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2009年6月
さまざまな分野の手法を自由に組み合わせ運動や行動のパターンを生み出す脳と心のメカニズムを探究

さまざまな分野の手法を自由に組み合わせ運動や行動のパターンを生み出す脳と心のメカニズムを探究 坂本 年将 総合リハビリテーション学部 医療リハビリテーション学科 理学療法学専攻 准教授

「学習と記憶」をテーマに
脳科学、認知科学的見地からアプローチ

坂本 年将 総合リハビリテーション学部 医療リハビリテーション学科 理学療法学専攻 准教授

現在私は、主に「学習と記憶」をテーマに研究活動を行っています。人がどのように運動や行動のパターンを習得していくのか。そのメカニズムの理解を基に、いかに人の生活をより豊かなものにしていくことができるのかを考えています。運動パターンの習得に関しては、例えば早口言葉(連続する筋収縮パターン)を習得する過程で、右脳と左脳でそれぞれどのような神経活動が起こっているのか。パソコンの画面を逆さまにし、被検者にマウスでカーソル操作をさせるなど、日常生活の中で形成された感覚と運動の繋がりを崩した時に、その人の手や腕、そして脳はどのように反応し、新たな環境に適応していくのか、といったことを調べています。行動パターンの習得は「習慣形成」と言っても良いと思いますが、例えば、人はやるべきことがあってもなかなかその課題に取り組まずに逃避することがあります。学生だと、早く宿題をしなければならないと分かっていても、ネットで時間をつぶしてしまうとか。このように人を逃避させる原因は何か、逃避の習慣化を助長する要因は何か、逃避行動を改善させるための効果的な教育、治療プログラムとはどういったものか、といったことに関心があります。これらのプロジェクトの幾つかは、学部の学生の卒業研究のテーマでもあります。

アメリカで学んだ
脳科学と遺伝学

今から20年ほど前、理学療法士の免許を取りました。その後5年ほど、病院で関節の手術をした人や、脳卒中を起こして半身不随になった人たちに運動指導をしていたのですが、もう少し自分の仕事の幅と奥行きを広げたいと思い、アメリカの大学院に留学しました。初めは理学療法を学んでいたのですが、少しして生物学や神経科学といった基礎科学の方向に進みたいと思い、マサチューセッツ工科大学(MIT)の脳認知科学科で博士号(PhD)を取得しました。博士課程ではショウジョウバエの遺伝学的技術を使い、学習と記憶の分子・細胞レベルのメカニズムを研究しました。パブロフが犬で発見した「条件付け」はハエでも起こるのですが、特定の遺伝子に異常のあるハエではこのタイプの学習が成立しなかったり、成立してもその反応がすぐに消えてしまったりするのです。具体的には、小さな二つのチューブにそれぞれ異なる匂いを付着しておき、ハエに自由に出入りさせます。彼らが一方のチューブに入った時には、そのチューブの匂いを嗅ぐとともに電気刺激を受けます。もう一方のチューブの中では匂いは嗅ぎますが、電気刺激はありません。この環境下でしばらくし、二つのチューブのどちらかを選択させると、正常なハエではその90%が電気刺激のなかったチューブに入って行きます。経験を通して情報の価値付けがなされるわけですね。しかし、遺伝子異常のあるハエでは、この匂いと電気刺激との関連づけがうまく出来ません。そこで、いろんな遺伝子異常を持ったハエをこのような“学力検査”で評価したり、脳の神経回路を形成するシナプスの状態を調べたりしながら、学習と記憶に関わる神経細胞内のシグナル経路を明らかにしていきました。

坂本 年将 総合リハビリテーション学部 医療リハビリテーション学科 理学療法学専攻 准教授

栄養サプリメントによる
シナプス形成の促進

博士号を取得した後も、研究員としてMITに残り、学習や記憶の基礎となるシナプスの可塑性について研究しました。大学院で学んだことを医学に応用しようと思い、神経回路の構築を促す栄養サプリメントの開発に携わりました。例えば、アルツハイマー病は脳細胞が死に、記憶が失われていく病気ですが、その初期症状としてシナプスの消失があります。2年前に私の動物実験のデータから、神経細胞膜の合成を促すサプリメントの投与により、脳でシナプスの形成が促進されることが示されました。現在ではこの知見をもとに、アメリカとヨーロッパでアルツハイマー病患者を対象とした臨床試験が行われています。サプリメントによる症状の軽減、または悪化を遅らせる効果が期待されています。

理論と実践のインタ―フェイス
―“研究成果の流通”について考える―

坂本 年将 総合リハビリテーション学部 医療リハビリテーション学科 理学療法学専攻 准教授

理学療法士として臨床をしたり、脳科学者として学習や記憶の研究をしてきましたが、いずれの仕事も「環境への適応」が一つのキーワードでした。本学でもこのキーワードを軸に、脳科学、認知科学、運動科学、栄養学的手段などを使って、人の環境への適応性を高め、人がより良く生きていくことを支援したいと考えています。そしてその支援体制の構築には、実験室での研究ばかりでなく、研究成果を専門家以外の人たちに分かりやすく伝えることも重要だと思います。現在、その試みの一つとして、本学の栄養学部、人文学部の教員と実践的なプロジェクトを進めています。認知行動療法という心理学系の治療理論を食・運動習慣の形成に応用しようとするもので、4月23日(木)に、有瀬キャンパスで「健康教育セミナー」と題した講演会を主催しました。これは、本学教職員と学生を対象に、各学部の教員が運動・食・心に関するテーマで講演します。主に生活習慣病の予防を目的としています。今年度は計5回開催し、個別の健康相談にも応じていく予定です。

プロフィール

1989年、神戸大学医療技術短期大学部卒業。理学療法士免許取得。神戸大学医学部附属病院理学療法部文部技官。1991年、佛教大学文学部英文学科卒業(B.A.)。その後、1994年に渡米し、ニューヨーク州理学療法士免許取得。1998年、コロンビア大学ティーチャーズ・カレッジ生物行動学科修士課程修了(M.A.)。2004年、マサチューセッツ工科大学科学部脳認知科学科博士課程修了(Ph.D.)。その後、2007年までマサチューセッツ工科大学脳認知科学科研究員。2007年4月より神戸学院大学総合リハビリテーション学部准教授、及びマサチューセッツ工科大学脳認知科学科客員研究員。

主な研究課題

  • 学習と記憶のメカニズム

Focus on Lab ―研究室リポート―

地平線を見渡すような広い視野を持つ
起業家精神に富んだ学生を育てたい

坂本准教授がゼミ生(卒業研究生)の募集にあたり掲げているテーマの一つに「リハビリテーション事業の立案」というものがあります。リハビリテーション領域の専門知識や技術を使って、社会に貢献できるユニークな事業を考え出そうというプロジェクトです。「一般にアメリカの学生の方が起業家精神に富んでいますね。西へと向かって荒野を開拓してきた歴史があるからでしょうか。地平線を見渡すような広い視野を持つと共に、的確に物事の本質を見抜き、新たな道を切り開く学生が出てきて欲しいですね」と、準教授。「総合リハビリテーション学部は、社会学系・医学系の教員が揃っていますし、世界の同じ分野の教育・研究機関と比べても遜色のない設備を持ち、ソフト面、ハード面ともに大変充実しています。そうした利点を大いに活用し、専門家としていかに社会と繋がることが出来るか考えて欲しいですね。うちの学部は資格取得を目的としたカリキュラムが中心となっていますが、リベラルアーツをしっかり学び、専門家としてのポテンシャルを高めて欲しいです」。総合リハビリテーション学部の新しいカリキュラムの編成にも密接に関わったという坂本准教授に、学部教育への独自の想いも語っていただきました。

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