高齢者の自己効力感を高め いきいきとした生活を支援 in Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 高齢者の自己効力感を高め いきいきとした生活を支援(九十九 綾子/総合リハビリテーション学部 社会リハビリテーション学科 准教授)
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 高齢者の自己効力感を高め いきいきとした生活を支援(九十九 綾子/総合リハビリテーション学部 社会リハビリテーション学科 准教授)

「私にもできそう」という気持ちが行動を促す

高齢になると外に出たり人と付き合ったりすることがおっくうになり、とくに何をするでもなくじっとして過ごす人も少なくありません。私は、高齢者がもっと日々を楽しみいきいきと暮らせるような支援のあり方について、自己効力感をテーマに研究しています。

自己効力感とは心理学で提唱されている認知能力の一つで、自分がこれから行う行動をどれくらいできそうか、その可能性を見積もることです。人はできそうにないことには尻込みしてしまいますが、できそうだと思うことはやってみようかという気持ちになります。このような「行動への自信」が自己効力感です。自己効力感を高めることで高齢者が行動することを支援していこうというのが、私の研究の基本となる考え方です。

自己効力感を高めるには、四つの要素があると考えられています。一つめは、実際に行動してできたという成功体験です。二つめは、他の人がやっているのを見ることです。自分によく似た人ができていたら「私にもできるかも」と感じ、やってみようかという気持ちになることも多いでしょう。三つめは、励ましです。誰かに「きっとできる」と励まされるのはもちろん、「やればできる」と自己暗示をかけることも含みます。四つめは、気持ちが落ち着いていることです。緊張を自覚すると自己効力感が低くなってしまうと言われています。

高齢者施設での実践を通じて自己効力感を研究

こうした理論に基づいて、実際に特別養護老人ホームでレクリエーションのプログラムを提供してきました。社会福祉士養成のための実習先としてご協力いただいている施設にお願いして学生と一緒に訪問しました。私がアコーディオンをピアノ伴奏に合わせて演奏し、一緒に歌うように促します。特大サイズの文字で書かれた歌詞を貼り出し、「一緒に歌いませんか。歌ったら楽しいですよ。きっと歌えますよ」と励ましの声を掛け、押しつけがましくしないようリラックスした雰囲気になるよう努めました。

積極的に歌ってくれる人もいますが、気の乗らない人は最初はただ座って聞いているともいないともわからないような感じです。しかし、そのうちに知っている歌が出てくると鼻歌で合わせたり、周りの人が楽しそうに歌っている姿を見て歌い出したりというような変化が見られました。プログラムは好評で、回を重ねるごとに参加者も増えてきました。

自己効力感が高まると、活動量が増えその中身もポジティブなものが増えると言われています。実際、デイサービス施設で同じようなレクリエーションを行った際には、家でふさいでいた人がいきいきとした気持ちを取り戻し、周囲のお年寄り仲間に自分の得意なことを教えてあげるというところまで活発になったというケースを経験しました。

自己効力感の高まりによってこのような行動の変化が促されるのですが、この変化には新しい行動を身につけるだけでなく、もともとやっていたけれど失われた行動を取り戻すということも含まれます。高齢者の場合は、どちらかというと後者が多い傾向にあります。今までできていたことができなくなり、自信を失ったことから他の行動への意欲も失われるということも少なくありません。できなくなった行動自体をどうにかするというより、「歌ってみる」、「あの人と話してみる」というような他の行動ができるようになることで、全体としてポジティブな気持ちになるという効果がもたらされているようです。

新型コロナウイルス感染症流行の影響でこうした実践は中断していますが、また開催できる状況になることを待ち望んでいます。さまざまなケースにおいて自己効力感の尺度を測定し、プログラム実施前と実施後を比較検討していきたいと思っています。

自分の強みや可能性を知るワークを体験

自己効力感を高めることは、高齢者だけでなくあらゆる世代の人にとって行動の変化を引き起こすきっかけになり得ます。ゼミや授業では、学生にも自己効力感を高める手法を体験してもらい、コミュニケーションの中で行動への自信を高めてもらっています。

その一つが解決志向アプローチと言い、問題の原因や改善点を追求するのではなく、問題の解決に役立つ自分の強みや可能性に着目する手法です。この考え方を理解するために、学生たちにはさまざまなワークを体験してもらっています。

例えば「今日、何かちょっとしたいいことはありましたか?」という問いに答えてもらうのもその一つです。学生たちからは、「朝ごはんがおいしかった」「お母さんに気持ちよく起こしてもらえた」といった答えが返ってきます。そういう普段は取るに足らないことと捉えてしまいがちな「いいこと」を、きちんと立ち止まって認識することを目的にしたワークです。それをグループで行い、他の人から「おいしくて良かった」「優しいお母さんなんだね」などの反応が返されることで、自分の良い状況や強みを客観的に認識していくことができます。

解決志向アプローチ自体は福祉、教育など人を援助する仕事に携わる人が身につけておくべき専門的知識・スキルの一つですが、自分の強みや可能性を認識するための言葉のやり取りやコミュニケーションの方法を身につけておくことはどんな分野に進んでも役に立つのではないでしょうか。強みの自覚は自分の行動、ひいては人生をポジティブに捉えることにつながり、他の人が同じように認識する支援を行うこともできるからです。

人に寄り添いそっと後押しができるような人を育てるのが私の目標です。そのためにも、学生が人とコミュニケーションを取る経験から自分を知り、他者を理解したいという気持ちが芽生えるような学びの場を創造していきたいと思っています。

Focus in lab

-研究室レポート-


ゼミでは、学外のさまざまな人を訪問し話を聞くスタディーツアーを実施しています。広島では被爆された方から聞き取りをし、沖縄では語り部の方から戦争体験を聞きました。その他、被差別部落にルーツがある方や限界集落に居住されている方などさまざまな人々と出会い、インタビューや交流を行ってきました。学生が自分たちで訪問してみたいところや会ってみたい人をピックアップし、アポイントをとります。自ら企画したツアーだけに学生も熱心に話を聞き、その熱意が語り手にも伝わって真剣に向き合っていただけるというよい循環になっているようです。今後も学生の自主性を生かしながら、多くの人と出会い大きな学びを得られる機会にしていきたいと思います。

プロフィール

関西福祉科学大学 社会福祉学部社会福祉学科 卒業
大阪教育大学 教育学研究科学校教育専攻心理学専修 修士 修了
関西福祉科学大学 社会福祉学研究科臨床福祉学専攻 博士後期 修了
博士(臨床福祉学)[関西福祉科学大学]
関西福祉科学大学大学院 非常勤講師
関西福祉科学大学 講師
大阪教育大学 非常勤講師
神戸学院大学 講師
神戸学院大学 准教授

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