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2012年11月
「虐待」を防止して高齢者に笑顔を!

神戸学院大学のSocial in 〜地域社会とともに〜 精神科診療所や介護老人保健施設での相談員勤務を経て、大学院に社会人入学し、研究者の道へ。主な研究課題は高齢者の権利擁護。特に高齢者虐待を防止するためのシステムづくりに、現場と連携した開発型研究の手法で取り組んでいる。 総合リハビリテーション学部講師 水上 然

「介護者への支援」が虐待防止につながる

「高齢者に、その人らしく、いきいきと生きてほしい」と水上然講師。専門は「高齢者福祉」で、特に「高齢者虐待を防止するためのシステムづくり」に力を入れているという。介護者による高齢者虐待は今、大きな社会問題になっており、水上講師がこれまでの研究成果を基盤として新しく取り組み始めた「高齢者虐待防止体制の日韓比較」は、2012年度の科学研究費補助金(文科省)申請に採択されている。

薬学部助教 中本 賀寿夫

そもそも高齢者虐待防止体制とは、どのようなシステムなのか。「日本では高齢者虐待防止法が05年に制定され、06年から施行されています。正式名は『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』。高齢者への虐待を発見した時には相談通報を行うことが義務づけられていること、虐待した養護者を加害者と見なさず、支援の対象と捉えているところが大きな特徴です。この法律では、市町村・地域包括支援センターが高齢者虐待の支援機関と位置づけられ、虐待対応や虐待防止の地域ネットワークや体制づくりなどが進められています」。

水上講師は、近年の高齢者虐待の背景について、「非正規雇用などにより生活基盤が弱い子ども(特に息子)による親への虐待が非常に多くなっています。経済的要因、引きこもりなどによる社会的孤立、介護や家事に対する不慣れ、精神疾患などの要因もあります。また、子どもたちが独立した後に老夫婦が残されているケースでの虐待も目立ちます。特に夫が妻の介護者になった場合、介護の仕方がわからず介護疲れが出て暴力に至ることが多い。高齢者人口が激増する今、介護者の負担を軽減する支援が必要になってきているのです」。

同様の問題を抱える「日韓」を比較研究

日本と韓国の高齢者虐待防止体制を比較しようと考えたのは「同じアジア圏で文化が似ているからです。韓国の高齢化が進むスピードはアジア圏内でも速く、また未婚率の増加や少子化傾向など、日本と同様の構造的問題を抱えています。さらに、韓国でも息子による親への虐待件数が非常に多くなっています」。

一方、日本では市町村の地域包括支援センターが虐待対応の窓口になっているのに対して、韓国では、日本でいうところの都道府県レベルに、虐待対応の老人保護専門機関を置いている。「日本のように、地域住民の保健・福祉・医療の向上、介護予防マネジメントなども含めた総合的な窓口である地域包括支援センターが対応する場合と、韓国のように専門機関を置いて対応する場合で違いが出るのかどうか。また日本と異なり韓国には家庭内暴力に対する刑事的処罰もあります。そのような日韓の法律や文化の違いなども含めた多様な側面で比較してみようと考えています」。

9月には、韓国の南東部に位置する行政区・慶尚南道の老人保護専門機関が主催した高齢者虐待に関するセミナーに参加。水上講師は日本の高齢者虐待の現状を報告し、ディスカッションにも参加した。「高齢者虐待の背景にある非正規雇用などの問題、そして虐待を受けている高齢者の強制的な保護が難しい点など、日韓が抱える問題・課題の共通性を肌で感じました」。

今後、日韓の特定の市町村や都市をケーススタディーしていくということで、日本では大阪府の堺市を、韓国では慶尚南道の昌原市を調査し、「国レベルの政策だけでなく、虐待防止の対応レベルなどをデータで比較していこうと考えています」。

「現場の専門職を支える仕組み」を作りたい


水上講師が、高齢者虐待防止体制の研究に取り組むきっかけとなったのは、大阪市西成区の介護老人保健施設でソーシャルワーカーとして働いていた時の現場体験。「非常に多くの虐待相談を受けましたが、その時はまだ高齢者虐待防止法もなく、踏み込むことに躊躇(ちゅうちょ)していました。現場の支援者が思いきって仕事ができる法律的バックボーンや、相談できる仕組みづくりをしていく必要があると思い、大学院に社会人入学しました」。以来、研究者としての道を歩むことになり、研究成果を現場に反映し、その結果をまた研究にフィードバックする開発型の研究スタイルで高齢者の権利擁護に取り組んでいる。

研究の一つの成果といえるのが、大学院時代に関わった「市町村高齢者虐待対応評価ガイドブック」の作成。「これは高齢者虐待の多様なケースを拾い上げて情報共有することで、各市町村の地域包括支援センターや支援者が、国の政策や自分たちの虐待対応の課題について考えることができるシステムです」と水上講師。大阪府内ではすでに半数の市町村がこのシステムを導入しており、同様の取り組みは大阪府以外のいくつかの市町村でも始まっている。

「実際の事例のなかから取り組む必要のある問題・課題を見つけ出して改善し、虐待防止のシステムを強化していきたい。支援する人たちを支える仕組みを作ることが私の願いですし、支援によって笑顔を取り戻された高齢者と接するときに、この研究の大切さを改めて感じます」。

現在、社会リハビリテーション学科で「高齢者福祉論」「介護福祉論」などの講義と、社会福祉士を育成するためのソーシャルワーク実習などを担当している。実習を通して学生たちに期待することは「高齢者がどのような思いで生活しておられるのか、そして福祉の世界で働いている人たちが、何に喜び何に悩んで働いておられるのかを、ぜひ現場で感じ取ってほしいですね」。

プロフィール

1996年、桃山学院大学社会学部社会学科卒業。96年〜99年、キム診療所に精神科ソーシャルワーカーとして勤務。99年〜2006年、大阪市立介護老人保健施設おとしよりすこやかセンターに支援相談員として勤務。11年、大阪府立大学大学院人間社会学研究科・博士後期課程修了。博士(社会福祉学)。11年から現職。

主な研究課題

  • 高齢者の権利擁護(高齢者虐待の防止を中心に)
  • 認知症高齢者のケア
  • 高齢者が安心して生活できる地域づくり
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