2009年7月
大学教授兼企業の社外取締役として、理論を実践に反映させながら“大人の学問”経済学を追究in Focus

大学教授兼企業の社外取締役として、理論を実践に反映させながら“大人の学問”経済学を追究。 竹治 康公 Yasumasa Takeji 経済学部 経済学科 教授

いったん社会に出るも
学者の道を目指し再び学び舎へ

私は、大学を卒業してしばらくの間、銀行に勤務していました。その間、当座預金の管理や顧客開拓のための外回りの営業といった銀行業務全般を担当し、仕事に追われる日々を送っていました。しかし、入社して2年3ヶ月後には銀行を退社。銀行員としての生活に不満があったわけではありません。実際、銀行員時代に築いた人的ネットワークは、現在の研究活動を行ううえで大いに役立っています。私は、卒業する際、大学院進学と就職とどちらにしようかと迷った末、最終的には就職するという選択をしました。そうした経緯もあって、学者になれば自由な立場で存分に経済のことを研究することができると考え、改めて大学院入学にチャレンジする決心をしたのです。

経済学の理論を追究しつつ
積極的に実際の経済活動の現場にも参加

セミナーで講演する竹治教授。企業や公的機関との連携によるフィールドワークやセミナーがERCの研究活動の中心である。
セミナーで講演する竹治教授。企業や公的機関
との連携によるフィールドワークやセミナーが
ERCの研究活動の中心である。

研究者としてのキャリアをスタートさせた当初は、もっぱら、ものの値段やGDPはどの水準で決まるのかといったテーマを複雑な数式を使って導きだす研究を行っていました。その後、理論だけでなく実践的な研究をしたいとの思いから、1999年に、タイに進出している日系企業の調査に乗り出しました。その後2001年に本学では、地域における優良企業のトップを招いて講義してもらうという「企業連携講座」が始まります。その1回目の講師として教壇に立ったのが、車のエンジンやミッション部分などの部品を開発製造しているメーカーで、明石に本社を構える株式会社カネミツの社長(現会長)と常務(現社長)でした。ちょうど、カネミツの現地法人がタイに設立されたということもあり、一緒に何か仕事ができないかということで意気投合。2005年に会社が大証二部に株式を上場する際には、要請を受けて社外取締役に就任しました。現在、私は、学内での研究活動のほか、新たな市場モデルの構築を提言したりなど、株式会社カネミツの社外取締役としての活動も行っています。また、文部科学省より助成金を受けて発足した学内の研究機関、「東アジア産業経済研究センター(ERC)」の研究員にも名を連ね、経済産業省などの政府機関や自治体、企業などと直接連携しながら、中国やタイなどアジアに進出している日本企業の活動を調査研究しています。その活動の一環として、今年10月には阪神地域の中小企業に中国ビジネスに関する支援等を行っている「日中 神戸・阪神―長江中下流域交流促進協議会(神戸・阪神協議会)」の、経営者向けのセミナーで講演することになっています。今回の講演では実際に現地で見聞きしたことをもとに,中国の歴史や文化について講演を行う予定です。本気で中国で成功したければ、その国の風土や文化、歴史などを踏まえ、人となりをまず知ることから始めよ、というわけです。

地域経済活性化のために
実際に運用可能なシステムを実現したい

竹治 康公 経済学部 経済学科 教授

世間には、経済学など机上の学問に過ぎないと切り捨てる意見もあります。理論を長らく追究しつつ、一般企業の経営にも携わってきた私からすると、それは大きな間違い。実際の経済活動に照らし合わせると、随分役に立つ学問であると実感します。経済学は、一部の天才を除けば,現実経済の中で,時間をかけてその意味と有効性についての理解を深めていく、いわば“大人の学問”。今後は、零細企業も含めた地域経済を活性化させる運営システムのモデルを構築し、実際に稼働させることができるような研究活動をしたいと考えています。私は、研究室で大量の文献を消化して研究を進めるというオーソドックスな手法が苦手なタイプ。銀行から大学に舞い戻って20年経った今、つくづくそう感じます。実践の中から理論を構築する。今後もそうした姿勢で、研究活動に臨みたいと思います。

プロフィール

1980年京都大学卒業後、三菱銀行入社。退社後、京都大学大学院修士課程(経済学研究科、理論経済)修了。その後、助手として神戸学院大学経済学部へ。現在、同大学経済学部教授。

主な研究課題

  • 不確実性下における非確率的意思決定理論(意思決定、不確実性)
  • 貸出市場における情報非対称性を考慮したマクロ経済モデル(非対称情報、貸出市場)
  • 東アジアにおける日経企業の展開

Focus on Lab ―研究室リポート―

就職は結婚と同じ
じっくり業界研究をして本当に行きたい会社を選んでほしい

7年間大学の就職部長として学生のキャリアサポートにあたり、現在も就職委員を務める竹治教授。自身のゼミナールでも、就職につながる企業研究をするよう学生に指導しています。「学生には、ゼミのスタート時に、興味のある業界をいくつかピックアップして調べて、最終的に一番行きたいと思った業界を研究テーマにしなさいと言っています。そうした勉強を普段からしておけば、面接の際にどう受け答えをすればよいか、何を質問すればよいのかが自ずと分かるはず」。竹治教授は、大学のキャリアサポートの重要性を認識しながらも、学生がもう少し自立的な態度で就職活動に臨んでほしいと考えています。「面接マナーだとか言葉遣いなども、もちろんきちんとしている方がよいとは思いますが、企業担当者は、第一に学生の熱意を知りたいわけです。熱意と言ってもただ“がんばります!”ではなく、業界や企業に対するきちんとした分析をしたうえで動機やヤル気を語ることができ、一緒に働きたいと思ってもらえるか。そこのところを見ているのです。そういった意味では、本当に興味を持っていることを生業にできる企業を目指すべき。就職も結婚と同じで、本当に好きな人とでなければ長続きしません。後で、“失敗した!”と後悔しないためにも必要な心構えです(笑)」

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