2021年2月 文化から政治・経済まで世界の人々と直接語り合う体験をin Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 文化から政治・経済まで世界の人々と直接語り合う体験を(岡部 芳彦/経済学部経済学科教授 国際交流センター所長)
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 文化から政治・経済まで世界の人々と直接語り合う体験を(岡部 芳彦/経済学部経済学科教授 国際交流センター所長)

アニメ文化をテーマにロシアと交流

社会のグローバル化は今後もさらに進展し、ボーダーレスに活躍できる人材があらゆる分野で求められていきます。本学は、2015年のグローバル・コミュニケーション学部新設をはじめ全学をあげてグローバル人材の育成に取り組み、高い成果をあげています。中でもユニークな取り組みといえるのが、ロシアとの交流です。


始まりは2015年9月ロシアのモスクワ大学で開催した「日露アニメ・オタク文化学生サミット」でした。経済学部の私のゼミでは当時、日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国、ロシアの5地域の経済について班に分かれて調べていました。ロシア班になった学生たちは、ロシアで日本アニメブームが起こっていることを知って興味を持ち、日露の学生が集まってアニメやオタク文化について語り合うイベントを企画しました。これが外務省所管の日露青年交流センターが実施する交流事業に採用され、実現することになったのです。日本アニメの最新事情やロシアアニメと日本アニメとの関わり、ソ連崩壊後のロシアに日本アニメがどのように流入したかなど両国のアニメファンにとって興味深い報告のほか、アニメのコスプレをした参加者たちが好きなアニメについて語る分科会などが行われ大いに盛り上がりました。この成功を受け翌年には、国の対日理解交流促進プログラムの一環として「第2回日露アニメ・オタク文化学生サミット」を本学で開催しました。


それ以降もサブカルチャー交流を継続的に実施しており、特色ある日露交流として注目を集めています。2018年にはロシア第五の都市ニジニ・ノヴゴロドで、本学と交流協定を結ぶニジノ・ヴゴロド国立言語大学と「伝統・現代日本文化フェスティバル」を共催。学生によるコスプレ寸劇のほか日本舞踊演舞、殺陣パフォーマンスなど、伝統芸能からサブカルチャーまで多彩な日本文化の今をロシアの人々に紹介しました。さらに、2019年にはウラジオストクの極東連邦大学で「東方サブカルチャー交流」を実施しました。また、2017年には、神戸市との共同事業として、本学を含む神戸市内の大学の学生でエカチェリンブルク市を訪問し、アニソンやコスプレの大会を開きました。こうしたサブカルチャー交流は、北方領土問題に関連した国の事業「北方四島交流訪問事業」(ビザなし交流)への参加にも発展しました。2016年には択捉島、2017年には国後島、2019年には色丹島への訪問団に学生たちが参加し、ロシア系島民との交流行事として「アニメ・オタク文化青年サミット」を開催しました。

このようなサブカルチャーを通じた若い世代の交流には、文化の共有によって国や立場の違いを乗り越え一気に親しくなれるという大きな意義があります。最初の学生サミットの企画書に「日本語でもないロシア語でもないアニメという第三の言語で会話をする」と書かれていたことが、まさに現実になっているのを感じています。このような小さな文化レベルでの交流を積み上げていくことが互いの国への関心や理解を広げることにつながり、国同士の衝突を防ぐ最後の安全弁となるはずです。学生たちは、非常に短い期間でロシアという国やロシア人を知り、個人の人脈も構築しました。今後は、ロシアに興味のない若い人を巻き込んで、日露の人的交流をさらに進めていくことが大切だと思います。

日露の学生が両国の未来を議論

サブカルチャー交流に加え、本学の日露交流をさらに拡大することになったのが、2016年に設立された日露大学協会への加盟です。日露大学協会は、日本とロシアの経済協力・人的交流推進のための人材育成を目的に設立されたもので、日露両国から25大学ずつが参加。医療健康、都市づくり、中小企業交流など各方面から経済協力の可能性を議論するとともに、単位互換や共同学位など学生交流促進のためのシステムづくりも目的にしています。

本学は、それまでのサブカルチャー交流の実績が評価されて加盟することになりました。これを契機として協会への加盟大学を中心に新たな協定校を増やすことができ、ロシアでの大学ネットワークが拡大するという大きなメリットをもたらしました。

日露大学協会内には、学生同士の交流組織として日露学生連盟が結成されました。情報・モチベーション・コミュニケーションの不足を解消するために学生たちが自主的に活動する組織で、本学の学生はそのリーダーを務めるなど積極的に活動を展開しました。

活動の中心は、日露の交流・関係をいかにして深めるのか経済、科学技術、言語、スポーツなど社会のあらゆる分野にわたるテーマで議論を行うことです。若い世代ならではの柔軟な発想で、たとえばロシアで採れる原油を日本の技術を使って日露双方にメリットがあるように活用できないか、日露共同で科学雑誌を発行することで互いの技術の向上に役立てられないか、といった創造的な提案が行われました。

日露学生連盟でのディスカッションは、彼らが日々接するできごとを国際間の交流というマクロな視点で考える機会になったでしょう。国交の最前線がすぐそばにある、そんな自分事の感覚が芽生えてきたはずです。また、二国間の関係強化を目指す国際会議に臨席し、日露交渉の最前線を目撃しているという感覚を味わうことができたのではないかと思います。

文化から政治まで幅広い体験で世界を知る

これまでお話してきたロシアとの交流に参加した学生たちはその意義をどのようにとらえたのか、2人の学生にインタビューしました。最初は、2019年の色丹島、ウラジオストクでのサブカルチャー交流に参加した経済学部4年次生、岡部ゼミの梅野恵利袈さんです。

―梅野さんは、なぜロシアとの交流に参加しようと思ったのでしょうか。
ゼミの先輩たちの日露交流活動の姿がとても楽しそうだったからです。いざ自分が交流に参加してみると、確かに楽しいのですがそれだけでは済みません。学生が中心になってコスプレ大会やアニソンカラオケ大会などのイベントを一から企画するのは結構大変で、どんな演目ならロシアの人が喜んでくれるのかとメンバーで相当知恵を絞りました。

―実際に現地での体験はどうでしたか。
やってみて驚いたのは、ロシア人の方が私たちよりずっと日本アニメに詳しかったこと。想像以上に、日本アニメが受け入れられているのを肌で感じました。大変だったのは、直前でスケジュールが変更になったことです。ただ、それを聞いて焦ったのは私たちだけ。ロシア人との価値観の違いを感じました。このような経験を通じて、自分の常識とは違うことに出合っても柔軟に考え、臨機応変に対応する大切さを学べたと思います。

―北方領土に行くのは貴重な経験ですよね。
梅野 北方領土へは許可を受けた人しか行けませんし、領土問題の舞台なので、イベントにも持ち込んではいけないものや使ってはいけない言葉などいろいろな制限がありました。会場には当局の人が目を光らせており、国際問題の現場にいるんだという緊張感を感じました。また、色丹島の道路は舗装されておらず、ごみ処理場もないという現状にも触れ、北方領土のことを本当に何も知らなかったと痛感させられました。

―ウラジオストクはどうでしたか。
梅野 日本語を学ぶアニメ好きの学生たちと接して、ロシア人のイメージが変わりました。日露交流に参加するまでは、ロシア人は常に冷静な感じなのかなと想像していましたが、実際に会ってみると呼吸困難かと心配するほど爆笑したり、感情がとても豊かです。また、市内観光中にも「どこから来たのか」「日本アニメではこれが好きだ」などと話しかけられ、そのフランクさも意外でした。



―この経験を通じて梅野さん自身が変化したことはありますか。
梅野 異文化にたくさん触れたことで、固定観念にとらわれずに行動していこうと思うようになりました。また、日本のアニメを愛する人たちなのだとわかったことでロシア人に対してとても親しみが湧きました。ロシアの学生たちとはSNSでつながったので、今後も交流を深めていくのが楽しみです。

日露学生連盟に参加したグローバル・コミュニケーション学部4年次生坂口尚弥さんにも話を聞きました。彼は、2019年10月にモスクワ大学で開かれた連盟の学生たちによる第2回日露学生フォーラムで、日本側の学生リーダーという大役を見事に果たしました。

―日露の学生同士の交流のどこに興味を持ちましたか。
坂口 ロシアにとくに興味があったわけではありません。しかし、そんな僕だからこそ参加する意義があると思いました。他大学にはロシア語学科で学ぶなどロシアに関わりの深い学生が多かったのですが、何も知らない僕が気づいたことを発言したり、学ぶ姿勢を見せたりすることが良い影響を与えるのではないかと考えたのです。

―リーダーとして取り組んだことはありましたか。
坂口 フォーラムの目的は、日本とロシアが交流を深めWIN-WINの関係を構築できるよう学生らしいアイデアを出し合うことなので、学生同士のコミュニケーションを円滑にして意見が出やすい環境を作ろうと考えました。日本から参加する学生一人ひとりにフォーラムへの意欲や意識を確認してみると、少しモチベーションが不足しているようでした。そこで、リーダーとして大会に込めた想いや実現したいことなどを動画にして発信し、目的の共有に努めました。また、本番で活発な議論ができる下地づくりとして、事前にオンライン交流会を開くなど準備を入念に行いました。

―フォーラムの成果とその後の取り組みについて教えてください。
坂口 学生が話し合って決めた13の学術的・文化的トピックを、ロシア側の代表学生と一緒に日露大学協会の学長会議などで発表しました。学長のみなさんからは好評で、同時に発表された各大学の取り組みよりも優れていたと褒めてくださる方もいて感激しました。私たちの提案が本格的なプロジェクトとして実現するかどうかはわかりませんが、若者の大胆なアイデアや偏りのないものの見方が、両国の国交の未来に何らかの良い影響を与えられたらうれしいと思います。帰国後にはロシア大使館でのパーティなどにも参加し、こうした人々の交流や対話によって実際に世界が変わっていくという実感が持てたのも得難い体験でした。フォーラム後は月に1回程度、オンラインで小さな会議や語学の勉強会などを実施しています。せっかく日露の学生交流が広がったので、フォーラム以外でも興味を持った学生が参加できる交流の場をつくっていければと思っています。

―今回の経験でどんなことを学びましたか?
坂口 僕を含めて日本の学生は、海外への興味が偏り過ぎていることに気づきました。いろいろな国の政治、経済、文化も含めて興味の幅を広げ、学生のうちに豊富な体験をし、多面的に世界と触れ合うことで世界を深く理解する。それが日本を知ることにもつながると確信することができました。

国際課題解決に向けた行動力を養成

2020年に国際交流センター所長に就任し、積極的に進めてきたロシア交流の取り組みの成果も踏まえ、より幅広い国際交流活動を進めていきたいと考えています。国際交流を通して文化の違いに気づき受け入れる姿勢を身につけることはもちろん大切ですが、それに加えて国際社会の課題をとらえ、解決に向けて行動を起こす力を養うプログラムを提供したいと思います。学生にとっては、世界で起こるできごとを身近に感じ、自分に何ができるのかを考えるチャンスになるでしょう。国際貢献やそれを通じた深い相互理解を通して、世界の平和を創造しようとする気概に満ちた人材を育成することが今後の目標です。

Information

本学は、2020年11月に知の発信拠点として神戸学院大学出版会を設立しました。設立を記念して刊行する書籍の1冊が、岡部教授の新著『日本・ウクライナ交流史 1915-1937年』(2月1日刊行。定価1800円+税)です。国際ウクライナ学会日本支部でもあるウクライナ研究会の会長を務める岡部教授が、大正時代に来日したウクライナ人劇団にはじまり、1930年代の満州・ハルビンでの交流など、日本とウクライナの知られざる結びつきを克明に描き出します。

プロフィール

1999年 関西学院大学 経済学部 卒業
1997年 モスクワ国立総合大学 国際教育センター 留学
2009年 大阪大学大学院経済学研究科 博士課程 単位取得退学
博士(経済学:神戸学院大学)
2009年~2012年  神戸学院大学経済学部 講師
2012年~2017年  神戸学院大学経済学部 准教授
2017年~現在    神戸学院大学経済学部 教授
2012年~2013年 英国ブリストル大学 visiting research fellow
2018年11月 ニジニ・ノヴゴロド国立言語大学 名誉教授
2019年5月 ウクライナ大統領付属国家行政アカデミー 名誉教授

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