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2008年7月
急速な発展の裏にある光と影とは― 精力的に現地に出向き現代中国を鋭く読み解く

急速な発展の裏にある光と影とは― 精力的に現地に出向き現代中国を鋭く読み解く 経済学部国際経済学科 准教授 梶谷 懐

多層な地方政府の利点と問題点

経済学部の学生だった頃には西洋経済史も学びましたが、卒業後の進路を考えたとき、かねてから関心が強かったアジア・中国の経済問題を専門として選びました。今の私の研究テーマは、現代中国における市場経済化と経済改革の動向、経済発展における制度・習慣の役割、農民のリスク回避行動についてなどです。特に中国の中央と地方との関係を経済政策の面から見つめ直しています。

経済学部国際経済学科 准教授 梶谷 懐

世界一の人口と広大な国土を有する中国が、さまざまな政策をスムーズに運用するためには、ある程度、地方政府の自由に任せる必要があります。しかし、地方に権限をゆだねすぎると、地域間格差の拡大や社会的分裂の可能性を引き起こしかねません。この大陸には、そういった統治をめぐるジレンマが常に横たわっています。一口に地方といっても中国の行政区画は中央−省級−地区級−県級−郷・鎮級という5つのレベルに分かれ、さらに同じレベルの行政区にもバリエーションがあり、日本などに比べてはるかに複雑です。そんな中で、各地方政府が各自治区にインフラを整備したり、起業したり、また地方同士で競い合いながら発展してきたという面がある一方、国民の生活を豊かにするべき政府が人々の生活を圧迫するという問題も、ないとはいえません。典型的なのは土地の問題。例えば、経済発展のために農地を工業地や住宅地に開発する際、往々にして非常に安い補償金で農民を立ち退かせるといったことを、地方の末端レベルの政府が行ったりしています。そうした失地農民の不満は地方権力へと向かい、中央権力が農民の側に立つといった一種独特の構図も見られます。この中央─地方の関係性が、現代中国を読み解く一つの鍵といえるでしょう。

現地を訪れ、人民の声を聞く

経済学部国際経済学科 准教授 梶谷 懐

年に3、4回は中国を訪れます。特に近年は四川省へ行く回数が多く、四川大地震の震源地辺りも車でよく通りましたので、現地のことが大変心配です。訪中の目的は主に農村部の調査など。地元の研究機関とも連携した大規模な研究チームにより、約500世帯の農家を対象として、その経営状況や生活環境などを詳細に調べました。中国は1970年代後半の改革開放以来、豊かになれる人から豊かになり徐々に全土を豊かにするという「先富論」を掲げ、高度経済成長を推進しましたが、その結果、地域間や階層間での格差が拡大。農村部と都市部には歴然とした差があり、農村部は貧困や差別などの問題に直面しています。それらを解決するためには、まず実態や貧困・格差が生じるメカニズムを明らかにする必要があると思います。最終的には調査結果を統計や報告書にまとめあげることはもちろん、それを元に地域の行政や研究機関とディスカッションしたり、新しい政策を提言したりするところまで見据えています。

中国全体としては今、北京オリンピックも間近に控え、急速な近代化の波が押し寄せています。それは、国家の活力やビジネスチャンスを生み出すと同時に、さまざまな場面で歪みを生んでいるように思えます。昨今のナショナリズムの高揚も、変化の早さに対する人々の焦りのように見えます。現代の中国が抱える問題をあえて一言で表現するなら、“急激すぎる近代化”となるでしょう。格差の問題や民族間の対立なども、そこに一因があると私は考えます。それを解決していくには、やはり時間をかけるしかありません。腰をすえて今ある問題を見つめ、じっくり対話することを通じて解決を図る。確かに難しいことかもしれませんが、不可能ではないはずです。

農村の共産党幹部へのインタヴュー(四川省江油市)

農村の共産党幹部へのインタヴュー
(四川省江油市)

チベット族の農家を訪問(四川省小金県)

チベット族の農家を訪問(四川省小金県)

広大な中国を多角的に探求

私の活動の今後としては、まず、これまでの研究を本にまとめたいと思っています。通常、経済学のオーソドックスな研究スタイルといえば、例えば金融という一つのテーマを掘り下げ、追い求めていくという形が主流でしょう。しかし、私のような地域の経済学研究の場合は少し違っていて、関連領域が多岐にわたります。例えば中国における中央と地方との関係を探求するには、金融、財政、政治、歴史など、さまざまな角度から問題を見ていかなければなりません。広いフィールドをカバーし、複合的・有機的にまとめていくという作業が必要になります。これまでは内陸部の典型的な地域としての四川省が中心でしたが、とにかく中国は広いですから、同じ農村でも内陸部と沿海部とではまた状況が異なりますし、今後はもっといろんな地域に触れてみたいと考えています。

大自然に広がるブドウ畑を背に(四川省小金県)

大自然に広がるブドウ畑を背に(四川省小金県)

プロフィール

1994年、神戸大学経済学部卒業。1996年、神戸大学大学院経済学研究科修士課程修了。1996〜1998年、中国人民大学に留学(財政金融学院)。2001年、神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了。2000〜2003年、神戸学院大学経済学部講師。2004〜2006年、同助教授。2007〜2008年6月現在、同准教授。

主な研究課題

  • 現代中国の財政・金融改革
  • 経済発展における制度・慣習の役割 (特に地方政府の行動と役割について)

主な研究業績

  • 「中国の財政・金融改革と地域間消費平準化」『アジア研究』第51巻第4号(2005年)
  • 「中国の地域間経済格差と中央−地方関係−「ソフトな予算制約」と地域経済のパフォーマンス−」『神戸学院経済学論集』第36巻第1・2号(2004年)
  • 「中国の「市場経済移行」の評価をめぐって−公式GDP 統計の信頼性に関する議論より−」『比較経済体制研究』第10号(2003年)
  • 「中国の経済発展における地方政府の役割の再検討」『現代中国』第76号(2002年)
  • 「中国の再分配政策と地方政府」 『現代中国研究』 第8号(2001年)

Focus on Lab ―研究室リポート―

さまざまな形で、学生と中国との接点を創出

ゼミでは、昨年の12月に中国ドキュメンタリー映画『水没の前に』の上映会を開催しました。これは、2009年完成予定である世界最大の三峡ダムに沈みゆく四川省のまちを記録したもので、山形国際ドキュメンタリー映画祭でグランプリをとった作品です。神戸流通科学大学と共同で催しました。同大学とは数年前からゼミの交流会などを行っていて、このときも上映会にさきがけて勉強会や発表会などを実施し、多くの学生たちと共に有意義な時間をつくることができました。また、同年11月には、ノーベル平和賞にノミネートされたこともある人権問題活動家で世界ウイグル人会議代表のラビア・カーディル氏をお招きして、「中国新疆ウイグル自治区の人権問題−政治犯としての投獄体験より−」と題した講演会も開催しました。こちらは、地域の方々にも聴講していただきました。また、数年前になりますが、ゼミの学生たちと一緒に中国へ行ったこともあります。現地では、以前から親交のあった中国天津市の南海大学と交流するなど、彼らにとって貴重な経験になったと思います。しかし、近年は餃子事件などもあって中国の印象がかんばしくないのか、学生の中国に対する興味や関心が少し薄れているように感じることもあります。中国のさまざまな面をもっと学んでほしいと思いますし、私としても伝えていきたいです。

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