2013年7月
ボランティアの自発性と開拓精神が新たな"気づき"をもたらす in Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~
ボランティアの自発性と開拓精神が新たな”気づき”をもたらす。 学生支援グループ・ボランティア活動支援室 職員 川口 謙造

ゼロから立ち上げた、ボランティア活動支援室

大阪フィルハーモニー交響楽団

大阪の民間団体でボランティアコーディネーターをしていた私が、本学のボランティア活動支援室立ち上げの責任者として着任したのは2005年のことです。ボランティア活動をしたいと希望する学生と、学生を受け入れてくれる団体の間に立ち、ボランティア募集のチラシを学内の掲示板に張ることから始めました。白紙状態からのスタートでしたが、今では多くの学生が支援室を訪れてくれています。

学生が参加しやすいように入り口を広くした「サマーボランティア」を実施

学生が参加しやすいように入り口を広くした「サマーボランティア」を実施
学生が参加しやすいように入り口を広くした「サマーボランティア」を実施

サマーボランティアの内容は多種多様。
沖縄に行くことも

支援室を訪ねてくる学生にはボランティアの経験者もいますが、過半数は未体験者です。ボランティアに対する興味や意欲はあっても、なかなか行動に移せない。そんな、未体験者層の参加を促す目的で、2009年から「サマーボランティア」をスタートさせました。夏と春の長期休暇を利用して学生にボランティア活動を体験してもらうプログラムで、毎年10から20ほどのメニューを用意しています。内容は、施設で暮らすお年寄りの介護や子どもたちへの援助から、農、林業体験、特定の街を歩いて巡るといったユニークな体験まで実にさまざまです。

こうした多種多様なメニューにこだわったのは、未体験学生にボランティアに対する既存の概念を覆してほしかったからです。一般的にボランティア活動というと、心優しくまじめな人物が行う特別な行為だとイメージされがちです。このため、間口を広くして誰もが参加しやすい環境をつくり、敷居が高いというイメージを払拭してもらう。そして、どんな形でもよいので実際にボランティアを体験してほしい。そんな願いを込めて始めた「サマーボランティア」です。さらに、交通費などの活動経費を補助していることもあって毎年多くの学生が参加してくれています。

地域社会にとっての学生ボランティアとは。その意義を考える「熟議」を開催

地域の方々と有意義な意見交換の場となった「熟議」

地域の方々と有意義な意見交換の場となった「熟議」

文部科学省と本学が共催し、昨年秋に開催した「熟議-2012 in 神戸学院大学」では、このサマーボランティアがグループ熟議のテーマの一つに選ばれました。「熟議」とは、教育を取り巻く多様な課題をさまざまな立場から議論するもので、文部科学省が推奨し、全国の教育機関で実施されています。

「サマーボランティア」に関する熟議では、私が全体の進行役を務め、本学附属高校の高校生と支援室の学生スタッフ、学生ボランティア受け入れ先団体の担当者が参加。ひたすら議論するというスタイルではなく、カードを提示してビジュアル的にプログラムの内容について説明するなど、ワークショップ形式で実施しました。そのなかで、学生が来てくれるだけで施設のお年寄りや子どもたちが喜んでくれるのがうれしいとの意見や、福祉の専門家だけで日々の業務を行っているとどうしても考え方が固定的になってしまいがちなので、学生が素直な感想を言ってくれることで現場に新しい風が吹き込まれ、組織の活性化につながっているという感想もお聞きすることができました。

当初は、学生ボランティアの受け入れ団体の方々から、もっとこうしてほしいといった注文が多く寄せられるのではと考えていました。しかし実際には、学生が来てくれてとても助かっており、今後もプログラムを継続してほしいといった好意的な意見ばかりでした。「サマーボランティア」によって、参加学生が地域社会に大いに貢献していることを実感出来る熟議となりました。

学生リーダー養成を含めた新たな試みに向けて

支援室が「サマーボランティア」を始めた目的は、まずボランティア活動の体験者を増やすということです。同時に、そのなかから将来的に自分たちで新しい団体を設立するなど、何らかの形でボランティアに関わるリーダー的な役割を担う学生を育てたいという想いもありました。そこで、プログラムが4年経過した今、新たな展開を図っていきたいと考えています。

具体的には、大学内もしくは学外に、より深くボランティアに関わりたいと考えている学生と、地域自治のキーマンとなるような方々が随時交流できるスペースを設けることです。コンサートをはじめ、学生団体が各種イベントを開催するなど、常に何らかの“賑わいの場”を地域住民に提供することで交流を深めることができ、今以上に地域社会と緊密な関係を築くことができるのではないかと期待しています。

そもそもボランティアとは、英語で「志願兵」を意味する言葉に由来します。つまり、ボランティア活動を行うという行為の本質は、自治の精神で自分たちの生活を守ることや未開の地を切り拓いていくことにあります。自ら行動することで自身のアイデンティティに目覚め、将来の方向が見えてくる。そんな新たな“気づき”を体験するためにも、学生には「サマーボランティア」から最初の一歩を踏み出してほしいと思います。

プロフィール

1988年、関西学院大学社会学部(専攻、社会福祉学)を卒業し、社会福祉法人(当時、社団法人)大阪ボランティア協会に。ボランティア関連のテキスト、情報誌の編集、研修会の企画等を担当。2003年、大阪大学人間科学部博士前期課程修了(ボランティア・NPO論)。2005年、神戸学院大学に事務職員として着任(ボランティア活動支援室担当)。非常勤講師として帝塚山学院大学、大阪人間科学大学、神戸学院大学でボランティア論、地域学を担当した実績がある。

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