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2016年10月
人と人とのつながりが
災害からまちを守り復興する力に

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 人と人とのつながりが災害からまちを守り復興する力に 伊藤 亜都子 現代社会学部 教授

震災後の復興まちづくりを
目の当たりにして研究者の道へ

1995年1月17日の阪神・淡路大震災の後、私は神戸大学の大学院生として復興のまちづくりが進んでいく様子を目の当たりにしました。震災後2か月ほどで震災復興の都市計画事業として、再開発事業に指定された神戸市灘区の六甲道駅南地区。私はここで、地域の方々の思いを調査する活動をお手伝いし、避難所で被災者の皆さんからお話を伺うことになりました。他の都市計画決定がなされた地区と同じように、行政からの一方的な決定に住民からは大きな反発があがりました。多くの住民が避難所や親族の家に散り散りに生活している状態なのに、倒壊を免れたお宅や仮設テントに集まり、このまちをこれからどうしていったらいいか意見を交わしていました。その後、神戸では少しずつ「まちづくり協議会」が各地で組織され、試行錯誤を繰り返しながらまちづくりが進められます。

六甲道駅南地区でも、辛抱強く知恵を出し合い課題を一つずつ乗り越えていきました。会議に毎回出席して感じたことは、皆、自分の家の事情は差し置いて、まちのため、皆のために動いておられたことへの尊敬の念です。行政からの提案についても反発ばかりではなく取り入れもしながら、自分たちのまちを良くするよう見直しを進めていきました。行政と住民の意見の対立だけでなく、住民同士の価値観や各家庭の事情によっても意見は異なっています。そんな複雑なものをひっくるめて合意形成をしていく、気の遠くなるような作業。それだけに、困難を乗り越えたときの皆さんの喜び、達成感、安堵感は、そばで見ていても感動的でした。

神戸のまちは、私の研究領域である「まちづくり」との出会いの場所です。「まちづくりの主役は、あくまでもそこで生活する住民であり市民である」という原点を身をもって教えてくれ、研究者としての道を指し示してくれました。

地域の楽しさ、あたたかさを
フィールドワークで体感


現在の研究テーマは、「防災とコミュニティ」です。災害時には突然に日常が寸断され、インフラも寝る場所も食糧も満足にない状況に陥ります。そこから人々は、助け合い命をつないでなんとか日常生活を取り戻そうとします。このような災害被害や被災の状況、またそれに立ち向かう地域社会の姿は、災害が起こる前の日常社会と非常に深い関係があります。阪神・淡路大震災の際、仮設住宅や復興公営住宅にお住まいの方にお話を伺うと、何十年もかけて形成された人間関係やちょっとした助け合いのしくみが人々の生活を支えていたこと、そのコミュニティが寸断されたことで非常に生活しづらい環境が生じたことが分かりました。「災害は社会的に弱いところを襲う」という言葉もありますが、日常の地域社会に人と人とのつながりがあり活性化が図られていることで被害が軽減され、復興にも役立つと考えられます。地域は平時にどうあるべきか、災害時に弱い部分を日常的に強化することは福祉にもつながり、いろんな立場の人が暮らしやすくなるでしょう。防災とは離れた「地域づくりや活性化」も私の研究テーマですが、両者は密接に関わっているといえます。

こうした地域のつながりを学生に感じてもらおうと、フィールドワークとして商店街によく出かけています。例えば、神戸市灘区の水道筋商店街。人が集うコミュニケーションの場としての商店街はだんだんなくなりつつありますが、ここはそれが残っており大変元気です。市場もあり、肉屋や魚屋、八百屋、惣菜屋などの店先で売り手と買い手が言葉を交わしながら買い物をしている雰囲気を感じるのにうってつけの場所。学生たちは、「バーベキューをするので、参加人数に合わせて魚を切ってほしい」というようなやりとりからスタートして、だんだんと商店街を楽しみ地域を身近に感じるようになっていきます。

私がお世話になった六甲道駅南地区にも、学生たちの実習でお邪魔しました。防災マップを作ったり、公園で子どもを遊ばせている若いお母さんたちにインタビューをした結果をまとめて住民の前で発表しました。まちの方からは震災の記念行事でもっと若い人の意見がほしいと言われているので、今後はさらに連携を深めていけたらと思っています。学生たちが学ぶ防災の知識はどの会社、どの地域でも必要なことであり、それを生かす場所はたくさんあるはずです。また、フィールドワークの経験を通して自分の住んでいる地域に関心を持ち、まちを楽しんだり大事に思ったりする視点を身に付けてほしい。将来、地域コミュニティの一員として「まちに関わったほうが面白い」、「人生が豊かになる」と感じてほしいと願っています。

リアルに考えられる想像力と
できることをやる実践力を磨く

地域の方に防災意識を高めていただく活動も行っています。本学と大阪市立総合生涯学習センターとの連携講座「いのちを守る防災コース」という一般市民向け防災講座では、「地域の防災に対して自分たちができること」をテーマにワークショップを行いました。「非常時に備えて今できることは?」「災害時にはどんな行動をとるべきか?」「自助、共助を強化する方法は?」など、自分の家や家族の問題と捉えて今から何をすればよいのか具体的に考えてもらうことを目標にしました。

また、グランフロント大阪ナレッジキャピタルを会場に神戸市との連携で行った『KOBEこども大学「防災の日特別企画」』では、参加者の親子に、自分たちなら何が必要かを考えて「非常持ち出し袋」を作ってもらい、それを子供たちが背負いながら「防災ラリー」として、防災グッズづくりや非常食の試食を体験してもらうというワークショップを実施しました。学生たちにも手伝ってもらい、防災教育の大切さや防災に対する市民感覚を知ってもらいました。防災を学ぶときに一番大事なのは、自分と関わりのあることとして捉えられるようになることです。そのためには、ある程度の知識が必要であり、想像力も必要です。遠くで起こったこともリアルに考えてほしいし、自分ができることを行動に移せるようになってほしいと思います。

今後は、今まで見てきた「まちなか」の被災地から、もっと地方都市に目を向けたり、まちなかと地方をつなぐことなど、研究テーマを広げていこうと考えています。「地域」と言うとき、その範囲はお互いに顔を知っている人がいるような身近な範囲を指すことが多かったですが、人口が減り社会が変わっていく中で、地域だけではまかないきれない部分も出てきています。そんな状況で、まちなかと地方、人と人との連携をつくっていくにはどうしたらいいかといった課題にも取り組んでいきたいと考えています。

Focus on lab ―研究室レポート―

伊藤ゼミ

伊藤ゼミでは、グループワークやフィールドワークなど、問題意識を持って考える学びを実践しています。阪神・淡路大震災の復興記念事業として整備された「みなとのもり公園(神戸震災復興記念公園)」(神戸市中央区)を訪れた際は、マンホール型の災害用トイレ、ソーラー風力照明灯、地下貯水槽などの防災設備を視察。ゲリラ豪雨による水難事故が発生した都賀川(神戸市灘区)周辺にも足を運び、現在の防災対策状況などを調査しました。商店街のまち歩き実習では、水道筋商店街(神戸市灘区)や元町商店街(神戸市中央区)などを散策しました。「商店街の課題やその解決について考えるために、まずは商店街を思い切り“楽しむ”こと。美味しいランチを食べたり、季節のイベントに参加しながら、自分自身の問題として捉えることが大切と考えています」(伊藤先生)。

プロフィール

1994年 奈良女子大学 文学部 社会学科 社会学専攻 卒業
1996年 神戸大学大学院 文学研究科 修士課程 修了
2002年 神戸大学大学院 文化学研究科 博士課程 修了 博士(学術)
2002年~ (財)阪神・淡路大震災記念協会 人と防災未来センター 震災資料専門員
2003年~ 高崎経済大学 地域政策学部 地域づくり学科 専任講師
2007年~ 高崎経済大学 地域政策学部 地域づくり学科 准教授
2014年~ 神戸学院大学 現代社会学部 社会防災学科 教授

主な研究課題

  • 阪神・淡路大震災における復興まちづくり
  • 震災と地域コミュニティ
  • まちなか活性化
  • 地域防災、防犯
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