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2011年10月
すべての人に優しい「住環境」と「ユニバーサルサービス」を目指す

神戸学院大学のSocial in 〜地域社会とともに〜すべての人に優しい「住環境」と「ユニバーサルサービス」を目指す 糟谷 佐紀 総合リハビリテーション学部社会 リハビリテーション学科 准教授

※ユニバーサルサービス…高齢者・障がい者を含むすべての人に 対応できる、分け隔てのないサービスのこと。

建築の視点から住まいや街づくりを考える

もともとは建築設計事務所で団地の建て替えや一戸建住宅などの設計に携わっていたという糟谷佐紀准教授。「すべての人の生活の基盤は、住環境にあると考えています。住まいが快適であることが何よりも大切」。そのため、研究のベースとしているキーワードの一つが「住環境の整備」。住宅内の危険箇所を早期に発見、整備し、家庭内事故を未然に防ぎたい。そして、まだ危険箇所に気が付いていない高齢者や障がい者に、見える形で提案していきたいという。「現在、大学に近く、高齢者率が高い明舞団地(兵庫県)で、高齢者の住環境の実態調査を学生と一緒に進めています」

糟谷 佐紀 総合リハビリテーション学部社会 リハビリテーション学科 准教授
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糟谷准教授は、住まいの環境整備だけでなく、街中の危険箇所やバリアの実態調査なども行い、高齢者・障がい者が外出しやすい街づくりにも取り組んでいる。「住まいや街を設計する側には、高齢者・障がい者に関する知識や情報が少ない。使う人とつくる人が共に取り組めば、もっと良い街や建築物になるはず。両方の知識を持つ研究者として、福祉と建築をつなぐコーディネーターのような活動ができればと思います」

住まいや街づくりといったハード面に加えて、糟谷准教授はサービス業に携わる人たちの「気付き」など、ソフト面も重視している。「環境整備などのハード面でできることには限界があります。今後ますます高齢者が増加していく日本社会で求められるのは、『ユニバーサルサービス』。ユニバーサルサービスとは、高齢者・障がい者や、幼い子どもも含めたすべての人に対応できる分け隔てのないサービスのこと。万人に対応できる、おもてなしと言えましょうか」

ユニバーサルサービスに必要なのは、高齢者・障がい者などに対して適切に手を差し伸べるための知識とスキル。「こういう障がいを持つ人には、こんな対応をしたほうが良いといったノウハウや、障がいをサポートするさまざまな補助具などを知っていることが基本。サービス事業者にとって、ユニバーサルサービスを導入することは、今後の顧客層の拡大に欠かせない重要事項になってくると思います」

ユニバーサルサービスの人材育成にも注力

「高齢者大学」の体験実習

「高齢者大学」の体験実習


糟谷准教授は、調査や研究成果をベースに社会と強く結びつき、より良い社会をつくるための活動にも力を入れている。たとえば前述のユニバーサルサービスを実現するための「人材育成」。大きなきっかけになったのは、糟谷准教授が企画した研究テーマ「高齢者・障がい者に配慮した『ユニバーサルサービス』の発展・普及に向けた人材の育成」が、経済産業省の「平成21年度産業技術人材育成支援事業(サービス産業分野)」に採択されたことによる。

サービス業に携わる人たちに高齢者・障がい者と接する機会を提供する。グループワークやロールプレイングなどを通して、高齢者・障がい者の視点で自分たちの接客やサービス内容を点検してもらうなどの研修を2年間実施した。その人材育成活動は経産省による支援期間が終了した後も継続しており、「ユニバーサルサービスアカデミー」として、現在はホームページを通して、ユニバーサルサービスの啓発活動や人材育成のための講師派遣などが行われている。

「現在、高齢者・障がい者を研修講師(ユニバーサルサービス・アドバイザー)として養成する講座も実施しています。障がいのある人が話術などのスキルを身につけることで、研修講師としての収入が得られ経済的自立にもつながることを期待しています」。このユニバーサルサービス人材育成事業を今後さらに拡充させるため、現在NPO法人を立ち上げる準備を進めている。

福祉を学ぶ学生たちの社会体験・活動を重視


糟谷 佐紀 総合リハビリテーション学部社会 リハビリテーション学科 准教授

さらに、糟谷准教授がユニバーサルサービスの一環として着目しているのが、ユニバーサルツーリズムだ。「バリアフリーが進んでいるとはいえ、車いすを使用する友人と一緒に街を歩くと、あちこち迂回する必要があったりして、障がいがあることの不利を実感します。また、障がい者の日常生活を支える制度はあっても、宿泊を伴う旅行などの場合、現在は旅先で公的サービスが使えない。日本中どこに行っても同じ支援が受けられるような制度改革を目指して、実態調査と分析を進めているところです」

糟谷准教授の研究活動の特色は、そういった学外調査の多くを、学生と一緒に実施しているところだ。例えば地元の神戸市で2009年にスタートした車いすの無料貸出制度、「KOBEどこでも車いす(神戸ユニバーサルツーリズムセンター)」に関する調査。車いすで神戸を楽しむための観光マップを作成するという3大学の連携プロジェクトに、神戸学院大学から糟谷准教授のゼミ生約15人が参加した。神戸市内の観光スポット7カ所で、車いすによる体験調査を行った。参加した学生たちが作成した独自の神戸観光マップは、今年度中に正式な印刷物として発行される予定。「福祉を学ぶ学生たちをできるだけ多く学外に連れ出し、高齢者・障がい者はもちろん、さまざまな分野の人たちと会わせたい。コミュニティーに溶け込んだ調査や活動を通して、実社会で生きるためのスキルを身に付けて卒業してほしいと思っています。私自身も、研究をするからには成果をきちんと社会にフィードバックし、何かの、誰かの役に立ちたいですね。目指したいのは、ユニバーサルデザインやユニバーサルサービスが当たり前の社会になること。私たちが取り組んでいるような研究や活動がなくなってこそ本当にノーマルな社会なのだと思います」

プロフィール

1993年、神戸大学工学部環境計画学科卒業。95年、同大学大学院工学研究科環境計画学専攻修士課程修了。2006年、徳島大学大学院工学研究科博士後 期課程修了。博士(工学)。1級建築士。建築設計事務所・株式会社現代計画研究所に勤務(1995〜2001)後、兵庫県立福祉のまちづくり工学研究所で 特別研究員(01〜05)を務める。05年から、神戸学院大学総合リハビリテーション学部社会リハビリテーション学科講師。2011年から同大学同学部・ 准教授。

主な研究課題

  • 重度障がい者の外出支援(ユニバーサルツーリズム、QOL)
  • ユニバーサルサービスにおける人材育成
  • 在宅生活支援における住環境整備の役割(住宅改修、福祉用具)
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