2016年1月
日本でのスポーツシーンの実情や問題点を発信し、
スポーツ界と人間力を育むin Focus


神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~
日本でのスポーツシーンの実情や問題点を発信し、スポーツ界と人間力を育む 二杉 茂 共通教育センター 教授

スポーツ界で日本が遅れをとっている
EQ(心の知能指数)という感性の育成

私は、子どもの頃からスポーツを楽しみ、今もさまざまな活動を通してスポーツに携わっていますが、日本人のスポーツに対する考え方や制度はまだまだ遅れていると考えています。それは、日本においてスポーツが盛んに行われているにも関わらず、スポーツを単に勝敗の問題として捉える傾向があり、未だにスポーツの文化的価値や学問的価値が軽んじられている側面があると感じるからです。

私の研究テーマはスポーツ社会学で、アメリカにおけるスポーツ文化などについて調査を行っています。例えば、アメリカでは「シーズン制」という制度があり、義務教育の間、学生は一年を通して3~4種類のスポーツ活動に参加でき、子どもたちの可能性と楽しみを増やしています。また、プロの選手にも休みをきっちりと与えることが常識であり、身体を酷使しすぎないことが、アメリカの野球やバスケットボールなどの選手生命の長さに繋がっていると考えられます。

その一方で、日本のスポーツ界は練習時間が非常に長く、勝ったか負けたかという両極端な勝敗の部分を大切にしています。本来スポーツは、スポーツを媒体にした人間同士の潤滑油としての役割、気分転換や遊びという価値を担っているはずです。もちろん勝敗も大事ですが、私はスポーツを通して「EQ(心の知能指数)」という感性の部分を、もっと育てるべきだと考えています。

スポーツマン・スポーツウーマンという以前に
ひとりの人間として人生を歩むために


例えば、数十年前にバスケットボールのコーチ留学に赴き、今も年2回は訪れるハワイ大学では、スポーツを通じて共に喜びを分かち合うという「共生」を大切にしています。アメリカは個人主義である一方、ヒューマニズム(人間愛)精神も強く、EQ指数が非常に高い国です。スポーツを通して協調性やメンタル的な強さも育てながら、スポーツ以外の学びも欠かさないことでトータルな人間力を育んでいます。

日本では、幼い時に花開いたスポーツ選手にはスポーツばかりを教え、勝つことを目指して身体を酷使し、学問をおろそかにしてしまう傾向があります。その結果、勝つことには強くても、非常に保守的でストイックすぎる心が育ちやすく、スポーツからリタイアした際には他に何もできないという状況に陥るケースも見受けられます。ですので、「文武両道」の精神、そして「EQ」を育てることを、日本のスポーツ教育は大切にすべきだと考えています。

私はこのような多面的な学びの重要性について、会長を務める身体運動文化学会やスポーツサイエンスフォーラム、全国を巡回しているバスケットボールのクリニックでお伝えしています。もちろん、長年のバスケットボールとの関わりから、技術的な指導やゲームマネジメントのノウハウ指導なども行っていますが、小学生から中高生、大学生や実業団のチーム、指導者まで、それぞれの方がスポーツマン・ウーマンという以前に、ひとりの人間として着実に人生を歩んでほしいという想いがまずベースにあるのです。

学生には自分たちが今すべきことを理解し、
地に足をつけた考えで道を切り拓いてほしい

私の講義やゼミでは、スポーツの重要性や、アメリカと日本のスポーツ界の比較などについて伝えています。実際にはスポーツに打ち込む学生も、そうでない学生もいますが、EQ指数を高める、学問も幅広く学ぶという風に、自分たちが今すべきことを理解し、地に足をつけた考えを持って自らの道を切り拓いていく様子は頼もしいものです。今後も、私たちの心身を豊かにしてくれる可能性を秘めたスポーツについての振興活動を、学内外問わず続けていきたいと思っています。

プロフィール

1998年8月 (韓国)京畿大学大学院体育学研究科博士課程単位取得満期退学(理学博士取得)
1971年4月~1976年3月 和歌山県立田辺高等学校 教諭
1976年4月~1987年3月 神戸親和女子大学文学部児童教育学科 助教授
1987年4月~2014年3月 神戸学院大学人文学部人文学科 教授
1999年4月~(中国)山東大学客員教授
2010年4月~ 和歌山県西牟婁郡白浜町教育委員会教育委員
2010年4月~ 身体運動文化学会会長
2010年4月~ 関西学生バスケットボール連盟 副理事長
2014年4月~ 神戸学院大学共通教育センター 教授

主な研究課題

米国大学におけるスポーツ文化について調査を行い、大学当局、学生達がどの様な評価、価値、目的を持って取り組んでいるかを検証している。特に、イントラミュラルスポーツを中心に一般学生へのサービスプログラムの実態や制度について調査を行っている。

2014年、「共通教育センター」設置により
学部を超えた学びを支え、質の高い多彩なプログラムを提供

全学教育推進機構長 共通教育センター/教育開発センター 所長
学際教育機構長
副学長 佐藤 雅美

2014年4月、9学部の文理総合大学としての強みを活かしたリベラルアーツ科目の展開と、質の高いリテラシー科目の提供を使命として「共通教育センター」を設置しました。リベラルアーツ科目群では、学部を超えた幅広い分野の学びにより多面的に見る力と考える力を養うこと、リテラシー科目群では、学部教育や、社会で働く上でベースとなる技能(リテラシー)を身につけることを目的としています。

12名の専任教員は、主として質の高いリテラシー科目を提供するために、有瀬とポートアイランドの両キャンパスにおいて授業を担当しています。さらには、リテラシー科目の各分野やリベラルアーツ科目を統括する主任教員として、共通教育科目の運営を支えています。

また、2015年度から「共通教育活性化プログラム」として、通常の座学の授業とは異なる、多彩なプログラムを授業内で展開しています。一例として、ドイツ人研修生と本学ドイツ語専任教員による本学学生との交流授業を行い、さらに、ラグビー界で活躍した大畑大介氏をお招きしての講演会を企画しました。このような直接的な体験や機会の提供により、大きな教育効果が得られるものと期待しています。

そして、2016年4月にスポーツを多面的に学ぶ、副専攻的教育プログラム「スポーツサイエンス・ユニット」を開設します。これは、法・経済・経営・人文学部の学生が学部の専門科目を学びながら、「スポーツ」についての理論と実践を学ぶ教育プログラムです。スポーツに関わりながら社会に貢献できる人材を育成します。

共通教育センターでは、以上のような学部を超えた幅広い学びを支え、質の高い、多彩なプログラムを今後も提供し続けます。学生の皆さんには共通教育科目を積極的に受講していただき、自身の可能性を高め、専門分野での学びに繋げて欲しいと願っています。

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