2013年11月
明石・大蔵町の文化資源を発見し未来へと継承したいin Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~
明石・大蔵町の文化資源を発見し未来へと継承したい 矢嶋 巌 人文学部 講師

人文学部の矢嶋巌講師は、ゼミの学生たちと共に、大学が立地する明石・大蔵町などの文化資源を発見して今に生かし、未来へ継承するプロジェクトに取り組んでいる。なかでも地元・稲爪神社の秋祭りを写真で記録し、写真展などで紹介する活動が好評で、神戸学院大学の学生たちは地域活性化に欠かせない存在になりつつある。

神社の秋祭りを撮影し地域研究の第一歩を学ぶ


オリジナル冊子「大蔵谷なう。」

「明石・大蔵町を中心とした町の文化資源の再発見と活用、および未来への継承」は、矢嶋巌ゼミの大きなテーマの一つ。地域住民と教員・学生が協働しながら「地域発見」に取り組んでいる。毎年恒例となっているのが、稲爪神社(明石市大蔵本町)の秋祭りの撮影と正月の写真展の開催。学生たちはデジタル一眼レフカメラを駆使して祭りの神事などを記録し、写真を整理・保存・発表していく。「地域の文化をアピールし次代に長く継承していくことが目的です。そのため学生たちは、伝えるべき大事なものが何かを考えながら撮影し整理した後、端的なタイトルをつけて写真展で展示します。報道写真家のような訓練をすることで、学生自身も、地域研究のための取材のスタンスやノウハウなどが学べます」。

また矢嶋講師は地域観察を目的としたフィールドワークにも力を入れている。取材当日も学生たちと共に、大学有瀬キャンパス周辺にある漆山付近の現在の姿や、手入れされた竹林、荒れた里山、用水路跡などを観察するミニフィールドワークを2年次生向けに実施した。「大蔵町は、かつて宿場町で漁村でもあったところが都市化した地域。その比較対象として、いまも都市化が進んでいる有瀬キャンパス周辺の様子を知って欲しいと思いました」。

また同じ人文学部の桑島紳二ゼミと共同で、神戸学院大学地域研究センターが発行するオリジナル冊子「大蔵谷なう。」も制作している。第1号は2012年5月に発刊され、矢嶋ゼミの学生(当時1年次生)たちは渾身の取材で、モンドセレクション金賞などをこれまでに何度も受賞したという明石・大蔵町の酒造会社を、記事と写真で詳しく紹介している。「蔵元など地元の産業や、畳店などの頑張っている商店を学生たちが取材することは、地域力を発見する重要な機会になると考えています」。また自分たちの調査の結果が目に見える形になるため、学生たちにとってはゼミ活動の大きな目標にもなっているという。

地域のあるべき姿や問題解決のヒントを見つける


矢嶋講師の、もともとの専門分野は地理学だ。「ある場所の景色は、自然環境や人々の暮らしから歴史的に織りなされて今に至っています。地理学は、その場所がなぜそのような景観になったのか、自然環境や人間活動との関係から追究していく学問分野です」。そして矢嶋講師は地理学のなかでも特に「飲み水」について研究してきたという。「難しく言えば、水道事業の地理学的分析ですね。出身地の北海道から大阪に来た時、水道水がおいしくなかったことが、水に興味を持つようになったきっかけです。なぜそうした地域差が生じるのか、自然条件と歴史的経緯による地域性に関心がありました。水そのものではなく、水と地域の人々との関わりが面白いですね」。

現在取り組んでいる「明石・大蔵町を中心とした町の文化資源の再発見と活用、および未来への継承」も、文化や産業と地域の人々との関わりが基盤となるプロジェクト。「地理学分野の人間が研究やゼミで地域に関わるのは当然。地域に積極的に出て行き地域の人々から学べることが、地理学の研究者の面白い点だと私は思っています」。

そのような地域密着型の矢嶋講師に率いられて、ゼミ生たちは、明石・大蔵町の文化資源の発見に加えて、加古川を中心とした都市近郊農村の価値の発見、明石市周辺の東播海岸の理想的な海岸環境モデルの探求という三つの取り組みに多面的に関わっていく。「大蔵町は漁村で宿場町だったところが都市化した地域ですが昔の集落の自治機能がいまも見られ、加古川の郊外には農村が残っています。そして東播海岸は、都市化と環境への関心を受け人工砂浜海岸へと大きく変貌しました。私はこれらの三つの地域と大学有瀬キャンパス周辺を都市化の異なるステップと考え、学生の学びのステージとしておのおの位置づけています」。このプロジェクトに関わることで、学生たちは地域がどうあるべきか、地域の問題をどう解決すればよいかを考えるためのヒントを見つけていくという。「地域との連携は今や企業にとっても必須。学生が地域研究で得たものは社会でも大いに役立つと思っています」。

住みたい、戻りたいと思える大蔵町の価値を見いだす

矢嶋 巌 人文学部 講師

プロジェクトの今後について矢嶋講師は、「大蔵町は高齢化が進み、人口も30年前に比べほぼ半減している、いわゆる『都市内過疎地域』です。稲爪神社の祭りにはたくさんの若者が関わっていますが、地元を離れ他の地域に住んでいる人が少なくないそうです。地理学は地域の将来あるべき姿を視野に置く学問。地域の成り立ちを研究することは、その地域の将来の持続性にも関わることだと思っています」。目指しているのは、矢嶋講師や学生たちが地域の価値を見いだして伝えることで、その地域から出て行った人たちにも自分たちの出身地の良さに気づいてもらうこと。そして新しく住み始めた住民には、その地域の魅力を知ってもらい、祭りなどに参加したくなるようなきっかけを作ること。「住みたい、戻ってきたいと思える大蔵町の価値を見いだすことで、勢いをなくしつつある地域が復活し持続する可能性が高まってきます。それが、地理学を研究する私がこのプロジェクトに関わる最大の意味。そして、地域に対する長期的な貢献は、その地域に立地する大学の責務とも思っています」。

プロフィール

1991年、関西大学文学部史学・地理学科卒業。2000年、関西大学大学院文学研究科地理学専攻博士課程後期課程単位修得済退学。博士(文学)関西大学(09年)。関西大学非常勤講師、大阪産業大学非常勤講師、神戸大学非常勤講師などを歴任し、08年神戸学院大学人文学部へ。

主な研究課題

  • 生活用水・排水システムの変容の地域性
  • 地域環境問題、とくに水環境問題
  • 但馬・東播磨地方の地誌(地域研究)
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