データを読み解き新たな価値を生み出すデータサイエンス人材を育てる in Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ データを読み解き新たな価値を生み出すデータサイエンス人材を育てる(齋藤 政彦/経営学部 教授)
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ データを読み解き新たな価値を生み出すデータサイエンス人材を育てる(齋藤 政彦/経営学部 教授)

コンピュータの進化で急速に普及するデータサイエンス

今、注目されている学問分野の一つに、データサインエンスがあります。データサイエンスはごく簡単に言うと、さまざまなデータを活用して社会をよりよく変えていくための理論や技術を研究する学問です。統計や調査の結果を政策立案に活用すること自体は昔から行われてきましたが、ICT(情報通信技術)のめざましい発展で膨大なデータの収集が可能になったことでその活用範囲が大きく広がってきました。従来は扱えなかった画像やテキストなどもデジタルデータ化により解析できるようになり、AI(人工知能)技術の導入によって膨大なデータの処理や解析を高速に行うこともできるようになりました。データサイエンスを社会に応用できる環境が整ってきたのです。

現代社会では、さまざまな場面でたくさんのデータが集まる仕組みが整備されています。インターネット検索やインターネット通販、ICカードでの通勤・通学や会員カードを使った買い物、SNSへの投稿のほか、センサーから自動的に収集される観測データなどその領域は多岐にわたっています。さらに、家電や自動車などさまざまな機器に内蔵されたセンサーをインターネットと接続するIoT(Internet of Things)と呼ばれる技術が進展し、より多くのデータがインターネットを通じて共有されるようになってきています。

こうしたデータの中から、たとえば誰がどんなものをいつ買っているのかというデータを、社会や経済の状況、天候などさまざまなデータと重ねて分析することで、どんな時期にどんな人にどんな商品が売れるのかを予測することが可能になります。また、交通状況や人々の動きを分析することで災害時の対応策を立てたり、土壌や気候の変化から農作物の生育状態を予測し農作業の効率化を進めることもできます。このようにデータサイエンスは、データの科学的な分析によって、経験や勘だけでは不可能だった新たな知識や価値を生み出すことで、社会問題の解決に役立ちビジネスの生産性を向上させる技術分野として期待されています。

データ活用の現場で価値創造の流れを体験

神戸学院大学では、2023年4月、経営学部にデータサイエンス専攻を開設しました。私は長らく数学の一分野である代数幾何学の研究を続け、前任校の神戸大学では数理・データサイエンスセンターを立ち上げ、初代センター長を務めました。その経験を生かして本学経営学部に着任し、データサイエンス教育の充実を図っています。

経営学部にデータサイエンス専攻を開設したのは、企業経営にデータサイエンスがどんどん取り入れられている現状に応えたものです。マーケティング、経営戦略、人事などあらゆる分野でデータを活用した課題解決が求められており、そのようなニーズに応える人材を育成していくことが本専攻のミッションです。

データサイエンスのベースになっている学問は、数学、統計学、情報科学です。数字の羅列であるデータを読み解くには統計学的な手法が不可欠であり、膨大なデータをコンピュータに処理・解析させるには効率の良い計算手順を考えプログラミングしなければなりません。データサイエンス教育においても、数学と統計、そしてプログラミングの能力をしっかり修得してもらうことを念頭に置いています。

それに加えて、本学のデータサイエンス教育の特長と言えるのが、どんなデータを使ってどのような価値を生み出していくのか、その現場を体験しながら実践的に身につけていくことができる点です。中でも、2022年3月に設立された「KOBEスマートシティ推進コンソーシアム」との連携には、大きな可能性を感じています。

「KOBEスマートシティ推進コンソーシアム」とは、市民、企業、行政、研究機関などが参加し、市民が安心してデータを提供できる環境を整え、データサイエンスを活用して地域の課題を解決する神戸市が主体となった取り組みです。本学は大学として唯一、正会員として所属し、私自身は運営委員長を務めています。現在、コンソーシアムには約60社の企業が集まり、データの収集や会員相互の連携によって価値を生み出すいくつかのプロジェクトがすでに進んでいます。

学生たちはこのようなプロジェクトに参加しながら発想力を鍛え、データサイエンスによる価値創造の流れを体験していきます。また、数学やデータといったコンピュータの中のサイバー空間と人間が暮らし活動する現実の世界(フィジカル空間)がどのようにつながっているのかを知り、両者をつなげる思考や能力を身につけてくれればと期待しています。

総合大学の幅広い知を地域社会に生かす

昨年、KOBEスマートシティ推進コンソーシアムの会員企業2社(株)アシックス、(株)デンソーテンの方に来学いただき、経営学部の2年次生の授業で、その取り組みを紹介していただきました。健康・Well-being、観光、医療などの分野でデジタル技術やデータサイエンスがどのように生かされているかについて、現在進行中のプロジェクトについてご講演いただきました。(株)アシックスのプロジェクトは、アイデアソンを経て動き出そうとしています。

「KOBEスマートシティ推進コンソーシアム」には多彩な参加メンバーが揃っていますから、企業などのニーズに合わせて本学のさまざまな学部が連携する取り組みもさらに増えていくかもしれません。総合大学としての本学の知見を、地域社会のさまざまな問題解決に生かすチャンスになるでしょう。

データサイエンスに必要な基礎的能力と言われているのは、数学と統計、プログラミングに加えて、各分野の専門知識や業界特有の事情に明るいことです。データサイエンス専攻の学生たちにとってプロジェクト参加は、社会のさまざまな分野の専門知識に触れる良い機会になるでしょう。また、データサイエンスでは、分析だけでなく集めたデータを連携させることで新たな価値を生み出すことも求められます。このような能力を養うために、コンソーシアムとの連携をはじめ、社会で実際に集められたデータを活用するようなプログラムをさらに充実させていきたいと思います。

失われた30年などと言われ、日本の成長は長年横ばいが続いています。その間に、海外のICT産業がスマートフォンやSNSなど、それまでの世の中になかったものを数多く生み出し大きく成長を遂げました。遅れていると言われてきた日本のデジタル化も今後本格的に強化され、データサイエンスもさらに多くの分野で活用されるようになるでしょう。そこでは、単にデータを取ってきれいな表や図にして見せて終わり、というのではなく、さまざまな社会問題を解決したり企業の利益につながるような本質的な価値の創出が求められています。その担い手となるようなデータサイエンスの素養を持った人材を、しっかり育てていきたいと思います。  

Focus in class

-授業レポート-

担当する共通教育科目「地域学演習B/地域学演習A(データ活用を通じた地域理解)」では、地元・神戸市や兵庫県の各自治体を、データを通して理解する試みを行っています。神戸市役所や兵庫県庁の統計を担当する職員を講師として招き、どのような目的でどのようなデータを調査しているのかを話してもらいました。新型コロナウイルス流行時にデータをどのように活用したのか、少子高齢化時代には人口動態をどのように把握する必要があるのかなど、実践の中から非常に多くの学びがありました。学生たちは身近な地域がデータの活用でどう変わるのか直接担当者から聞くことで、データ分析の重要性をリアルに感じているようです。

プロフィール

1980.3 京都大学理学部 卒業
1982.3 京都大学大学院理学研究科 数学・数理解析専攻修士課程修了
1985.3 京都大学大学院理学研究科 数学・数理解析専攻博士後期課程修了 理学博士
1986.4 滋賀大学教育学部 講師
1987.10 マックス・プランク数学研究所(旧西ドイツ)研究員
1989.1 北海道大学理学部 講師
1990.10 ジョンズ・ホプキンス大学 日米数学研究所 研究員
1991.4 京都大学理学部 助教授
1994.10 ケンブリッジ大学数学教室 客員教授
1995.2 ユトレヒト大学数学研究所 客員教授
1996.4 神戸大学理学部数学科 教授
2003.9 ユトレヒト大学数学研究所 客員教授
2007.4 神戸大学大学院理学研究科 教授
2010.5 ニース大学数学教室 客員教授
2017.4 神戸大学自然科学系理学域 教授 神戸大学数理・データサイエンスセンター センター長
2022.3 神戸大学 名誉教授
2022.4 神戸学院大学 経営学部 教授
2020.10 日本学術会議 会員
2022.3 KOBEスマートシティ推進コンソーシアム 運営委員長

in Focus 一覧