2018年2月 子どもが健やかに育つ現代社会の在り方を探るin Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 子どもが健やかに育つ現代社会の在り方を探る 神原 文子 Fumiko Kambara 現代社会学部 教授
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 子どもが健やかに育つ現代社会の在り方を探る 神原 文子 Fumiko Kambara 現代社会学部 教授

ひとり親家族の現状と支援を調査研究

私の専門は家族社会学です。ここ十数年は、子どもを育てるひとり親家族の現状とその支援の在り方を中心テーマとして、調査研究を進めています。

この研究を始めることになったきっかけは、1980年代後半に、夫の暴力から逃げて一時保護施設に保護された女性のケーススタディや母子寮でのインタビュー調査を行った経験にあります。日本では、まだ「DV(ドメスティック・バイオレンス)」という言葉もほとんど使われていなかった頃のことです。さまざまな辛い思いをしてひとり親になった女性と子どもたちに関わる中で、どうしてこんなことになったのか、実態はどうなっているのかを解明できれば、という思いが芽生えました。

ひとり親家族の問題は、当時、家族社会学の研究者の中でも研究している人はあまりいませんでした。福祉的な立場からの研究はありましたが、私は、福祉的課題だけでなく、結婚、夫婦関係、家族関係、離婚、離婚後の生活など、ひとり親家族に至る一連のトピックスをトータルに調査研究し、ひとり親家族が差別や排除されない社会の実現に向けた課題を検討してきました。1990年代の後半から、ひとり親家族の実態を調査してきた経験を活かして、大阪府母子家庭等自立支援計画の策定に関わりました。その中でひとり親支援団体の方々との出会いもあり、ひとり親家族の問題はますます私の中心的なテーマになっていきました。その後も複数の自治体におけるひとり親家庭等自立支援策の策定に関わってきました。科学研究費補助金を得て、2010年度からは、被差別部落のひとり親家族の重複的差別に関する研究を、2014年度からは日本と韓国でひとり親家族についての比較調査を、さらに2017年度からは、ひとり親家族への支援の在り方を探る日韓共同研究を行っています。

2000年代に入った頃から、ひとり親家族の問題が社会的にも注目されるようになり、特に2010年代からは、子どもの貧困問題とも関連してクローズアップされています。しかし、ひとり親家族の支援政策は進んでいるとはいえません。まず必要なのは、国によるしっかりとした経済支援です。日本のひとり親家族で育つ子どもの50.8%が貧困という調査結果(「2016年国民生活基礎調査」厚生労働省)からも分かるように、ひとり親家族の支援は子どもの貧困対策にもつながるのです。シングルマザーの半数以上が非正規雇用という現状があり、貧困を脱するには経済支援が欠かせません。児童扶養手当の増額に加え、他国に比べて手薄な住宅政策を充実させ、住宅費の補助を行う必要もあるでしょう。さらに、諸手当の申請や保育所の入所、公営住宅の申し込み、就労支援など、さまざまな相談にワンストップで対応できる窓口と人の確保も大切ですし、同じ立場の人同士が集まって安心して自分の悩みを相談し合える場も必要です。

また、子どもが貧困を脱する方法のひとつは、将来、子どもが社会に出た時に安定した仕事に就くことができるよう、教育を受け専門的な資格や技能を修得することです。今、国が給付型奨学金の充実に動き出していますが、お金だけでなく学習のサポーターや進路選択のアドバイザーも必要でしょう。

日本よりもはるかにインターネットの普及が進んでいる韓国では、離婚した女性たちはまずネット検索をし、自分が住んでいる近くにどんな支援団体があるかを調べて積極的に行動しています。日韓比較研究で分かったこうした実態からヒントを得て、共同研究のメンバーとともに、日本各地のひとり親を支援する公的機関、民間団体をつなぐサイトを立ち上げたいと考えています。全国のさまざまなサポート情報はもちろん、離婚を経て起業した人々など、生き方のモデルになるような情報も含め、働き方や育児からエンパワメントまでひとり親のための幅広い情報を発信・交流できる場にしていくことを目指し、立ち上げ準備を進めています。

ひとり親家族の問題とはいいますが、ひとり親だから問題なわけではありません。ひとり親家族も、いろんな家族の中のひとつの在り方です。ひとり親家族のマイナスイメージを払拭すること、そして、ひとり親だからといってひとりで何もかも頑張る必要はなく、いろんなところに援助を求めて、「地域の中で支えあい子育てをしていけばいい」といったようなメッセージも発信していきたいと思っています。

体罰根絶や待機児童問題にも取り組む

ひとり親家族の調査から浮かび上がってきた深刻な家族の問題に、暴力があります。配偶者からの暴力が離婚の大きな原因になっていることだけではなく、日本の社会における体罰の容認という根深い問題があります。

世界にはあらゆる体罰を禁止している国が53カ国あります。海外の研究では、程度はどうあれ体罰を受けたという経験と、学校でいじめに遭う、暴力的になる、成長して自分のパートナーや子どもに暴力を振るうことが関連しているという結果が公表されています。さらに、自傷行為やうつ、うつからの自殺、ストレスによる内臓疾患などにもつながり、暴力を受けて育つと平均寿命が20年短いといった研究結果も示されています。日本でも、子どもの脳の研究者によって、体罰を受けると脳が小さくなるという研究結果が報告されています。

それにも関わらず、日本では、学校での体罰こそ学校教育法で禁止されていますが、親による体罰については、民法の中で懲罰が認められており、社会問題にもなっていません。「虐待は許されないが体罰は仕方がない」「しつけに体罰は必要だ」「どうしても子どもが言うことを聞かない場合は体罰もやむを得ない」という考え方がまだまだ根強いのです。6割ぐらいの人が体罰は仕方がないと考えているという調査結果もあります。この状況を何とかしたいというのが、私のもうひとつの研究テーマです。日本の社会の中でどんな人が、なぜ、体罰は仕方がないと思っているのか、そこを解き明かしたいのです。まず確認しておきたいのは、UNICEFでは、「体罰とは、親や教師がしつけや指導の名目で行使する有形の暴力である」と定義していることです。体罰は暴力なのです。これまでに、阪神間や沖縄で約2千人の高校生を対象としたアンケート調査を実施しました。分析の結果、親から暴力をふるわれてきたこと、親に愛されていると思っていること、暴力はふるわれる方にも問題があると思っていることと、体罰容認意識との関連が認められました。そうであれば、保護者には「子どもを愛している親は体罰という名の暴力を使わない」というメッセージを、子どもたちには「どんな時でも暴力をふるわれる理由はない。NOと言ってよい」というメッセージを伝える必要があります。

体罰が文化として根付いていても、法律で禁止すれば変えることができるはずです。スウェーデンは1979年にあらゆる体罰を禁止する法律をつくり、その後の20年で、体罰の軽減はもちろん、犯罪、自殺、DVも大きく減少しているという効果が現れています。また、体罰に代わるしつけの方法を広めることも大切です。親になってからでは遅いので、高校生や大学生の間から学んでほしい。私の授業を受ける学生には、カッとなったときにひと呼吸置いたり子どもから離れるといった回避法、命令するのではなく親としてこうしてほしいと子どもと同じ目線に立って伝えたり、子どもの気持ちや要望をきちんと聴くといったしつけ法、さらには自分の力ではどうにもならなくなった時の相談窓口などの知識を伝えるようにしています。

現代の子育てに関連したテーマでは、待機児童の問題にも触れないわけにいきません。子どもの人権や児童福祉の視点から言えば、待機児童がいること自体がおかしいのです。保育所は、昼間の保育に欠ける子どもが過ごすことのできる場所であるはずなのに、「いっぱいで入れません。親が仕事をしないで保育して下さい」という、児童福祉の理念に反する行政側の言い分が当たり前のようにまかり通っています。

待機児童問題を解決するために定員だけ増やすことも間違っています。そもそも保育所の設置基準は1948年にできた時のままで、子どもに対する保育士の人数にしても床面積にしても劣悪な環境なのに、そこにさらに詰め込むことなどあり得ません。待機児童問題の議論に一番欠けているのは、子どもが昼間、健全に伸び伸びと育つことのできる権利を最優先に保障するという視点ではないでしょうか。

国を挙げて男女共同参画推進の掛け声をかけている時代に、平日4時間保育で母親の在宅を前提とするような幼稚園の存在にも疑問があります。認定こども園という形で保育所と一緒になろう、延長保育をやろうという動きは少しずつ増えてきてはいますが、まだまだ広がっていません。一方で定員割れしている幼稚園もあるので、すべての幼稚園を認定こども園にするという手立ても考えられます。多少強引でも、何とか手を尽くして待機児童問題を一刻も早く解決することが求められています。何年後かには解決するなどと悠長なことを言っている間にも、子どもはどんどん育っていってしまうのですから。

アクティブに飛び出して社会を学ぶ現代社会学部

神戸学院大学現代社会学部は、2018年3月に最初の卒業生を送り出します。本学部の特色のひとつは、アクティブラーニングです。教室の中で学ぶだけでなく、学生たちが教員と一緒に県内各地や時には海外にも足を延ばして、フィールドワークや問題解決型の学びを体験しています。また、さまざまなテーマでワークショップが開かれ、学生同士や学生と教員の意見交換も活発です。多分野に亘る教員が揃っていて現代社会を多角的に捉えることのできる魅力的な教育環境を、この4年間で構築してきました。

2018年4月から学部長に就任することになり、成長期に入る学部を任される責任の重さを感じています。個々の教員が以前にも増して活発に研究活動を進め、学生への教育に還元していくためにも、教員が学外研修や学会発表などに積極的に取り組むことのできる環境整備に力を入れるつもりです。また教育においては、アクティブラーニングをより充実したものにするための基礎となる、文献を読む力、思考の力、発信の力をさらに高めて欲しいと考えています。世の中はどうなっているのか、たくさんのアンテナを張って吸収して、自分には何ができるのか思索しながら、ダイナミックに成長していく学生たちに、大いに期待しています。

Focus on lab
―研究室レポート―

ゼミでは一昨年から兵庫県篠山市でフィールドワークを実施し、学生たちが地域の祭りの運営をお手伝いしています。伝統的な鉾(ほこ)や太鼓みこしの巡行に曳き手・担ぎ手として参加し、地域に根付いた伝統の祭りとはどんなものなのかを体験的に学ぶとともに、地域の人々の役に立つ喜びを感じることができる、学生にとって心に響く体験になっています。祭りを続けてこられた方々のご苦労や今後に期待されていることを、何気ない会話を通じて聞かせていただきながら、地方都市の人々の暮らしや文化の持続可能性を見据えた問題の解決策について少しずつ考えるようになっていきます。「住民の方と直接関わって教えていただくフィールドワークは、さまざまな地域にそれぞれの人々の生活がある、ということをアクティブに学ぶことのできる貴重なチャンスになっています」(神原教授) 。

プロフィール

1973年3月 奈良女子大学 卒業
1973年4月~1977年3月 大阪市教育委員会 社会教育主事補
1979年3月 奈良女子大学大学院 文学研究科 修士課程 修了
1983年3月 京都大学大学院 文学研究科 社会学専攻 博士後期課程 単位取得 退学
1985年10月~1996年3月 愛知県立大学 文学部 社会福祉学科 講師、助教授、教授
1996年4月~2002年3月 相愛大学 人文学部 教授
2000年3月 奈良女子大学より博士(社会科学)学位取得
2002年4月~2014年3月 神戸学院大学 人文学部 教授
2014年4月~ 神戸学院大学 現代社会学部 教授
2018年4月~ 神戸学院大学 現代社会学部 学部長

主な研究課題

  • わが国におけるひとり親家族の自立支援について
  • ひとり親家族に関する日韓比較
  • 体罰をなくすための調査研究
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