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2007年6月
女性演劇「越劇(えつげき)」を中心に、新しい中国をジェンダーという視点から探求

中山 文 人文学部教授

1999年、出会ってしまった・・・

1999年、本学着任11年目に長期海外留学のチャンスをいただきました。この年はちょうど新中国成立50周年にあたります。首都北京では建国50周年を祝うために中国各地の劇団が上京、毎日選りすぐりの作品が上演されていました。日本では知ることのなかった中国演劇の面白さに魅せられて、私は毎夜の劇場通い。戯曲、話劇とジャンルをこだわらずに片っ端から観劇し、11カ月で253本の作品を見ることができました。もう天国のような毎日!なんと楽しかったことでしょう。神戸学院に感謝、感謝です(笑)。それまで私は中国の今を知るために、小説を読んでいました。でも舞台に生きる俳優たちの肉体はもっと立体的に中国と中国人を教えてくれました。どの作品にも、中国の歴史・文化・風俗がすべて凝縮されていました。歌に酔い、物語に感動しながら、「ああ、中国語をやってきてよかったぁ」と、心から思いました。この時の経験が現在の私を作ってくれました。一番の財産です。

その中で私は楊小青さんが演出する楊派越劇と出会いました。その舞台の美しさ、描かれる女性のかっこよさと言ったら! 一目惚れでした。

越劇は女性演劇、中国のタカラヅカ

中山 文 人文学部教授

1937年、日中戦争は始まります。そして、上海には租界を中心にモダニズム溢れる都市文化が隆盛します。それ以前の1900年代初頭、浙江省の農村地帯では男性農民による素朴な草芝居が人気を集めていました。彼らはやがて魔都・上海に進出。紆余曲折を経て40年代には、京劇をしのぐほどの人気劇種へと成長します。その大きな理由は、無骨な男優からたおやかな女優を起用するというスタイルの転換にありました。今、日本で越劇が紹介される際、しばしば「中国のタカラヅカ」と称されます。原則として女優ばかりの演劇だからです。

当時、俳優は下賎な職業と考えられていましたが、日本留学生たちが持ち帰った話劇(新劇)だけは別格でした。歌わず踊らずセリフだけで行う近代劇は、列強に侵略される母国を救うための愛国的メッセージを民衆に伝える有効な方法として、知識人に流行していたからです。40年代の女子越劇は話劇から演出家制度や台本制度を取り入れました。その越劇改革の中心となったのが袁雪芬という女優さんです。彼女の改革は、演劇改革であると同時に、女性解放運動としても重要な意味をもちました。魑魅魍魎の跋扈する上海芸能界で、貧困からのし上がった女優たちが一致団結して男社会に挑んで行ったのです。人間らしく、自立した、社会的に意義ある存在になりたいという高い意識を持って。なんてワクワクするんでしょう! 越劇の成長過程には、ターニングポイントごとに賢い男性たちとの出会いがありました。その点も、研究者として興味をそそられます。

話は戻ります。私の惚れこんだ楊派越劇は、タカラヅカのように洗練された華麗なエンターテイメントでありながら、自立する凛々しい女性を描きます。楊小青さん自身、現在の戯曲界を支える中国屈指の演出家であり、とてもチャーミングな女性です。この方をぜひ日本に紹介したいという思いが、05年に『越劇の美しさーー梁山伯と祝英台』として実を結びました。

女目線で見て、この世の森羅万象を考える

中山 文 人文学部教授

私の研究テーマの大きな柱に、ジェンダーがあります。社会的な性別というような意味です。これまで私はとても恵まれた環境で生きてきました。家では兄弟姉妹と比べられることのない一人っ子でしたし、男女平等が当たり前の大学という職場。でも、どんなに恵まれていても“女という性”からは逃れられないのです。それに気づいたのは、結婚して子供を産んでからのこと。もう後の祭り(笑)。妻・母親・教員の3役が同時に降ってきた20代後半は、嵐のような毎日でした。甘やかされて育ったツケを一挙に返済させられた感じ。毎日がいっぱいいっぱい。働きながら子育てをする女性としては普通の生活なのですが、自分だけはもっと楽々とこなせるような気がしていたのですよ。なんとなく。甘かった(笑)。でも、その体験から得たジェンダーという視点のおかげで、同じ小説を読んでもこれまでとは違う世界が見えてくるようになりました。中国の文学・演劇、そしてジェンダーは、私の中で一つにつながっています。

現在は、中国戯曲の翻訳なども手掛けています。幸運なことに、文部科学省が行う支援事業のひとつである学術フロンティア推進事業の一環として、昨年拙訳『カプチーノの味』が神戸と大阪で上演されました。自分の言葉が役者の肉体を通して発せられると、台本の時とはまったく別の力をもつのです。すごいですよ、役者という人たちは。感動しました。また一昨年は本学の主催するグリーンフェスティバルの一環で、越劇を日本に招へいするプロデュースの仕事も経験させていただきました。神戸学院大学のメリット、フル活用です(笑)

これからもさまざまな形で、新しい中国の社会や生活、人間、特に女性にスポットを当てて、研究し紹介していきたいと思っています。

中国現代劇の翻訳を中心に著作も多数発刊

中国現代劇の翻訳を中心に著作も多数発刊

越劇の月刊誌「戯文」。女優のグラビアを中心にトピックスを紹介

越劇の月刊誌「戯文」。女優のグラビアを中心
にトピックスを紹介

昨年のグリーンフェスティバルで公演された、中山教授翻訳による「カプチーノの味」

昨年のグリーンフェスティバルで公演された、
中山教授翻訳による「カプチーノの味」

プロフィール

1958年生まれ。1981年、大阪外国語大学中国語学科卒業。1983年、同大学大学院修士課程修了。1983〜99年、大阪外国語大学中国語科非常勤講師。1989年、神戸学院大学着任。現在に至る。1999〜00年、北京大学・復旦大学訪問教授。

主な著作

  • 「中国女性史入門」関西中国女性史研究会編 人文書院
  • 「楊小青と越劇の六十年」(雑誌『中国21』vol.21 愛知大学現代中国学会編 風媒社)
  • 「袁雪芬と上海の越劇--家と女をめぐって」(『ジェンダーからみた中国の家と女』東方書店)
  • 翻訳「カプチーノの味」 (『中国現代戯曲集5』話劇人社中国現代戯曲集編集委員会 晩成書房)

他多数

Focus on Lab ―研究室リポート―

「生きた国際交流を体験する中山ゼミ」

去る2005年6月、宝塚歌劇と中国の越劇を大学に招き、同じ舞台上で演じていただくという画期的なイベント、「男らしさ・女らしさの作り方――宝塚・越劇比較」を開催。昨年11月には、中山教授が翻訳した中国戯曲「カプチーノの味」が本学主催のグリーンフェスティバルで上演されました。また本年2月、中国のキャンパス演劇指導者として著名な浙江大学の桂迎先生を招いてワークショップを実施しました。それらの運営ではゼミ生が全面的に参加しました。一昨年の「アジア演劇祭イン関西」では、中国側のアテンドとして大活躍。年1回のゼミ旅行は、もちろん中国で演劇鑑賞です。自分たちが学んだ中国語の実力を試す機会が存分にあり、実質的な国際交流を体験できるのが、中山教授のゼミナール。それだけではありません。人文学部では人間文化という幅広い範囲から卒論のテーマを選ぶため、指導教員のまったく知らないジャンルが飛び出すことがあります。そういうときは、「おもしろい! もっと教えて。」と教授が問いかけ、学生のやる気をかきたてます。「私の知らないおもしろいことを探し出してくる学生は、みなエライ!」。さまざまな分野を学生たちと一緒に探求する。そうすることで、学生たちも自分も、成長していくのを実感するのだそうです。

桂迎先生による、体を使った越劇独特の表現方法に熱心に対応する学生たち
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