人文学部水本ゼミの取組みフロントライン

阪神・淡路大震災15年特集

事例その1: 人文学部水本ゼミの取組み

「阪神・淡路大震災記録資料展」の資料をゼミ生が選定

2010年1月17日から1月28日にかけて、神戸市役所1号館2階の市民ギャラリーにて、神戸市消防局主催の「阪神・淡路大震災記録資料展」、神戸市保健福祉局主催の「子どもたちへのメッセージ運動展」が合同で開催されました。この「阪神・淡路大震災記録資料展」は、震災当時、消防隊員が記録として撮影していた被災地の写真を、震災から15年が経過したのを機に一般の方に公開したいということで実施されたもの。この資料展で写真を一般公開するにあたり、神戸市消防局からの要請で本学人文学部の水本浩典教授のゼミ生である3年次生と4年次生、大学院生が、数回に渡って「絆~つなぐ命、こころ~」をテーマに写真の選定作業を行いました。選定にあたっては、「被害状況」「ボアンティア活動」「仮設住宅」といった、いくつかのカテゴリーに分け、写真を分別していく作業から始められました。その過程では、現場状況の様子が生々しすぎるものを中心に省かれ、約4500点から約800点に絞られました。開催中は、連日多くの来場者があり、被災した方など兵庫県内在住の方や、県外からも会場を訪れていました。

学生が主体となって実施されたからこそ
意義深かった選定作業

人文学部 人文学科
水本 浩典 教授

私のゼミでは、5年前から神戸市保健福祉局主催の震災体験を子どもたちに伝える「子どもたちへのメッセージ運動」に協力してきました。今回、神戸市消防局が震災直後に撮影した写真約4500枚の写真を選別して「阪神・淡路大震災記録資料展」をやるので協力してほしいとの要請があり、参加させていただくことになりました。15年間もずっと非公開であった生々しい震災直後の写真を選定するなかで、悲惨でショッキングな写真も多く、選別にあたったゼミ生は皆、涙を流しながらの作業でした。

消防士や救命士の方々が懸命に消火や救助をする姿を見て、これが震災であり人々の「絆」がひしひしと伝わってくる写真の連続に、自分たちの選定作業が社会的に大きな意義を持つものなのだと自覚するとともに、顔つきも変わっていったように思います。

ほとんど震災の記憶がない若い世代の学生が震災の真実と向き合い、約800枚の写真を選別しました。約10日間の展示期間中に、1万5千名もの方々が展示会場を訪れたそうです。そして、写真展に好意的であったことを聞き、非常に感動しています。

選定作業に参加したゼミ生一人ひとりが、「選定者の1枚」と題するコメントを掲示してもらいました。自分たちの思いをそのまま表現した文章をそのまま掲載してもらいました。そうすることで、表現は拙くとも見る方々の心に、彼らの想いがストレートに伝わったのだと思います。

私のゼミは、今回のケースも含めて、実社会とともに「学ぶ」機会が多いゼミです。商店街のまちづくり、夜店まつりプロディース、昭和レトロおもちゃ展示などなど、地域のさまざまな方々と連携しながら、共に「学ぶ」。彼らがそこから何かを学び取り、社会人としての素養を身に付けてほしいと考えるからです。

これからも、阪神・淡路大震災を忘れることなく、後世に伝えていく努力を続けるとともに、学生とともに地域社会のなかで、共に学んでいきたいと思っています。

震災の記憶を若い世代と共有し
これからも神戸から情報発信を

神戸市消防局
総務部庶務課 広報担当
姫嶋 康文 消防司令補

神戸市消防局 総務部庶務課 広報担当 姫嶋 康文 消防司令補

神戸市消防局では、震災の記憶を継承していくために、震災15年を機に消防局が保有していた震災の未公開写真を一般の方々に公開するという企画を考えました。ただ、かなり衝撃的な場面も多数含まれており、被災者の心情等を考慮するとそのまま公開するわけにはいきません。ある程度絞り込むことが必要だということで、選定作業を行うことになりました。私は今回、震災の記憶がない世代が選定に携わることで震災の真実を知ってもらい、彼らが今後これらの記憶の伝承者になってもらえればと考え、水本教授に選定作業の依頼をさせていただきました。実は局内にも、こうした写真を公開することで、被災した方々に不快な思いをさせないか、苦情が殺到するのではないかと危惧する意見もありました。私個人も、震災の真実を伝えなければという使命感との狭間で思い悩む日々が続きました。しかし、こうした悩みは公開初日に打ち消されました。被災者だけでなく、震災を知らない子ども連れの方や県外から来られた方、教育関係者など、実にさまざまな方に来場していただいたからです。訪れた方の意見としては、「展示を自分たちの地域で見たいので巡回してほしい」、あるいは「写真集にしてほしい」などといったものがありました。また、「震災時、もっと多くの人を救えたのではないか、という無念さがありましたが、今回の資料展を通じて、当時の自分たちの活動に間違いはなかったのだと胸のつかえがおりた」という消防職員の声もありました。想像以上の反響に驚いているところです。こうした反響をいただくことができたのも、学生が真実を世に伝えたいと真剣に考え選定してくれたからだと思います。私は、この神戸から震災の本当の姿と、人と人とをつなぐ「思いやりの心」のすばらしさを発信することに意味があると思っています。今後も水本教授に協力いただき、学生とともにこうした取組みを続けていきたいと考えています。

震災を伝えられる側から伝える側へ
今後を考えるきっかけになった貴重な経験

人文学部 人文学科
3年次生 相馬孝彦 さん

私は、幼い頃に、阪神・淡路大震災を地元の姫路市で体験していますが、テレビの報道で見たという記憶だけが残っているという状態でした。そのため、選定作業の際に被災地の写真を初めて見たときは、相当なショックを受けました。そこには、単なる情報ではない、現実が写し出されていたからです。また、ショックを受けると同時に、できることなら選定せずにこれらの写真すべてを震災について知らない方に見てもらいたいと感じました。より多くの人たちが、被災地で当時何が起っていたかを知るべきだと思ったからです。そして、消防士の方たちの活動についても知りたいと考えるようになりました。もともと卒業論文は、阪神・淡路大震災に関することについて書こうと考えており、今後は、震災時の消防隊員の方々が当時どのような活動を行なったのかについて深く研究したいと思っています。今回の選定作業に加わったことで、震災を伝えられる側から、今後は、伝える側になりたいと思うようになりました。特に、私たちより若く震災を知らず、歴史の一部として認識している世代の子どもたちに、こうした事実を伝えていかなければならないと強く感じました。将来は高校の教師を目指しています。今回の経験を生かして、高校生に震災の真実を伝えたいと考えています。そうすることで、彼らが、防災に興味を持ち、防災意識を高めてもらうきっかけになればと思っています。

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