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  5. vol.26 大学院人間文化学研究科 心理学専攻 臨床心理士第一種指定校 指定記念フォーラム「地域に根ざす心理臨床」を開催

vol.26

學報トピックス

大学院人間文化学研究科 心理学専攻 臨床心理士第一種指定校
指定記念フォーラム「地域に根ざす心理臨床」を開催

― 神戸学院大学 有瀬キャンパス15号館151M教室・14号館6階 ―
開催日時:2009年7月11日(土)13:00〜16:30 

今年度、本学大学院人間文化学研究科心理学専攻が、財団法人日本臨床心理士資格認定協会の実施する臨床心理士の受験資格を有する臨床心理士第一種指定大学院に指定されました。2009年7月11日、今回の認定を記念して、「地域に根ざす心理臨床」をテーマにしたフォーラムと分科会を有瀬キャンパスにて開催。本学学生や一般の方々、総勢120名以上が参加して実施されました。

大学院人間文化学研究科 心理学専攻 臨床心理士第一種指定校 指定記念フォーラム「地域に根ざす心理臨床」を開催

【第1部】指定記念フォーラム「地域に根ざす心理臨床」 13:00〜14:50

人間文化学研究科長の伊藤茂教授の挨拶でフォーラムがスタート

人間文化学研究科長の伊藤茂教授の挨拶で
フォーラムがスタート

5人のパネリストが紹介されそれぞれの講演へ

5人のパネリストが紹介されそれぞれの講演へ

人間文化学研究科心理学専攻長の小石寛文教授からの挨拶で第1部が終了

人間文化学研究科心理学専攻長の小石寛文
教授からの挨拶で第1部が終了

第1部のフォーラムでは、人間文化学研究科長の伊藤茂教授が、「今回、財団法人日本臨床心理士資格認定協会より、臨床心理士第一種指定校に指定されたことは非常に名誉なこと。ただ、臨床心理士の資格を取得した後で、それによって何ができるのかが社会では問われます。そもそも人間心理学科は、『社会に参加する心理学』をスローガンに掲げ開設されました。この指定校認定によって、人間文化学研究科心理学専攻が次のステージに向かうための力となることを願っています。そのためには、地域の方々の協力や評価が不可欠。これは、樹木に例えると木を大きく育てる栄養分のようなものです。今回のフォーラムを有意義に活用していただき、今後も私たちに“栄養”を与えてください」と挨拶し、フォーラムがスタートしました。

次に、神戸学院大学心理臨床カウンセリングセンター所長の日正宏教授より、人間文化学研究科心理学専攻は“臨床心理学系”と“心理学系”にコース分けされており、今回の指定校認定は臨床心理学系に与えられたものであることが説明されました。また、医師や認知症のエキスパートからスクールカウンセラーや家庭児童相談所の相談員、そして、職場でのカウンセリングまで幅広く多彩な経歴を持つ臨床心理士が、専任教員として9名在籍していることも紹介されました。その後、5名の専任教員がパネリストとして壇上に上がり、それぞれの経歴や研究活動内容について講演。現代社会における臨床心理士の多様なあり方や意義などについて述べられました。パネリストによる講演の後は、日教授から講演者以外の臨床心理学系の教員スタッフについての紹介も行われました。人間文化学研究科心理学専攻長の小石寛文教授が、「今回の記念フォーラムを開催するにあたっては、より“臨床心理学系”を理解していただくために、あえて著名な先生を呼ばずに本学の専任教員にそれぞれの活動内容を語ってもらうことにしました。そのおかげで、いかに本学のスタッフが多士済々であるかが理解いただけたかと思います。私は、大学が研究成果を還元するだけでなく、住民の方にいかに支援していただけるかということも地域に根ざすということだと考えています。今回の指定はゴールではなく、あくまでスタート。私たちには、立派な臨床心理士を養成するようミッションを与えられたと理解しています。ぜひ、地域の方々にはあたたかいご協力をお願いします」と述べ、第1部が閉会しました。

【第2部】分科会 15:00〜16:30

大学院進学に関する説明会には多数の学生や一般の方々が参加

大学院進学に関する説明会には多数の学生や
一般の方々が参加

福祉の専門家を対象にしたレクチャーが、小山教授、前田講師と、臨床心理カウンセリングセンターの若林亮カウンセラーによって開催

福祉の専門家を対象にしたレクチャーが、
小山教授、前田講師と、臨床心理カウンセ
リングセンターの若林亮カウンセラーに
よって開催

参加者の方が参加動機を語っていただくことから認知症に関する懇親会が始まり、石ア准教授と長谷川准教授が認知症に関する説明を実施

参加者の方が参加動機を語っていただくこと
から認知症に関する懇親会が始まり、石ア准
教授と長谷川准教授が認知症に関する説明を
実施

第2部は、場所を15号館に隣接する14号館に移動して分科会が開催されました。分科会は、それぞれ異なった内容で3つの教室に分けて行われました。そのなかの大学院説明会では、人間文化学研究科心理学専攻への入学を目指す学生及び社会人の方を対象に、臨床心理学系と心理学系の内容についての説明が行われました。他の教室は、「発達検査の読み方」「認知症とともに」といったテーマで分けられ、「発達検査の読み方」では教育・福祉現場で働く方々に対して、また「認知症とともに」では、ご自身が認知症に対する不安を抱えている方や認知症患者のご家族などに集まっていただき、それぞれミニレクチャーや相談会が実施されました。

【各パネリスト講演内容】

人文学部 人間心理学科 小山 正 教授

人文学部 人間心理学科
小山 正 教授

テーマ: 「障害のある子どもの発達と心理臨床」

私は以前京都の児童福祉センターに勤務し、障害のある子どもの言葉獲得期における発達研究に長年関わってきました。現職に就いてからもずっと同じ課題を追究しています。子どもが言語を獲得する発達段階において、ものごとを何かに象徴的に置き換える「象徴機能の発達」が見られます。この「象徴機能の発達」をキーワードに、私は、言語障害のある子どもの発達支援においては、遊びをベースに言語発達支援を行い、ものや人に対する関心を高めることでコミュニケーション意欲を向上させることが重要ではないかと考えています。私たち臨床心理士が保護者から相談を受ける際にもっとも多い相談は、子どもの言語発達の遅れに関してですが、こうした問題に適切に対処するためには早期に発見し、早期に解決する事が非常に重要です。そのために各地域では1歳半検診が行われており、言葉が遅れているとされた子どもに対しては、検診後のフォローが実施されています。その時に特に重要なのは、個別に教育を行い、どのような支援ができるのかを考えることです。現在では、言語発達支援に関するさまざまな方法が試みられており、保護者の方には、そうした指導法を選択する目を持っていただきたい。そのための支援を行うことも、私たち臨床心理士の役割ではないかと思います。また、私たちの目指す言語発達支援は、子どもたちが豊かな言語の獲得につながる支援をしていくことです。そのための研究を、今後も続けていく必要があると考えています。

人文学部 人間心理学科 石ア 淳一 准教授

人文学部 人間心理学科
石ア 淳一 准教授

テーマ: 「学校教育と臨床心理士の役割」

小中高の教育現場において、現在、多くの学校でスクールカウンセラーが配置されています。いじめや不登校が社会問題となり、学級崩壊という言葉が聞かれるようになった1990年代半ばに、そうした諸問題に対処しようと、教育者以外の人材を外部から招聘するようになりました。それが、スクールカウンセラー制度の始まりで、10数年経った現在ではすっかり教育現場に定着しています。教員からは、教育に携わる人間とは異なった観点を現場に持ち込んでくれているという声が多く聞かれるなど、スクールカウンセラー制度において、臨床心理士が果たした役割は非常に大きいものがあります。今、教育のありかたそのものが大きな変革期にあります。学力低下傾向への歯止めをかけるために学習時間を増やしたり規律重視の方向に向かっています。そうした現状を踏まえ、スクールカウンセラーも、今までとは違った視点を持つ必要があります。私は、将来的には、スクールカウンセラーが問題を未然に防ぐ予防的な機能を果たすこと、つまり、各学校におけるコンサルタントとしての役割を担うべきではないかと考えています。教員の能力を引き出したり、教員を支えバックアップしていくことも考えていかなくてはなりません。また、上級生が下級生を教え導くという、欧米で多く実施されている臨床心理学の技法を使った教育方法がありますが、そうした取組みを日本の学校で実施するなど、教育現場で臨床心理学がより活かされる方策も考える必要もあるでしょう。

人文学部 人間心理学科 前田 志壽代 講師

人文学部 人間心理学科
前田 志壽代 講師

テーマ: 「医療における臨床心理士の義務と役割」

臨床心理士が勤務する医療の現場は、クリニックと病院に大別されます。病院の場合は、総合病院は精神科や心療内科、小児科などに、精神科だけの単科病院にも臨床心理士が配置されています。クリニックの場合は、特に最近の傾向として、小児科に臨床心理士を置くケースが増えています。これは、阪神淡路大震災以降、臨床心理士が広く世間に認知されるようになり、小児科に対するニーズが高まったためです。次に、臨床心理士の病院における業務に関してですが、主に、心理検査と心理業務の2つ。心理機能や発達レベル、現実認識力や対人関係など患者個人の特色を理解したうえで治療の手がかりを得て、自力で心の悩みを克服しようとする力を援助するのが中心的な業務となります。他に、地域に出て行って啓発活動を行うとか、病院内のスタッフが元気に働けるように“各種相談”にのるなどのコンサルテーション的な活動、そして、自分自身のスキルを磨くための学習や研究も欠かせません。臨床心理士が病院で勤務するようになったのはそれほど昔のことではないため、他の医療の専門家ではできない“隙間産業的”な業務をこなし、さまざまな方々の力となる必要があるのです。また、心理学が追究してきた“科学の知”と医療現場の“臨床の知”をうまく融合させて活かすことが、精神科のチーム医療における専門家・臨床心理士の重要な役割といえるでしょう。このように、臨床心理士の仕事は精神的にも肉体的にも非常にハードですが、その分やりがいを感じることができます。臨床心理士を目指している方はぜひ資格を取って、医療現場に飛び込んでどんどん活躍していただきたいと願っています。

人文学部 人間心理学科 長谷川 千洋 准教授

人文学部 人間心理学科
長谷川 千洋 准教授

テーマ: 「高齢者心理の理解と支援」

高齢者と認知症はイコールで語られ誤解も多いのですが、ここ最近、認知症患者が、振り込め詐欺やドメスティック・バイオレンスなどの被害にあうケースが増えてきており、新たな社会問題となっています。そうしたなか、介護現場でも認知症をより深く理解しようという方向に向かっています。私たち臨床心理士は“心の専門家”として、認知機能低下が何らかの加齢によってもたらされているのか、脳の障害によって発生している病的なものなのかといったことを、専門家として正確に評価することが求められます。特に本学の大学院では、脳の機能に関する研究も行っているので、そうした領域をしっかり学んでいただきたいと思います。治療の際は、認知症患者本人のみならず、患者の家族をはじめ、医療や介護のスタッフなど関係者と連携し協力しながらあたる必要があります。また、こうした認知機能障害を軽減するとされるセラピーについては、いくつかあるなかで、リアリティ・オリエンテーション(RO)と呼ばれる、患者が現実認識することで尊厳を取り戻してもらう方法に効果がみられると言われています。いずれにしても、どのような技法が有効なのかといった査定をきちんと行うことも、臨床心理士の使命だと考えています。治療の際に一番重要なことは、患者の家族の心理的負担を軽減することですが、家族会などを利用して孤立感を防ぐなどの方策を講じる必要があるでしょう。このように、高齢者介護には大変な労力を必要としますが、子育てと一緒で介護する側も人間的に成長できる機会でもあります。臨床心理士を目指す方には、自分を成長させるための好機と捉え、高齢者に対する尊敬の気持ちを忘れずに接していただきたいと思います。

人文学部 人間心理学科 土井 晶子 准教授

人文学部 人間心理学科
土井 晶子 准教授

テーマ: 「産業界における臨床心理士の役割」

産業臨床と聞くと、多くの方は産業カウンセラーを思い浮かべるかと思います。しかし、産業カウンセラーは日本産業カウンセラー協会が認定している資格ではありますが、実際の産業臨床の現場においては、臨床心理士がその役割を担っています。また、一般の企業において産業医として関わる医師は内科医が多く、精神科の医師を常駐させている企業はまれです。そのためほとんどの場合、臨床心理士を中心に、保健師や看護師、外部機関のスタッフとともに業務を行っています。最近の企業では、過重労働によってうつなど心の病を発症し休職する社員が増えています。そこで企業では、実際に発症している社員のケアだけでなく、発症を未然に防ぐメンタルヘルス研修や管理職に対する傾聴教育といった対策を講じるようになっています。こうした研修や社会教育のほか、心の病を治して復職した社員を徐々に仕事に復帰させるためのお手伝いなどにも、臨床心理士が深く関わっています。私自身は、身体を動かすことで心にアプローチするような技法を用いて、企業に出向いて研修などを行っています。産業臨床の業務においては、大勢の前で話せない、あるいは社会常識がないといった臨床心理士では通用しません。企業と関わる仕事をこなすためには、研修ができることが必須条件です。私の場合、国内航空会社のグランドホステスとして伊丹空港に勤務したりなど、一度社会に出てさまざまな職業を経験していることが、現在の仕事にも大いに役立っていると思います。産業臨床は、臨床心理の世界ではまだまだマイナーではありますが、将来性の高い分野でもあります。これからの臨床心理士は、社会において、さまざまな関係者を結ぶコーディネーターとして、重要な役割を果たすことが求められているのです。

心理臨床カウンセリングセンター長 日 正宏

心理臨床カウンセリングセンター長 日 正宏

この度、大学院臨床心理学系が、卒業生に臨床心理士受験資格を与えられる第一種指定大学院に指定されました。臨床心理士は人の人生にかかわります。子どもたちの発達や、青年の進路、恋愛、結婚、職場の人間関係、高齢者の生きかたなど、人生の岐路に立ち会います。時には精神科医や警察などとの連携が必要なこともあります。このような失敗の許されない仕事に就くために、臨床心理学系のカリキュラムは理論と体験学習の双方を重んじ、実践的な教育・研究が厳しく進められます。同じ意味で、指定大学院の指定を受けるための審査にも厳しいものがあります。この指定に向けて、本学では、7年も8年もかけて計画し、準備を進めてきました。新しい建物を建て、スタッフを集め、地域の皆さんが相談に来られる心理臨床カウンセリングセンターを作り、など、大変な労力のかかったものです。

本学は施設・設備のみならず、臨床心理学の幅広い教職員を集めることができたことを誇りに思います。全臨床心理士教職員が、子どもから高齢者、学校や病院などの現場経験を持っています。大学での理論研究と、現場での実践の両面から大学院生に接することができる。それが私たちの特長です。

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