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vol.80

日本心理学会シンポジウム「溺れる心 依存症を考える」を開催

ー神戸学院大学 ポートアイランドキャンパスB号館2階B203講義室ー
開催日時: 2014年10月25日(土)14:00〜17:40

星槎大学 杉山尚子教授


人文学部人間心理学科 吉野絹子教授


独立行政法人科学技術振興機構研究員 廣中直行氏


今回のシンポジウムは、飲酒やギャンブル、インターネット依存など新しい形態も含めた身近な依存症を取り上げ、そのメカニズムを解き明かし、依存症にならない、あるいは、回復するための方策を考えることを目的に実施。4名の専門家を講師として迎え開催されました。

冒頭、シンポジウムの企画を担当された星槎大学の杉山尚子教授が、「日本心理学会が2011年より公益社団法人として歩むこととなり、一般の方に心理学についての理解をより深めていただけるよう、年間25回程度、さまざまなテーマでシンポジウムを開催しております。この度は、依存症をテーマに、すばらしいキャンパスで開催できることに感謝しております」と挨拶されました。
続いて、本学の人文学部人間心理学科の吉野絹子教授が登場。「今回、身近な問題である依存症について、公益社団法人日本心理学会主催のシンポジウムを本学で開催できるのは大変光栄なこと。本学は、これからも地域に開放された大学として、地域の皆様とともに歩んでまいりたいと思います」と述べました。

司会進行は、依存症と脳の関係性について研究し、医学博士でもある独立行政法人科学技術振興機構研究員の廣中直行氏。シンポジウムに入る前に、イントロダクションとして、依存症のメカニズムについての説明をされました。
その後、アルコール依存の研究・治療に携わる「かすみがうらクリニック」の猪野亜朗氏、調査・実験を主体に依存症を研究する関西学院大学の高橋伸彰研究員、ギャンブル依存症についての研究を行う本学人文学部人間心理学科の木戸盛年実習助手、実際の治療に関わりながら研究を行っている新潟大学の神村栄一教授の4名による講演会を開催。講演後は、来場者から提出された質問カードの内容にそれぞれの講師が答える時間が設けられ、シンポジウムは閉会しました。

今回は、臨床現場の専門家のほか地域の方々も多数来場。最終的には160名の方に出席いただきました。依存症に対する社会的な関心が高まっていることを感じさせる、有意義なシンポジウムとなりました。

講演会概要

かすみがうらクリニック
猪野 亜朗 氏

かすみがうらクリニック 猪野 亜朗 氏

テーマ:「アルコール依存症治療の新しい時代」

私は三重県で、40年に渡りアルコール依存患者の治療に携わってきました。そこでは、孤立無援となり世の中から見捨てられ、なぜ自分が死ぬのかも分からず亡くなる患者の姿を見続けてきました。しかし、家族も同様に地獄の苦しみを味わっているにも関わらず、これまでの日本では専門家を含めてアルコール依存者を見て見ぬ振りをする傾向がありました。これは、日本社会が“酒は百薬の長”と考えるなど飲酒に対して甘い認識を持つにも関わらず、一定の度を超えた者に対しては偏見的な見方をし忌避する傾向があるからです。

その風向きが、ここにきて変化してきました。アルコール依存問題を解決しようという機運が高まってきたのです。これには、主に2つの理由が考えられます。ひとつは、数年前に起きた福岡での飲酒運転事故です。飲酒運転により子どもたちが亡くなるという悲劇が、アルコールの害について社会が真剣に向き合うきっかけとなりました。もうひとつは、脳科学の進化です。アルコール依存は意志の弱さに原因があるとされてきましたが、脳のメカニズムによって飲酒行動が明らかにされたのです。アルコール依存症は、脳の変化が生じて起こる病気であるとの認識が専門家の間でも広まることとなったのです。

2013年12月に「アルコール健康障害対策基本法」が成立しましたが、これもこうした時代の機運が後押しした結果といえるでしょう。私はこれまでの4年間、この法律の成立に尽力してきました。脳科学の発達によってアルコールとうつ病との因果関係なども解明され、新たな治療システムも確立されつつある現在、効果的な治療技法の確立を願って治療・研究活動を行っているところです。

関西学院大学大学院 文学研究科
高橋伸彰 研究科研究員

関西学院大学大学院 文学研究科 高橋伸彰 研究科研究員

テーマ:「行為嗜癖とは:物質と行為の類似性」

私は現在、さまざまな依存症に対してどう対処すればよいかを研究しています。そのなかで分かってきたのは、“物質(モノ)”にはまることと“行動”にはまることには類似性があるということです。

依存症の人々に特徴的なのは、刺激の強い活動が好きである、あるいは、後先のことを考えずに行動するなど、強い衝動性を内包しているということです。例えば、『今日もらえる4万円』と『5年後にもらえる10万円』であれば、一般的には後者を選びます。ところが、ギャンブル依存など何らかのトラブルを抱えている人たちは前者を選択します。つまり、待てないわけです。これは、喫煙や飲酒、薬物などのモノでも、賭博やインターネットなどの行動でも、どちらにはまっている人にも共通した点です。さらには、モノにはまる人は、行動にも等しくはまるという調査結果も出ています。依存する理由について、ギャンブルでは気晴らしや習慣といった理由をあげる人が多いのも特長です。

また、人が物質や行動に溺れるのは心理的苦痛を軽減させる効果があるという説を「自己治療仮説」と呼びますが、どの物質や行動に向くかは個人差があるとされます。ただ、何らかの不快な状態に陥ることをきっかけに、それを軽減させる手段としてモノや行動にのめり込むという過程は同じです。そこで、ハマるモノや行動を、より社会的に望ましい趣味などに気持ちを向けさせることができれば、不快な状態を一時的に軽減させることができます。さらには、不快な状態に陥る原因を根本的に解消させることができれば、永続的な依存症からの回復に向かうことができると言えるのです。

神戸学院大学 人文学部 人間心理学科
木戸 盛年 実習助手

神戸学院大学 人文学部 人間心理学科 木戸 盛年 実習助手

テーマ:「ギャンブル依存症の実態と予防」

日本は競馬や競輪、競艇などの年商が合計6兆円にもなる公営賭博と、年商20兆円であるパチンコやパチスロ産業が存在する、他に類を見ないギャンブル大国です。この市場規模の背景には「ギャンブル依存症」などの問題が存在しているのですが、政府はさらなる経済効果を見込んでカジノを誘致しようと計画を進めています。このような現状において、厚生労働省は最近やっと「ギャンブル依存症」の人数が536万人(成人人口の4.8%)という実態データを発表しました。この人数はノルウェーの総人口に相当し、人口割合も高くとても深刻な状況なのですが、日本では未だ抜本的な対策が取られておらず「ギャンブル依存症」への理解もあまり進んでおりません。一方、日本と比較し諸外国では政府と業界が協力し様々な対策が行われています。例えば韓国では「ギャンブル依存症」に対する啓発や治療施設の運営を、競馬協会自体が行っています。またオーストラリアでは長時間ギャンブリングマシーンをプレーすると、“設定時間を超えていますがまだ続けますか?”という警告文をマシーンの画面に表示するなど、カジノ業界自らが「ギャンブル依存症」防止への取り組みを行っています。

それでは、日本ではどのように対策を行っていけば良いでしょうか。日本では「ギャンブル依存症」の治療として、認知行動療法や投薬による治療などが行われています。また同時に、「ギャンブル依存症」に悩む人たちが回復を目指す自助グループへの参加も回復には重要です。しかし、治療施設や自助グループが揃っていない地域もあるので現状の改善が必要ですし、「ギャンブル依存症」防止の視点も踏まえた対策も必要でしょう。

このように、巨大なギャンブル産業と多くの「ギャンブル依存症者」が存在するわが国において、カジノを誘致するのか否かについては、経済効果というメリットだけでなく「ギャンブル依存症」などのデメリットもあることを認識した上で結論を下さなくてはならないでしょう。

新潟大学 人文社会・教育科学系
神村 栄一 教授

新潟大学 人文社会・教育科学系 神村 栄一 教授

テーマ:「行為依存への認知行動療法」

特定の行為に依存することを行為依存と言います。ギャンブル障害や買い物依存などの嗜癖性障害、万引き癖、異常性欲による習癖、リストカットや抜毛なとの衝動制御の問題も関連します。これらの行為依存には、サイコセラピーの一種である認知行動療法(CBT)が有効とされています。具体的には、行動のメリットをとらえる機能分析から始め、患者自身によるセルフモニタリングにより、セルフコントロールできるようにしていきます。

ある行動が習慣として維持されるのは、それによって、「落ち着く」あるいは「嫌な刺激を回避できる」といったメリットがもたらされているからです。そのメリットによる悪循環を、環境の中の刺激、認知や行動の連鎖としてとらえ、症状の再燃への対処を工夫していきます。発表者が担当した事例に、リストカットを繰り返す高校生がおりました。まずは気持ちにゆとりを確保してもらい、衝動が高まったときは音楽を聞く、カウンセリングで確認した自分あてのメッセージを確認するなどを提案し取り組んでいただいた結果、解消に向かいました。ギャンブル依存の方には、集団でのCBTも期待できます。はまる心の過程をふりかえり、気持ちをかわす工夫、ギャンブルではないがギャンブル要素を含む代替行動を考えるなど、皆で知恵を共有し励まし合うことで効果を高めることができるのです。

認知行動療法は機能分析に始まり、機能分析に終わるといっても過言ではありません。依存者の生活において依存行動がもたらしているメリットのパターンを見定めることで、認知行動療法の正否が左右されます。

シンポジウムを終えて

神戸学院大学 人文学部 人間心理学科
木戸 盛年 実習助手

神戸学院大学 人文学部 人間心理学科 木戸 盛年 実習助手

現在の日本においては、「ギャンブル依存症」をはじめとするさまざまな依存症に対する知識が乏しく本人の性格や資質のせいにされがちで、本格的な対策が取られていないのが実情です。そういった中で、今回のシンポジウムは、こうした依存症が脳科学の分野から解明され始め、病気として国全体で治療に取組まなければならない問題であるということを、ご参加いただいた地域の皆さんに認識していただくよい機会になったのではないでしょうか。

「依存症」についてどこまでが正常でどこからが異常なのか判別することは難しいのですが、その行為をしていても以前のように「楽しい」と感じられず、「つらい」と感じながらもやめられないのであれば「依存症」だと言えるでしょう。このような「依存症」についての正しい知識を持つことがまず重要であり、学生を始め多くの人に知ってもらうためにも、心理教育やガイダンス、そして今回のようなシンポジウムといった機会が今後さらに多く設けられ、現状の改善に繋がることを願っております。

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