2011年12月
私たちの健康寿命を延ばす、「個別化ヘルスケア」にチャレンジin Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~
私たちの健康寿命を延ばす、「個別化ヘルスケア」にチャレンジ もともとは知的資産会計など財務・会計分野の研究者。知的資産(知識や情報)は企業だけでなく、社会全体に役立たなければ意味がないと考え、現在は超高齢社会を支える「ヘルスケアマネジメント」の制度設計に取り組んでいる。 大野 俊雄 経営学部教授

企業も人も知的資産(知識・情報)の自己管理が重要

大野 俊雄 経営学部 教授

「世界最速のスピードで高齢化が進む日本において、ヘルスケア(健康管理)は国の最重要課題の一つ。日本の取り組みは世界からも注目されています。私は、国民一人ひとりが自分自身でも最大限の健康管理ができるような『ヘルスケアマネジメント・システム』の設計をライフワークとしています」と大野俊雄教授。もともとは財務・会計分野の研究者で、知的資産という見えざる資産を中心に据える知的資本会計を主な研究テーマとしていた。それがヘルスケアマネジメントという健康管理分野のテーマに興味を持ったのは2008年のこと。それまでの研究成果をまとめた著書「知的資本の会計学―コア・コンテンツ会計と現代ビジネス」(中央経済社)を出版したことがきっかけになったという。

「現代社会では、おカネが動く前にモノやサービスが動き、モノやサービスが動く前に情報が動きます。知識・情報など無形の知的資産は今や企業の競争力や成長の要であり、知的資産をいかにうまく管理していくか。現行の会計制度の不充分さを指摘し、時代の要請に応えられる会計制度への変革を訴える内容の本でした」。それは長年の研究成果を総括して世に問うものだったにもかかわらず、大野教授の胸には、研究者として何かやり残しているという思いが残ったという。

「私の著書が対象にしていたのは企業組織や経営者で、例えば定年退職して組織から離れた人、家庭の主婦などに役立つものではありませんでした。しかし、知的資産は企業組織だけでなく、社会全体に役立ってこそ意味があります。それ以降、企業組織に属さない生活者の視点で価値がある研究をしたいと考えるようになりました」

生活者に最も大切な知的資産はヘルスケアの知識・情報

大野 俊雄 経営学部 教授
大野 俊雄 経営学部 教授

社会全体に価値がある研究テーマとして「ヘルスケアマネジメント」を選んだ理由について、「私たち生活者にとって最も必要で重要な知的資産は何かと考えた時、それは広い意味でのヘルスケアに関する知識・情報だと思い至りました。また、本学が立地するポートアイランドの医療産業都市構想が、今年度の中央市民病院(現在は神戸市立医療センター中央市民病院)の新築移転や、来年度に迫った独立行政法人・理化学研究所による次世代スーパーコンピュータ『京(けい)』の本格的な運用開始などで成果を上げてきたことなども考慮しました」

研究教育の第一歩として大野教授は、経営学部での社会環境会計の講義に加えて、今年度から、社会人向け公開講座「ヘルスケアマネジメント・キャリアアップコース」という生涯学習講座を企画。ポートアイランドキャンパスで開講している。医療や介護、医薬品・医療機器などの業界だけでなく、自分自身や家族の健康に関心が高い地域の人々まで、多様な職種や立場、年代の人々がこの講座に積極的に参加しているという。

「私自身にとっても、講師を務めたヘルスケア関連の研究者や専門家から、最新情報を得られる絶好の機会となりました」

「健康寿命」の観点で自分の健康をマネジメントする

大野 俊雄 経営学部 教授

大野教授が最終的にイメージしているのは、今注目されている「クラウド」によるヘルスケアマネジメント・システムに関する基本的な枠組みの設計だ。 「もし患者の病歴・治療記録や生活環境の特徴などが一元的にデータベース化されていれば、例えば大きな自然災害に見舞われ混乱のさなかにある被災地などでも、患者さんの治療や看護、介護に大いに役立ちます。また、最近は私たち一人ひとりが自分の健康に関して、ある程度の自己管理が求められる状況になってきています。ヘルスケアに関するさまざまな知識や情報の管理を行政・医療機関や医療関連企業に任せてしまわず、一人ひとりが管理の一翼を担わないと、自分自身のしっかりとした健康管理はできません。そのために必要なのは、ヘルスケアに関する情報を上手に蓄積し、そこから必要な情報を引き出し、最適なヘルスケアメニューを作るためのシステム。その基本デザインを医療機関や行政などに提案したいと考えています」。

国民医療費の増大や、介護保険の財政的逼迫(ひっぱく)などが連日のように報道される今、ヘルスケアマネジメントが机上の空論とならないよう現場の問題意識や課題を吸い上げ、システム構築に向けて、学問分野の垣根や国境を超えた知見を結集させていきたいという。

「日本女性の平均寿命は世界一です。しかし、私は平均寿命より、いかに健康に生活できる期間を延ばすかという、WHO(世界保健機関)提唱の『健康寿命』をより重視したい。また最近は個別化医療が話題になっていますが、私は21世紀型の「個別化ヘルスケア」を、地域の人々と一緒に勉強しながら、時間をかけて熟成させていきたいと思っています」

プロフィール

1969年一橋大学経済学部卒業。79年神戸大学大学院経営学研究科博士課程・単位取得満期退学。経営学修士。80年から神戸学院大学経済学部講師。83年から同大学経済学部助教授。91年から同大学経済学部教授。日本会計研究学会、非営利法人研究学会所属。

主な研究課題

  • 知的資本会計(知的資産、知識経営)
  • 社会的責任会計(CSR、SRI)
  • 会計情報システム(収益会計、リアル・オプション)
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