2015年2月
生活習慣病予防の鍵、血栓のメカニズムを研究。
医療機関に基礎データを提供。in Focus


神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~
生活習慣病予防の鍵、血栓のメカニズムを研究。医療機関に基礎データを提供。  山下 勉 栄養学部 准教授

血液の不思議に魅せられ
ライフワークで血栓を研究

研究に用いられているマウスー遺伝子のノックアウトにより、生活習慣病の主要な病態である動脈硬化を発症するマウス

研究に用いられているマウスー遺伝子
のノックアウトにより、生活習慣病の
主要な病態である動脈硬化を発症する
マウス

血管を対象に研究

血管を対象に研究

学生時代に血液のメカニズムに不思議を感じて以来、ライフワークとして血液・血栓の研究をしています。血管と聞くと太い動脈の血管をイメージされますが、私が研究対象にしているのは微小血管と呼ばれる小さく細い血管で、7マイクロ(7/1000mm)の赤血球が一つ入る位の細さの血管です。微小血管での血液の流れを微小循環といいますが、その微小循環を維持するメカニズムの解明を主な研究課題としています。

血液循環は血液と血管の相互作用からなることから、私の研究・実験は生体である実験動物を使うインビボ(生体内で)が基本です。血液が流れている血管を顕微鏡で見ながらレーザー光を照射し、血管の内皮を傷つけることで人工的に血栓(血液の塊)を作り、その血栓の形成や溶解を評価する。また、特殊な顕微鏡を用いて微小血管や血液から放出される物質由来の画像をもとに微小血管の再構築を行う研究を進めています。血栓が大きくなって冠状動脈が詰まり血流が止まると心筋梗塞、脳の血流が止まると脳梗塞を引き起こします。

閉塞(血管が詰まること)を起こした血管では、いかに早く血栓を溶解するかが重要となります。一時的に血管が詰まっても、血流が戻れば元の機能を回復することができる組織がありますが、血流が再び戻る再疎通のときに白血球が活性酸素(反応性に富んだ酸素)を出すと修復可能な組織までも障害される再還流障害が起こることがあります。研究室では再還流障害を防ぐにはどうすればよいか、血栓の溶解過程をイメージングモデルで捉えて画像を数値化したデータをもとに医療研究機関と共同研究を進めています。また、臨床で使われている薬、新薬の有効性などについての基礎情報を提供しています。

さらに、栄養学部の研究室として生活習慣病を予防する抗血栓作用のある食品成分を探し、その効果を実証する研究を行っています。

山下 勉 栄養学部 准教授

コレステロールの分解に関するタンパク質の遺伝子を破壊(ノックアウト)した動脈硬化発症マウスに脂肪食を与えて動脈硬化を誘発させ、動脈硬化症の予防・進展阻止への効果が期待できる食品成分を与えたものと与えないものとを比較することで、特定食品成分の摂取による効果の実証を試みます。例えば、昔からの生活様式を守って暮らしているイヌイット(カナダ北部などの氷雪地帯に住む先住民族のエスキモー系諸民族)の人々は先進国に比べて短命であっても動脈硬化や脳梗塞を起こす確率が低く、過去の研究からアザラシやトドなどのω-3(オメガ3)系の油を含む食品を多く摂取していることが分かっています。研究室ではこの動脈硬化発症マウスを用いて実際にω-3系の油を与えたマウスと与えていないマウス、私たちが普段摂取しているサラダ油などに多く含まれるω-6(オメガ6)系の油を与えたマウスを比較する実験を行い、ω-3系を与えたマウスは他のマウスに比べて動脈硬化の進展が遅いことを証明することができました。

食生活の欧米化や高齢社会を迎え、生活習慣病は年々増加しており、生活習慣病に起因する心筋梗塞、脳梗塞などの血栓性疾患の予防は大きな社会的課題となっています。イン・ビボの研究で微小循環レベルでの基礎データを提供していくと同時に、医療機関などと連携して臨床データを実証するサポートができるように研究を進めたいと考えています。

女性研究者の先駆け・岡本歌子先生の
研究室で血液メカニズムの不思議に感動

撮影した血液を画像解析して研究

撮影した血液を画像解析して研究

山下 勉 栄養学部 准教授

私が血液に興味を持つきっかけとなったのが、本学在学中の恩師・岡本歌子先生との出会いです。現代社会において、仕事と家庭の両立は女性にとっての大きな課題でありますが、歌子先生は女性研究者の先駆けといわれる方で、50年以上前に研究と子育てを両立させながら血液の凝固や溶解を阻止する薬剤開発を夫であられた故岡本彰祐先生と共に研究された先生です。私も研究の一端に関わらせていただき血液の不思議に感動しました。さらに、私の現在の研究の基礎は恩師・山本順一郎先生(本学 名誉教授)から受け継いだものです。私は、山本先生より血液における研究の重要な着眼点として“生きた状態”での実験成績が何よりも生理学的に、病態学的に重要であることを教わりました。私はこの考えを受け継ぎ今の研究に繋げています。私自身、大学病院において臨床検査業務を経験したことがありますが、多くの検体検査のように血液に代表される体液成分の分析から得られる情報もあれば、体外に取り出したものからでは得られない情報もあります。このことを理解しておくことが重要であると考えます。

人間の体はいわば血管の塊で、驚くなかれ健康な成人では地球2周分以上(約9万7000km)の血管が張り巡らされています。また、血管の中を流れる血液は怪我などで出血して血管外に出ると凝固しますが、通常血管内では固まることがありませんし、固まっては困ります。まさに矛盾する機能です。私の研究スタートは、血液の相反するメカニズムに深い興味と感動を覚えたことからだと思います。

バーチャルな体験が多いせいなのか、今の学生達には科学に対する感動の経験が少ないように思います。身近な生活の中にも科学的な発見を見いだす好奇心を持ち、知識を深める喜びを味わってほしいと願っています。

医学的な知識で患者の社会復帰を支える
包容力のある管理栄養士・臨床検査技師を育成したい

山下 勉 栄養学部 准教授

神戸学院大学栄養学部は本学開設と同時に設立された最も古い学部です。栄養学部のある大学はいくつもありますが、本学では栄養を代謝の面から捉え、医学的なアプローチからの授業カリキュラムが充実している点は本学の大きな特長といえます。数年前に学生との研修で英国を訪ねた際、英国の管理栄養士が多くの医学検査的知識を持っていることに感銘を受けました。残念ながら英国に比較して我が国の管理栄養士教育においては医学検査学的教育が十分とは言えません。医学検査学的知識を生かすことにより、種々の疾患患者のカルテから肝機能や腎機能、糖尿病の血糖コントロール状況など様々な臨床検査成績を把握することにより個々の疾患、状態に適した栄養を配慮した食事を提供することが可能となります。本学にはそのような管理栄養士と臨床検査技師の両知識を得られるカリキュラムがあります。医学知識を学び、正しい検査知識を持つ管理栄養士を育成することで、患者の社会復帰に貢献したいと考えています。

また、卒業生の多くは医療職へ就職しますが、医療現場では知識や資格だけでなく患者に寄り添い、患者の目線で親身になれる人間的な包容力が必要です。本学での学びや経験を通して、人間的にも成長してもらいたいと願っています。

プロフィール

1981年、神戸学院大学(栄養学部 栄養学科)卒業。90年、神戸学院大学 栄養学部 生理学研究室 研究生、博士(学術)号取得(食薬博乙第二七号)。97年、神戸学院大学食品薬品総合科学研究科。80年~98年、兵庫医科大学病院 中央臨床検査部。98年、本学着任。04年~13年神戸薬科大学 非常勤講師。

主な研究課題

  • 実験的動物モデルを用いた微小循環維持における種々メカニズムの解明(血栓、血栓溶解、動脈硬化症)
  • イメージングによる微小循環並びに血管病変における応用について
  • 臨床における生理学的血小板機能検査の開発と応用
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