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2016年2月
世界中の尊い命を繋ぐため防災や
災害医療における質の向上と意識改革を目指す

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 世界中の尊い命を繋ぐため防災や災害医療における質の向上と意識改革を目指す 中田 敬司 現代社会学部 教授

消防航空救助隊や国際消防救助隊での経験を礎に、
防災や災害医療などの課題に取り組み、質の向上を目指す



東日本大震災 傷病者を広域医療搬送する日本DMAT

私は、大学卒業後に広島市消防局に入局し、広島市消防航空救助隊、IRT国際消防救助隊として活動した経験を活かしながら、「消防防災」、「災害医療」、「労働安全衛生」という3本柱を中心に研究を行っています。

「消防防災」については、現在、総務省の消防防災科学技術研究推進制度の「通信指令専科教育導入プロジェクト」に参画し、消防通信指令員の教育・訓練標準テキスト作成や教育内容の研究に着手しています。現在、消防通信司令員への教育・訓練は各消防本部ごとに定められていますが、全国的に統一されたスタンダードが示されていません。もちろん地域の特性に合わせた教育・訓練が必要であることは言うまでもありませんが、救急事案の増加、災害の大規模化や消防の広域化の中で、その必要性に迫られてまいりました。そこで、全国の主な消防本部からそのマニュアルを入手し、救急や火災・事故事案などにおいて上手く通報者から状況を聞き出し、正しく評価し、現場に適切な指示ができるよう具体的な内容の検討をしています。また過去の災害の実例を参考に、さまざまなケースを設定したシミュレーション実技訓練なども取り入れ、より実践的な内容になるように取り組んでいます。

「災害医療」については、「DMAT」の運用および教育・訓練などの事業に発足当時から参画しています。DMAT(Disaster Medical Assistance Team)とは、「災害急性期(災害発生後1週間)に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義され、専門的な訓練を受けた医師や看護師、薬剤師や調整員で構成されています。災害医療分野では、実災害を重ねるごとにその教訓を活かし急速に進歩してきました。まず阪神・淡路大震災の課題のポイントは災害急性期の医療体制の整備です。これによりクラッシュシンドロームなどをはじめとする急性期外傷患者に対応する「DMAT」や災害拠点病院・広域医療搬送などの発足・整備につながりました。次に東日本大震災では、津波と原発事故による放射能漏れという災害に直面し、急性期から亜急性期、慢性期へとシームレスかつスムーズな支援、ロジスティクス及び本部機能の強化、医療搬送、避難所ニーズ対応などが示されました。特に東日本大震災での課題のポイントの一つは「災害医療におけるロジスティクス」の強化です。被災地などで効率的な医療活動を展開するには、通信環境整備とともに情報管理や移動・輸送、燃料・物資の調達、マネジメントや記録などが必要となり、また災害対策本部の運営も重要な要素と言えます。現在はさまざまな業界団体との連携とともに、ロジスティクスに関わる人材の育成(研修)を実施しています。

「労働安全衛生」については、主に「ヒューマンリレーション」と「ヒューマンエラー」の観点から考察を行なっています。「労働災害は当該人物の性格(思考・行動パターン)にも原因がある」という仮説を立てパーソナリティを分析し、評価するとともに、良好な人間関係は生産性を向上させ労働災害の軽減につながるのではないかとも考えています。また、人間はミスをすることを前提に、ミスが事故に繋がらないようにするには、あるいはミスを少なくするにはどうしたら良いのかを考え研究を継続しています。

世界各地で大規模災害が多発する中で
JICA国際緊急援助隊の活動にも力を入れる

イラン地震 JICA国際緊急援助隊医療チーム 活動の様子

実際の活動は、「JICA国際緊急援助隊医療チーム(JDR医療チーム)」における派遣メンバーとして登録を受けるとともに、JDR医療チーム総合調整部会アドバイザーとして事業に参画しています。国際緊急援助隊は、救助・医療・専門家・自衛隊の4つのチームがあり、海外で発生した大規模な災害に対し、その種別や規模に応じて各チームが編成され、被災者の救助や医療支援活動、復興支援などを行うものです。過去、私は医療チームとして、コロンビア・トルコ・台湾・イランなどの地震災害、またスリランカの津波災害に派遣され、救援活動に従事しました。医療チームは医師や看護師、薬剤師や医療調整員などで構成され、派遣決定から48時間以内に出国し、被災者の診療のほか、感染予防のための活動に取り組んでいます。

さらに、最近では、医療チームの支援の幅を広げるため、被災地で手術や透析などができるようにその機能拡充にも力を入れています。ネパール地震災害では、従来の診療活動に加え、かねてから資機材を整え、訓練していた手術機能を展開することができました。また感染症に対する緊急援助も行うために国際緊急援助隊感染症チームの立ち上げ準備が具体的に始まり、現在感染症チームの作業部会委員として事業に関与しています。

本学の学生で構成した「シーガルレスキュー」の活動では
防災における技法修得から地域貢献までを視野に


シーガルレスキューの活動の様子

2015年、本学では「シーガルレスキュー」という任意団体を立ち上げました。これは、消防や警察、自衛隊や海上保安庁などを就職先としてめざす学生の事前学習とともに、有事の際に冷静に行動できる人材育成を目的としているものです。また、メンバーがケガの手当ての方法やロープ結索などをマスターするだけでなく、その技法を学内はもとより、地域へ普及させ地域貢献に発展させることを視野に入れ活動の幅を広げています。

例えば、グランフロント大阪で2015年8月に行われた「防災の日特別企画」では、シーガルレスキューのメンバーがスタッフとして、私が講師になって、「ちびっこBOUSAIトライアスロン」というワークショップを行いました。約20年前の阪神・淡路大震災で暗闇の中、住民の助け合いによって命が救われたことを例に挙げ、暗闇の中でどのような動きができるか、また今後起こり得る巨大地震などの広域災害に備えるためにも、自分たちで助け合えるスキルを高めるためのメニューを実施しました。シーガルレスキューのメンバーが、小学生とその保護者12組に、心肺蘇生法や三角巾を使ったケガの手当て、ロープ結索を指導したり、搬送法・119番通報体験や、停電・夜間を想定して照明を消すことにより「暗闇」の危険性や対処の重要性などを学んでもらいました。このように、地域の子どもから大人までの防災意識を高めながら、学生たちにもさまざまな経験や知識を培って欲しいと願っています。

モチベーションの高いチームづくりはもちろん、
個人の意識も変えられたなら、より多くの命が救われる

他にも、さまざまな企業や団体などの講演会にお招きいただき、防災や災害医療などについてのお話をしていますが、聞き手の立場や企画内容も鑑みながら、具体例を挙げたり、体験談などをお伝えすることで、具体的に頭の中にその様子を描いてもらえるよう心掛けています。

また、「災害対応には変えることのできないものと、変えることができるものがある」ことも伝えていきたいと考えています。災害はいつどこで発生するのかわからない中で、救助に関わる人数や機材、時間など物理的救援資源は限られており、変えることの出来ないものとして考えていいでしょう。しかし、謙虚に学びを継続し個人の能力を向上させたり、良好な人間関係を構築し、やる気のある生産性の高いチームをつくることは充分可能で、人の能力や救援資源は、努力により変えることのできるものと言えるのではないでしょうか。そしてそれによりチームの生産性が向上すれば、多くの命が救われる可能性が拡がると考えています。つまり、災害対応においては教育や訓練が極めて重要だということです。それは、DMATや国際緊急援助隊医療チームにも当てはまるでしょうし、他の団体・機関などの組織や、地域や家族、個人の考え方においても同じことが言えるでしょう。例えば、有事の際にパニックに陥らないよう、普段から訓練を行うことで、具体的に何を準備し、何をしなければならないのかが明確になり、さらに災害を他人事でなく、自らのこととして考える意識へと変わってくるのです。災害を乗り越えるには、「自助」が7割、近隣で助け合う「共助」が2割、国や公的機関による「公助」は1割とも言われています。このようなこともお伝えしながら、防災や災害医療についての活動を精力的に行い、災害で命が奪われる人を限りになく「ゼロ」にする努力を今後も続けてまいります。

プロフィール

1983年 広島工業大学工学部卒業
1983年~1993年 広島市消防局[(財)広島市防災センター派遣含む]
1995年~ 日本安全工学研究室 代表
2004年~2014年 東亜大学医療学部医療工学科 教授
2014年 日本医科大学大学院博士課程修了(医学博士取得)
2014年~ 神戸学院大学現代社会学部社会防災学科 教授

主な研究課題

  • 防災・災害医療システム
  • 災害医療ロジスティクス強化体制
  • 病院における防災対策、災害時の対応
  • 労働安全衛生、事故防止、ヒューマンエラー
  • ヒューマンリレーション、組織論、組織における生産性向上
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