2013年9月
音楽、演劇などの芸術公演で25年にわたり地域貢献in Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~
音楽、演劇などの芸術公演で25年にわたり地域貢献。 伊藤 茂 副学長

神戸学院大学は、一流の舞台芸術に接する機会を、学生や教職員だけでなく地域住民にも無料で提供。1988年から毎年、春季・秋季に「グリーンフェスティバル」を有瀬キャンパスで開催し、大学による地域貢献のあり方として高く評価されている。昨年度、文部科学省の「大学リレー熟議」でも議論されたグリーンフェスティバルの現状や今後の展開について、伊藤茂副学長にインタビューした。

大学だからできる芸術公演を試行錯誤

大阪フィルハーモニー交響楽団

大阪フィルハーモニー交響楽団

大連京劇公演

大連京劇公演

中国現代劇を翻訳して日本初演

中国現代劇を翻訳して日本初演

神戸学院大学が手作りしている独自の芸術公演「グリーンフェスティバル」は、88年のスタート以来、公演回数が340回以上に及び、参加者数も延べ16万人を超えている。このような息の長い芸術公演を実施するきっかけとなったのが、メモリアルホールのある有瀬キャンパス9号館の新築だ。「プロ仕様の本格的な大ホールにしようと考え、照明・音響設備に加え反響板も設置。コンサート用のグランドピアノも置き、非常に立派な多目的ホールが完成しました」と伊藤副学長。

そしてこのホールのこけら落としとして開催されたのが、大阪フィルハーモニー交響楽団によるフルオーケストラ・コンサートと、人間国宝として知られた茂山千作さん(当時は茂山千五郎さん)による狂言という豪華なプログラムだった。学生・教職員に加えて地域住民にも広報したところ多くの応募があり、当日の会場は大いににぎわったという。「公演後に行ったアンケートには、地域の人たちの喜びと、感謝の声があふれていました」。

グリーンフェスティバルの特徴の一つといえるのが、アーティスト・イン・レジデンスの考え方。「例えば日本を代表するピアニスト仲道郁代さんに、ベートーベンやモーツァルトなどのピアノソナタを複数回の公演に分けて全曲演奏していただいた事もあります。アーティストには聴衆を前にしたリハーサル的な演奏の機会を提供でき、ファンにとっては、好きなアーティストの完成前の演奏に触れられる貴重な機会でした」。

他にも、中国の京劇と日本の狂言のコラボレーションや、神戸学院大学の人文学部の教授が翻訳した上海の若い劇作家の脚本を、関西の若手劇団と共同制作した演劇の上演なども行った。また神戸学院大学の教員が公演のインターバル(休憩時間)を利用してインタビューを行い、アーティスト本人やクラシック音楽を身近に感じてもらうなど、運営にもきめ細かな工夫が施されている。「大学による手作り企画だからこその、オンリーワンな公演が実施できていると思います」。

さらに教職員だけでなく、学生も企画や運営に参加。演劇や狂言の舞台づくりは演劇部の学生が、司会は学生放送局の学生が、受付は吹奏楽部の学生などがサポートしているという。

大学リレー熟議を経て、さらなる活性化を模索

このグリーンフェスティバルについて、昨年10月、神戸学院大学で開催された「大学リレー熟議」で現状報告や活発な議論が行われた。大学リレー熟議とは、文部科学省が大学による地域との共生・協働を目指す取り組みを支援するため、2010年から実施している事業だ。グリーンフェスティバルに関しては、「芸術上演による大学活性化と地域貢献」というテーマで、地域の住民や神戸学院大学の関係者が参加し、真剣かつ熱い議論が展開された。

「グリーンフェスティバルの課題は、大学の持つ人的資源には限界があり、企画を担当する教員のレパートリーも限られるため、観客が固定化される傾向があるということです。公益財団法人・大学基準協会(大学等の認証評価機関)の評価は非常に高いのですが、今後、地域のニーズをどのようにプログラムに反映させるのか。また固定客を大事にしながら、どうすれば新しい客や若い客にもアピールしていけるか。ポピュラーなアーティストに頼るなどの安易な方策ではなく、大学らしい“節度ある試行錯誤”を続けていきたい。そして昨年の熟議を経て、グリーンフェスティバルは、何よりも地道に継続していくことが重要だと再認識しました」。

地域住民と共に非日常の空間を創造する

田中美奈リサイタル

田中美奈リサイタル

伊藤 茂 副学長

伊藤 茂 副学長

最近は、吹奏楽部・管弦楽団・チアリーダー部・学生放送局・混声合唱団など、学生による課外活動の発表会も、グリーンフェスティバルの日程に組み込まれるようになった。「学外の一般客に自分たちの活動成果を披露することが、学生たちにとっては非常に良い刺激になっているようです。将来、全国トップクラスのレベルになり、さらに多くの地域の人たちがファンとして来場してくださるよう頑張ってほしい。またグリーンフェスティバルはすでに、神戸学院大学の魅力の一つとして学内外に広く定着しています。このようなフェスティバルが存在していることは、大学にとっても学生にとっても大きな喜びであり、誇りです」。

伊藤副学長は演劇の専門家であり、全国の著名なホールにも精通しているが、グリーンフェスティバルで使用されているメモリアルホールを「非常に気に入っている」という。「誰もいない時間帯に一人で客席に座っている時、このホールには他に例を見ない心地よさを感じます。そして音楽や演劇の上演などでは、いつもとは異なる非日常空間が目の前のステージに出現します。そのような異次元空間に触れることの大切さを学生に知ってもらいたい。そして地域の人たちにも、グリーンフェスティバルに参加することで、美しかったり切なかったりする濃密な時間をこんな身近な場所で過ごせることをアピールし続けたい。私たちのようなアマチュアが手作りしている芸術公演ですから、地域の人たちも受け身でなく、喜びも苦労も共にして一緒に作っていくという感覚で参加していただけるとうれしいですね」。

今後の新しい展開として、今秋からポートアイランドキャンパスでもグリーンフェスティバルに関連する新しい企画を始めるという。「11月21日(木)、A号館会議室で落語会を開催する予定です。本学の卒業生である3人の落語家が出演します。有瀬キャンパスのグリーンフェスティバルが地域住民の恒例の楽しみになっているように、ポートアイランドキャンパスでも、地域の人たちに気軽に習慣的に来ていただけるような企画を提供していきたいと思います」。

プロフィール

1973年、神戸大学文学部卒業。1975年、大阪大学大学院文学研究科修士課程修了。1978年より神戸学院大学教養部助手、1996年より人文学部教授、1997年より中国戯曲学院客座教授を務める。芸能史研究会所属。2012年より神戸学院大学副学長。

主な研究課題

  • 能楽(能・狂言)の近代化過程における変遷についての研究
  • 日本と中国における伝統劇の様式表現の比較研究
  • 演劇・芸能の環境論的研究
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