誰のどのような課題解決に使われるかを前提に設計しているわけではありません。彼らの関心は、「いかに速く、正確に、制約なく情報を伝達できるか」という純度の高い仕組みを実現すること。その成果として生まれた技術が、遠く離れた親子の温かい通話に使われることもあれば、レストランの予約や企業同士の商談など、全く別の用途に使われることもあるでしょう。
そうした「用途」は、アプリ開発者やユーザーが考えるべきもの。用途を制約せずに磨かれた基礎技術こそが、長期的に見て大きな価値を持つと私は考えています。

私はAIの研究も同様に捉えています。水道の仕組みで例えるなら、農家は農業用水がほしい、一般家庭は飲み水がほしい、発電所や工場は工業用水がほしい、学校はプールの水がほしいと思うわけですが、もし相互に連絡も連携もとらず、各々でゼロから街に水道システムをつくったとするとどうでしょうか。ほとんどが重複したシステムを別々につくることになり、壮大な無駄が発生します。これを防ぐためには、誰もが使える共通の水道管をまず通し、蛇口の先だけを各自のニーズに合わせて変えればよいのです。重要な技術というものはいずれ応用先に出合うもの。技術をつくる段階で、狭い特定の用途を主目的として定める義務は必ずしもありません。AIにおいても、特定の課題ごとに閉じた解決策を積み上げるだけにとどまらず、汎用的な部品を組み合わせることで多様な問題に対応していく。これは社会全体にとって効率的なアプローチになるでしょう。

現在では広く使われている画像認識技術も、もともとは人間の視覚のしくみに関する基礎研究から生まれました。当初から明確な実用化の道が見えていたわけではありません。むしろ、応用から距離を置いた、知的好奇心に突き動かされた研究の積み重ねが、後に社会的に大きなインパクトを与える技術へとつながりました。
研究や技術開発における「テーマの重要性」は、短期的な目の前の課題の解決だけで判断できるものではありません。長期的かつ広い視野を持ち、将来さまざまな分野で活用される可能性を秘めた基礎技術を育てるという視点も重要だと私は考えています。

「技術」と「社会」を柔軟につなぐ人材育成の大切さ

本学の経営学部で学ぶ学生の多くは、将来、技術そのものを一から生み出す開発者というよりも、既に存在する技術を現場で活用し、社会の中で価値に変えていく立場に立つことになります。基礎技術がABCのような「アルファベット」だとすれば、学生たちはそれを組み合わせて「社会という現実の中で小説を書く(実運用する)」側に回る存在です。そのとき重要になるのは、最先端の技術知識だけではありません。むしろ、他者と正確に意思疎通を行うこと、約束を守ること、利害の異なる人々の間で調整を行うこと。そのような「人間社会の基礎的な力」が不可欠になります。

現実の社会課題の多くは、技術そのものではなく、技術以外の部分で行き詰まっています。例えば、防災のための優れた技術があったとしても、それを導入するためには予算の確保や調整が必要となり、利害の衝突によって実現までに長い時間がかかることがあります。どれほど優れた技術があっても、それを社会の中で実装し、継続的に運用するためには多くの人との協働が不可欠です。
だからこそ私は、AIやデータサイエンスといった「技術」の力だけで課題を解決しようとするのではなく、社会の現実と向き合いながら、技術と社会の現実を柔軟につなぐ力を身につけてほしいと考えています。

コンパクトで扱いやすい、「中身が見えるAI」の実現をめざして

研究においても教育においても私が大切にしているのは、すぐには評価されにくい基礎的な価値を丁寧に積み上げていくこと。基礎技術は、その重要性がすぐに理解されるとは限りません。しかし、そうした基礎技術は長い時間の中で蓄積され、思いがけない形で社会を支える基盤になります。私はそのような時間軸の中で、AIの信頼性を支える基盤を築いていきたいと考えています。

さらに今後の研究としては、こうした基盤技術の在り方を踏まえたうえで、「小さくても中身が見えるAI」の実現にも関心を持っています。現在のAIは、性能の向上と引き換えに巨大化やブラックボックス化が進み、外側から利用することはできても、その内部を理解したり調整したりすることが難しくなっています。
しかし本来、技術は誰もが平等にその改善や向上に貢献していけることも重要な要素のひとつ。私は、完全にブラックボックス化された完成品としてのAIではなく、使う側がその仕組みを理解し、必要に応じて調整できるような在り方を模索したいと考えています。基礎的な「中身がよく見える」技術を組み合わせ、それぞれの現場に応じた形でAIを運用していく。そのような方向性もまた、これからのAIのひとつの在り方になるのではないでしょうか。

Focus in Lab

ゼミではAIやデータサイエンスの基礎を学びながら、それらをどのように現実の問題に適用していくかを重視しています。具体的には、データの扱い方や統計的な考え方、簡単な機械学習モデルの構築などに取り組み、その結果をどのように解釈し意思決定に結びつけるかを議論しています。
当ゼミの特徴は、「技術をつくること」そのものよりも、「技術をどう使うか」を重視している点。同じデータや分析結果であっても、置かれた状況や目的によって意味づけは大きく変わります。そのため、数値の正しさだけでなく、それをどのような文脈で捉え、どのように他者に伝えるかというプロセスに重点を置いています。
また、グループワークや発表を通じて、異なる考え方を持つメンバーと議論する機会も多く設けています。現実の社会では、単に正しい答えを導くだけでなく、それを関係者の合意のもとで実行に移す力が求められます。ゼミでの学びを通して、技術と社会の間をつなぎ、状況に応じて柔軟に判断できる力を身につけてほしいと考えています。

プロフィール

学歴
2006年 東京大学 理学部 物理学科 卒業
2008年 東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 修士課程 修了
2011年 東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 博士課程 修了
経歴
2011年
-2012年
レーゲンスブルグ大学 物理学部 アレクサンダー・フォン・フンボルト財団 リサーチフェロー
2012年
-2013年
シュプリンガー・ジャパン株式会社 編集部
2013年 東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 特別研究員
2013年
-2017年
国立研究開発法人 理化学研究所 理論科学連携研究推進グループ(iTHES) 研究員
2018年
-2024年
株式会社日立製作所 研究開発グループ 研究員
2024年- 神戸学院大学 経営学部 経営学科 准教授
学位

2011年 博士(理学)東京大学

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