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2010年6月
コエンザイムQ10が社会の中で正しく使われるためにサポート

知の“今”に挑む研究者たちコエンザイムQ10が社会の中で正しく使われるためにサポート 岡本 正志 薬学部・社会薬学部門・生化学研究室 ライフサイエンス産学連携研究センター 教授

医薬品に使われた物質が
サプリメントとして脚光

コエンザイムQ10(CoQ10)と聞くと、大方の人はサプリメント、つまり栄養補助食品を思い浮かべるのではないでしょうか。実は最初、CoQ10は医師の処方箋が必要な医療用医薬品として使用されていました。うっ血性心不全の治療薬として使われていたのです。その後、処方箋なしで買える一般薬にも使われるようになりました。そしてCoQ10は美容や健康に効果が期待できる成分として注目され、日本では2001年からサプリメントとしての販売が認められ、手軽に摂取できる栄養成分として利用されています。現在は一時のブームは収まっているものの、ビタミンのように定着したサプリメントとして使われています。私は大学院修士課程の頃にCoQ10に魅せられ、30年以上にわたり研究を続けてきました。

サプリメントへの適用で
社会への発言機会が増える

岡本 正志 薬学部・社会薬学部門・生化学研究室 ライフサイエンス産学連携研究センター 教授

私の研究生活で大きな転機となったのは、1985年からの米国テキサス大学への留学です。テキサス大学オースチン校生物医学研究所のカール・フォーカース教授は、CoQ10の化学構造を決定された方で、この分野の世界的権威でした。フォーカース教授の下で2年間、博士研究員として研究生活をすることで多くのことを吸収できました。それ以後もCoQ10を中心に研究を続けてきましたが、医薬品だったこの物質がサプリメントとして使われるようになってから、私の身辺は慌ただしくなりました。CoQ10のサプリメントとしての開発を目指す会社は、商品化したくても社内に詳しい情報を提供できる者がいません。するとさまざまな情報を求めて私に相談に来られるわけです。サプリメントを試作したいので、CoQ10の吸収性や安定性を教えてくれないかなどと。私の研究室はそんな要望にできるだけ応えてきました。こうして、CoQ10の有用性を科学的に明らかにすることで、CoQ10の啓発に努めてきました。科学者として、正しいCoQ10の情報を発信してきました。

老化防止や健康維持に
期待される抗酸化作用

CoQ10は補酵素に分類される物質です。補酵素とは酵素に結合して、その酵素の活性の発現を触媒する低分子の有機化合物のことです。CoQ10ははじめ医薬品として使われていたと紹介しましたが、これはたいへんユニークな物質でもあります。医薬品やサプリメントに使われるものの、人間の体内でも合成されている物質なのです。人間の60兆ある細胞内のミトコンドリアにはすべてあり、通常は人間の体でつくられますが、食物からも相当量摂取されています。その生理機能のうち人体にとって特に有用なのは「エネルギー賦活作用」と「抗酸化作用」です。人間の体内でつくられる物質の中で、この2つの作用をあわせ持つものは他にありません。それに加え、副作用の報告も少ないことから、大変安全性の高い物質です。

この2つの作用について少し触れると、まずエネルギーの賦活作用というのは、例えば心臓の場合は、エネルギー産生量を増やし、心筋の機能を高める作用のことです。細胞中のミトコンドリアはエネルギーの生成工場といわれていますが、実際にエネルギーを生み出しているのはミトコンドリア中のATP(アデノシン三リン酸)です。そしてATPの生成に欠かせないのが、CoQ10です。つまり、CoQ10が不足すると、人間の活動の源であるエネルギー(ATP)も不足します。人は20歳頃を境にして体でつくられるCoQ10の量が減少していきます。するとそれが引き金となってCoQ10の不足により、臓器や器官の働きが弱まり、さまざまな病気を起こしやすくなります。そこでCoQ10の研究が進められたことにより、うっ血性心不全の症状改善に効果があることがわかり、その治療薬が1973年に世界で初めて日本で認可されました。

岡本 正志 薬学部・社会薬学部門・生化学研究室 ライフサイエンス産学連携研究センター 教授

その後、もうひとつの抗酸化作用が注目されました。抗酸化作用とは、老化や生活習慣病の原因とされる活性酸素の毒性から細胞を守る働きです。人は加齢とともに体内でつくられるCoQ10が減るので、抗酸化作用も低下すると考えられています。それを防ぐには、外から摂取するCoQ10を増やせばいいわけです。さまざまな研究により、老化防止や健康維持には1日にCoQ10を30〜120mgをとるとよいとされています。しかし、30mgをとるにはイワシ数匹から数十匹も食べる必要があるため、サプリメントでCoQ10をとるのが最も現実的なのです。

CoQ10のサプリメントとしての効用が注目されているので、私の研究室には企業から共同研究の依頼が多く寄せられ、現実に企業とのタイアップによる研究もいくつか動いています。最近の研究成果としては、例えば株式会社片山化学工業研究所とよつ葉乳業株式会社との3者による産学連携研究があげられます。牛乳から得られる乳脂肪球膜(MFGM)は、肌の保湿効果や抗酸化作用を持つといわれ、親油性の物質を乳化する力が強く、吸収性が促進することが知られていました。一方、CoQ10は油に溶けやすい反面、水に溶けにくく生体の消化管への吸収が低い物質です。そこでCoQ10のMFGMによる吸収促進効果があるかを共同で研究。その効果があることが確かめられたことで、新しい機能性素材の開発を実現しました。また、最近の私の研究室での成果としては、白内障の予防効果についての研究があります。白内障は老化や酸化ストレスが原因で発症しますが、CoQ10を動物実験で使ったところ、白内障の発症を遅延させる効果があることが確かめられました。CoQ10のヒトの白内障疾患への適用については、今後さらに研究していく必要があります。

夢中になれるものを見つけることができれば、
大学生活はもっと有意義に過ごせる

このように私の研究室では企業との共同研究が行われ、企業の人が常時研究室にいてくれることが、学生への教育にも役立っています。企業の人から社会の現実や厳しさ、社会のルールを教えてもらえますし、進路や就職相談にも乗ってもらえます。そんな触れ合いから学生は得難い体験をしています。もちろんそれが就職活動にも役立ってきます。

岡本 正志 薬学部・社会薬学部門・生化学研究室 ライフサイエンス産学連携研究センター 教授

最後に私のもうひとつの顔を紹介したいと思います。幼稚園の頃に習い始めた趣味の書道を今も研究のかたわら続けています。本年も日本最大の書道展である第62回毎日書道展の漢字部審査員を務めますので、大学教授と書家の二足のわらじを履く生活です。薬学部の新入生歓迎イベントの際に大筆、大紙を使った書のパフォーマンスを見せますので、薬学部の学生には書家としても知られた存在になっています。学生の皆さんには、ぜひ勉学以外に趣味などの何か打ち込めるものを学生生活の間に見つけてほしいと思います。打ち込めるものがあれば、ストレスの解消になりますし、毎日の生活が楽しくなります。若者がサッカーのワールドカップに夢中になれるように、学生一人ひとりは何か燃えることのできる未知のエネルギーを必ず持っているはずです。仲間とともにエネルギーをうまく燃焼させることができれば、コミュニケーション能力も磨かれてくることでしょう。ですから、学生時代を有意義に過ごすためにも、夢中になれる趣味などを早く見つけてほしいですね。

プロフィール

  • 神戸学院大学薬学部教授。学術博士。薬剤師。日本コエンザイム協会理事、日本ビタミン学会評議員などの役職
  • 書道・飛雲会副理事長、奎星会・理事、兵庫県書作家協会・運営理事、毎日書道展審査会員などの役職

主な研究課題

  • コエンザイムQの栄養生化学
  • 健康食品の品質管理

Focus on Lab ―研究室リポート―

研究を通して医療人として必要な
コミュニケーション能力を育む

研究を通して医療人として必要なコミュニケーション能力を育む 

岡本正志教授の研究室は、スタッフ、大学院生、学部学生や企業からの研究者を含め30人ほどの大所帯。教授が学生指導で大切にしているのは、薬剤師として必要なコミュニケーション能力を磨くこと。「研究室に来たら、まずあいさつをしなさいと言っています。一日のはじまりである時を気持ちよく、そして何かあれば報告・連絡・相談(ホウレンソウ)をするようにしなさいと」。研究面では細かいことは言わず、困ったら相談に来るようにと指導。学生の自主性に任せるのが基本方針です。そして研究で求めているのは、ただ努力することよりも、結果を出すこと。それは社会に出れば、結果を出すことが求められるからです。「結果を出すには、忍耐力と集中力を高めることが大切です。研究室ではメールに心を奪われたりせず、この場でしかできない研究にしっかり集中して取り組むように指導しています」。研究室ではだらたらと過ごすのはご法度。適度の緊張感を持ちながら、学生たちは心身ともに健全な研究生活を送っています。

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