コラボレーション05《本学×独立行政法人+地方公共団体》フロントライン

シリーズ:プロジェクトK ~連携で生まれる新しい教育研究のかたち

連携がもたらす人々の健康と生活につながる研究活動

コラボレーション05 《本学×独立行政法人+地方公共団体》

海外技術研修員が参加する研修の教材マニュアルを
防災・社会貢献ユニットの学生が作成

自分たちが作成したワークショップマニュアルを使用して実際に研修員に指導する学生
自分たちが作成したワークショップマニュアルを
使用して実際に研修員に指導する学生

発展途上国で防災・減災に携わる人材をより効果的に育成する目的で、2007年4月に国際防災研修センターが設立されました。これは、兵庫県とJICAが共同で設立した新たな組織で、JICA兵庫内に設置されています。国際防災研修センターでは、阪神・淡路大震災の教訓を活かしたさまざまな研修プログラムが組まれており、毎年多くの研修員を海外から受け入れています。防災・社会貢献ユニットの前林清和教授のゼミナールでは、2007年の後期授業より、そうした研修プログラムに盛り込むための新たな研修教材の作成に挑戦しています。当時2年次生のゼミ生(現4年次生)が、研修でファシリテータが使用するためのワークショップマニュアル「被災地復興シミュレーション 納得するまちづくり」を1年半がかりで完成させました。マニュアルは、“まち”や“駅”などテーマごとにまとめられた災害現場の画像を順次見せていく「フォトランゲージ」や、被災者それぞれの役割を研修員が演じる「ロールプレイ」などの手法を取り入れ、全編参加型の内容で展開しています。研修員がより実体験として災害を感じ、被災者に共感することができよう工夫されています。

地域社会全体で学生を育て、
学生自身も知識を地元に還元できる大学に

学際教育機構 防災・社会貢献ユニット
ユニット長 前林 清和 人文学部 教授

学際教育機構 防災・社会貢献ユニット ユニット長 前林 清和 人文学部 教授

今回の教材づくりを依頼された際、参加型のマニュアルを作成してほしいというオーダーだったこともあり、ロールプレイの手法を取り入れたものにしようと学生に提案しました。そこで、最初の1年は、そもそもロールプレイとは何かといった講義からスタートしたのです。その間、学生が阪神・淡路大震災において、復興の陣頭指揮をとった各地区の「まちづくり協議会」のメンバーの方々などに実際にインタビューを実施。そのことで、より現実感のあるフィクションを組み立てることができました。このマニュアルづくりを担った学生は、港島小学校への出前授業なども手がけていたので、他のユニット生の倍以上の労力を費やしながら、よくがんばってくれたと思います。私たちユニットが目指しているゼミ学習は、単に「学生が授業で何かをつくりました」ではなく、それが実際に社会のために活用されるというレベルにまで、もちあげることにあります。ユニットでは、学生が大学内だけにとどまっていたのでは修得できない社会常識も身につけることができます。例えば、何かを世に出すためには期限を必ず守らなければならないし、社会で人と接する際は言葉遣いや態度にも気をつけなければならないといったことです。そうした意味では、今回のプロジェクトは成功だったと言えるのではないでしょうか。大学教育の第一の目的は、学生を社会に通用する人材として育てあげることです。私は、そのためには大学だけでなく、地域全体で学生を育てるという意識を持つことが必要だと思っています。今後も、今回のように、外部組織の方々の協力を仰ぎながら学生を育てるとともに、学生が防災・社会貢献ユニットで学んだ知識を地域社会に還元できるような試みを、どんどん実施していきたいと考えています。

阪神・淡路大震災の教訓を次世代へ継承し
若い力を借りて防災意識や技術を世界へ

JICA兵庫/国際防災研修センター(DRLC)業務調整員
川池 知代 さん

国際防災研修センター(DRLC)業務調整員 川池 知代 さん

国際防災研修センターでは、防災関連のさまざまな研修を年間通じて実施しており、そうした研修で使用する教材開発も同時に行っています。今回、防災・社会貢献ユニットの前林教授にご協力いただいて作成したワークショップマニュアルは、今までにない参加型の教材を作成したいと考えたのがきっかけでした。日本に来る研修員は、阪神・淡路大震災からの復興の過程に関する知識をほとんど持っていません。そのことから、同じ立場に立てる初心者が作成すると、研修員にとって同じ目線に立った、より効果的な研修ができる内容になるのではないかと思ったのです。そこで、防災・社会貢献ユニットの学生であればフレッシュな感覚を教材に取り入れることができ、彼らの勉強にも役立つのではと考え、日頃から防災研修に協力していただいていた前林教授に打診。快諾していただき、前林教授が担当するゼミ生でマニュアルづくりを始めることになりました。当初は、とまどう学生に対してこちらがあれこれ指示する形で進行していました。しかし、学生自らがロールプレイの参考にするために阪神・淡路大震災を経験し、復興に携わった方々にインタビューを実施してからは、自主的に役割分担を決めて物事を進めるようになりました。制作の最終段階では、マニュアルをシミュレーションするために、実際の研修に学生がファシリテータとして登場。研修員を前に、英語によるレクチャーを行いました。今回のケースは今までにない試みだったので、最終的にどのようなマニュアルができあがるのか一抹の不安がありましたが、学生は見事にやり遂げてくれたと思います。今回このような成果を上げることができたことで、兵庫県にはまだまだ何かを成し遂げるパワーが備わっているのだと再確認することができました。今後も、こうした若い人たちの力を借りながら新しいアイデアを取り入れ、世界の防災に貢献していきたいと思っています。

困難を乗り越えてやり遂げることで
自分自身を成長させてくれる連携授業

学際教育機構 防災・社会貢献ユニット
前林清和教授のゼミ生(4年次生)の皆さん

前林教授と4年次生のゼミ生の皆さん
前林教授と4年次生のゼミ生の皆さん

最初に、前林教授から防災をテーマとした国際協力のためのワークショップマニュアル作成についての話を聞いたときは、非常に戸惑いました。こうした、外部の方と一緒に教材をつくるといった作業をまったくしたことがなかったからです。また、わたしたちのゼミは、社会貢献コースということもあり、防災に関する知識もほとんどなかったことも不安でした。制作を進めるにあたっては、特にリーダーを決めたわけではありません。それぞれが、アイデアを出し合い軌道修正しながらみんなでつくりあげていきました。その間、自主的に集まってロールプレイの練習をしたり、毎日のように朝早くから大学に集合し、授業が終わった後は、夜遅くまでキャンパスに残り制作にあたったりしました。大変だったのは、震災で被災された方へのインタビューを行ったときです。被災者の方に過去の悲惨な震災体験を話していただかなくてはならないため、不快な思いをさせてしまうのではないかと非常に気を遣いました。実際には、皆さんがわたしたちに協力的に接してくださったので、何とかインタビューを遂行することができました。海外研修生の方に英語でレクチャーを実施したときもそうですが、関係者の皆さんがわたしたちにあたたかく接して下さったことで、マニュアルを完成させることができたのだと思います。防災・社会貢献ユニットの授業は授業内容もハードなため、生半可な気持ちで入れば苦労するでしょう。ただ、4年間で「自分はこれをやり遂げた!」と、自信を持って言える自分になりたいと思うなら、大変やりがいのあるところではないでしょうか。

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