2012年2月
「ゴトンヨロン」の概念が日本を救う!in Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~
「ゴトンヨロン」の概念が日本を救う!JICA(独立行政法人国際協力機構)の国際協力活動で得た知見をベースに、国際協力のあり方や地方活性化について調査・研究。インドネシアに今も残る「相互扶助」の概念をベースとした、新しい「有緑社会」の構築を提唱している。浅野 壽夫 経済学部教授 学際教育機構 防災・社会貢献ユニット長

「相互扶助」によって自然災害から復旧・復興する

浅野 壽夫 経済学部教授 学際教育機構 防災・社会貢献ユニット長
浅野 壽夫 経済学部教授 学際教育機構 防災・社会貢献ユニット長

人々の孤立が大きな問題となっている「無縁社会」を、21世紀型の新しい「有縁社会」へ。そのキーワードとなるのが「ゴトンロヨン/GOTONG ROYONG」の概念だと、30年近くJICA(独立行政法人国際協力機構)で活動していた浅野壽夫教授は明言する。

「ゴトンロヨンとはインドネシアに古くから伝わる相互扶助のこと。日本語に訳すと『一緒にモノを運んでいく』という意味です。日本にも昔、結(ゆい)や講といった、地域住民が総出でお互いに助け合う組織がありましたが、インドネシアでは今もそれが伝統的な社会慣習として残っています。私は、日本が失ってしまったこの相互扶助の概念が、世界で頻発する自然災害などからの復旧・復興にも役立つのではないかと考えています」

浅野教授はJICA時代、インドネシア、ボリビア、タイなどの開発途上国で多分野にわたる国際協力活動を実践してきた。「最後のセクションが国際緊急援助隊でした。2004年12月に起きたスマトラ島沖地震による大規模な津波災害では、医師や救助チーム・緊急物資などを被災地に送り出すオペレーションの仕事に3カ月間携わりました」。そして現地の悲惨な被害状況に強い衝撃を受け、自然災害に対する国際緊急援助の方向やあり方について調査・研究したいと考えるようになったという。その後、JICAから神戸学院大学の教員に転身。現在は、自然災害に見舞われ緊急援助が入った地域などを、復興後にどう活性化し、災害に強い社会をつくり上げていくかという「地域活性化」の研究にも取り組んでいる。

防災を軸に社会貢献できる人材を育成する


海外実習Ⅰ(フィリピン イフガオ州)
海外実習Ⅰ(フィリピン イフガオ州)

浅野教授が現在ユニット長を務める学際教育機構「防災・社会貢献ユニット」も、大学と地域が防災を軸とした危機管理意識をお互いに高めあうという社会貢献教育プログラムだ。「これは阪神・淡路大震災の被災大学でもある本学独自の発想です。20世紀には戦争で多くの人が亡くなりましたが、21世紀には自然災害が新たな驚異となり、昨年3月の東日本大震災を含めて世界中で多くの人たちが犠牲になっています。今や防災は、東海・東南海・南海地震などが想定される日本の問題であると同時に、世界全体の問題でもあるのです。06年4月に開設された『防災・社会貢献ユニット』は、そんな自然災害に対する危機意識をベースに、防災に対する専門的知識と能力を備え、温かみのある安全な社会づくりに貢献できる人材の育成を目標としています」

そのため浅野教授はJICAにおける長年の経験を生かして、学生たちがダイレクトに世界とつながり、自然災害などの現場で学ぶことを重視。担当する「海外実習Ⅱ」の授業では、インドネシアのジョグジャカルタに3、4年次生を同行。06年に起きたジャワ島中部地震の被災地で展開されている、神戸のNGOによる復興・復旧プロジェクトに参加するというフィールドワークを実施している。「村民と一緒になって活動することで、学生たちは、日常生活のあらゆる部分で自分たちの能力を結集して地域を再建しようとする、ボトムアップ方式ともいえる『ゴトンロヨン』の力を実感しているようです」。また防災・社会貢献ユニットで学ぶ2年次生には、カンボジアあるいはフィリピンの農村における研修を、「海外実習Ⅰ」として履修を義務づけている。「これらの授業を通じて学生たちには、人は自分一人では生きていないんだなということを学んでほしい。そして口先だけではない具体的行動に一歩踏み出すきっかけにしてほしいと思っています」

住民が一体となって行政を補完する地域社会へ

浅野 壽夫 経済学部教授 学際教育機構 防災・社会貢献ユニット長

このような海外実習や、浅野教授が携わってきたJICAなどの国際協力は、被災地や開発途上国の人々を救助・支援する活動である一方、「実は私たち日本人が忘れてしまった大切なものを思い出させてくれる重要な機会にもなっています」。その一つは、地域住民が寄り添って一つの方向に進んでいく時の力の大きさ。「東日本大震災で、すべてを行政の力に頼ることができないことを私たちは知りました。慣れ親しんできた地域は、住民相互のその土地への想いや連携が活性への基本となる。そんなゴトンロヨン的『有縁社会』の考え方が、これからの私たちが目指すべき社会の仕組みを示唆してくれているような気がします」

間もなく1年を迎える東日本大震災の各被災地でも、実際にそういう動きは活発化している。「地域の人々が一体となって行政を補完するという考え方をベースに、21世紀の新しい社会の仕組みを作り上げていくこと。人々のつながりや縁を大事にするインドネシアのゴトンロヨン的『有縁社会』の考え方が、先進国で暮らす私たちの進むべき方向、目指すべき新しい社会の形を示唆してくれているような気がします」。

プロフィール

1971年埼玉大学教養学部卒業。2001年~04年まで国際協力機構・兵庫国際センター所長。04年~06年国際協力機構・国際緊急援助隊事務局長。06年から現職。

主な研究課題

  • 自然災害における災害援助のあり方
  • 国際協力を通じての地域活性化
  • 開発途上国における地域開発
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