創薬化学の力で地球を治す薬を創る!!in Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 創薬化学の力で地球を治す薬を創る!!(稲垣 冬彦/薬学部 薬学科 教授)
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 創薬化学の力で地球を治す薬を創る!!(稲垣 冬彦/薬学部 薬学科 教授)

「反応開発で薬学の未来を創る」を理念に、医薬品合成やCO2関連研究に取り組む

私たちは薬学部の有機反応化学研究室で、「反応開発で薬学の未来を創る」を理念に研究を進めてきました。研究テーマは大きく二つあります。

一つ目は、複雑な骨格を持つ医薬品をより簡便に合成できる「反応」の開発です。具体的には「Z型配位子による金属触媒反応の活性化」をテーマに研究しています。金属触媒では金属の周囲に配位子と呼ばれる分子が取り囲み、L型・X型・Z型の3種類に分類されます。そのなかでも私たちは比較的珍しいZ型配位子に着目し、これがもたらす新たな反応性の解明に取り組んでいます。

二つ目は「二酸化炭素(CO2)」をテーマにした研究です。環境問題の解決に向けて、大気中のCO2の回収・貯蔵・変換技術の開発をめざしています。最近では、海水中のCO2や宇宙空間におけるCO2の回収にも着目し、CO2全般に関する研究を通じて社会貢献できるよう日々実験を行っています。

CO2の回収技術(DAC)をもとに社会に貢献する

地球温暖化の原因の一つとされるCO2を大気から直接回収する技術「ダイレクト・エア・キャプチャー(Direct Air Capture/DAC)」は、世界各国の企業や研究者から注目されています。当研究室では化合物である「アミン」を用い、CO2を選択的に吸収・放出できる材料を開発しました。
この発想は、ヒトの体内で産生されるCO2の役割に関心を持ち、脳内の情報伝達物質であるアミン類に着目したことがきっかけです。環境問題と薬学は一見つながりがないように思えますが、私たちの技術は薬学の知見から生まれました。そのこだわりとして、この材料を「CO2選択的吸収・放出“剤”」と呼び、材料ではなく“薬”として扱い研究を進めています。

従来、CO2回収にアミンを使うこと自体は新しいことではありません。しかし、アミンは親水性が高く、CO2と一緒に水も取り込んでしまうため、効率が低いという課題がありました。そこで私たちは、疎水性のフェニル基をアミンに導入することで、CO2だけを選択的に吸収する割合を飛躍的に高めることに成功しました。フェニル基の種類によって含水率を0~25%まで低減できることも確認しています。
このCO2回収技術の開発は、三菱ガス化学株式会社とともに進めています。また、宇宙空間におけるCO2回収についても企業と共同研究を行っています。

日本のCO2削減目標は、2030年度までに2013年度比で46%削減、2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡)の実現とされています。しかし、CO2を回収するだけでも多くのエネルギーを要するため、削減の進行は容易ではありません。アミンはCO2と反応しますが、そこからCO2を分離する際には加熱や減圧などのエネルギーが必要です。私たちの第1目標は、この分離に必要なエネルギーを可能な限り低減すること。コストを下げることでCO2を安価で回収できればCO2削減が大きく進むと考えています。
さらに、回収したCO2を活用するには金属触媒が不可欠です。当研究室では金属触媒反応も開発しており、将来的にはCO2の回収から活用まで幅広く貢献していきたいと考えています。
カーボンニュートラルの実現について語り始めると5時間程はかかりますが(笑)、私たちの使命は、いかにコストを抑えてCO2を効率的に回収するかにあります。そして、この目標は2050年までに達成できると考えています。

CO2削減ビジョン、そして豊かな日本をめざして

産業革命以前、大気中のCO2濃度は約300ppm(0.03%)でした。つまり、1Lの大気中に含まれるCO2は0.3mlに過ぎませんでしたが、現在は0.4mlとなり、その差は地球の大気全体に換算すると6,000億トンの増加に相当します。私たちが本当に挑戦したいのは、このCO2濃度を元の300ppmまで下げ、地球温暖化が止まるかどうかを確かめることです。400ppmから300ppmに下げて温暖化が止まれば、実験科学者として「CO2が原因だった」と言えるわけです。このような動きが世界全体で広がることを夢見ています。

また、CO2は炭素と酸素の化合物であるため、ここから炭素を取り出して炭化水素に変換できれば日本は資源国になれる可能性があります。現在の日本は、原材料や部品を海外から輸入し、国内で加工・組み立てて再輸出する貿易形態に依存しているため、多くの労働力が必要です。しかし、CO2を炭化水素に変換する技術を持てば、諸外国からの依頼を受けて、日本はより豊かな国になれると考えています。

したがって、繰り返しになりますが、私の研究の第1の目標はCO2の回収を効率よく行うこと。その先に、回収したCO2の有効活用という展望を見据えています。

多種多様な薬のなかで、“地球を治す薬”の開発へ

薬学部では有機化学の講義を担当しており、国家試験の対策も行っています。大学院では次のような話を学生にしています。
例えば、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智先生は、土壌由来の放線菌から新しい抗寄生虫化合物「アベルメクチン」(後に改良され「イベルメクチン」)を発見しました。この薬は世界の寄生虫病対策に劇的な効果をもたらし、WHOなどの国際機関と協力して無償提供されました。無償提供の仕組みを作れた背景には、動物薬の開発によって得られた莫大な利益があります。つまり、まず人を助けるためには持続可能な仕組みを作ることが必要なのです。
また、「薬」と聞くと一般的には医薬品を思い浮かべますが、火薬や爆薬、釉薬(ゆうやく)など多種多様です。そのなかで私たちは、“地球を治す薬”を作ろうと学生に伝えています。広い意味では、薬も人間も「有機分子(有機化合物)」です。有機化学は生命を理解する化学であり、薬を作るための化学でもあります。

学生には幅広い学会への参加も促しています。薬学系の有機化学だけでなく、化学全般や宇宙関連、有機金属系の学会などに参加してもらうことで視野を広げ、得た知識や経験を多方面で生かしてほしいと考えています。
一度きりの人生です。大きなことに挑戦し、就職においても薬剤師に限らず一人ひとりが夢を叶えるべく、さまざまな分野で力を発揮してほしいと願っています。

Focus in Lab

2025年5月、東京ビッグサイトで開催された「2025NEW環境展/2025地球温暖化防止展」に本学の薬学部が出展しました。私たちの研究室からは「溶媒スイング法によるCO2回収・分離技術」と題して、温室効果ガス削減とカーボンニュートラルの実現に貢献する次世代技術を紹介しました。
本展示会は、さまざまな環境技術・サービスを一堂に展示・情報発信することで、環境保全への啓発と国民生活の安定、環境関連産業の発展を目的としています。国内外の700を超える企業・大学・研究機関が出展し、9万人を超える方が来場しました。本学のブースには140人以上が訪れ、それぞれに技術の説明を行いました。また、展示サポートとして研究室の大学院生も参加しました。過去の展示会で名刺交換をした方や各種研究における連携先の方など、多くの方々と意見交換を行うこともできました。

プロフィール

学歴
2002年 金沢大学薬学部 卒業
2004年 金沢大学自然科学研究科 博士前期 修了
2007年 金沢大学自然科学研究科 博士後期 修了
経歴
2007年
-2008年
武田薬品工業株式会社 化学研究所 研究所員
2008年
-2012年
金沢大学 医薬保健研究域 薬学系 助教
2011年
-2012年
米国スタンフォード大学 客員研究員
2012年
-2019年
金沢大学 医薬保健研究域 薬学系 准教授
2019年- 神戸学院大学 薬学部 教授
学位

博士(薬学)金沢大学

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