コラボレーション02《本学×企業・2》フロントライン

シリーズ:プロジェクトK ~連携で生まれる新しい教育研究のかたち

連携がもたらす人々の健康と生活につながる研究活動

コラボレーション02 《本学×企業・2》

リハビリのアイデアと企業のノウハウを結集し
腰にやさしいクッション「Cubeads キュッキュッ」を開発

背中から腰にかけての範囲をカバーすることで身体への負担を軽減
背中から腰にかけての範囲をカバーすることで
身体への負担を軽減

発泡スチロール素材を利用した生活関連商品の開発を手がける龍野コルク工業株式会社では、今年4月、自社のクッションブランド「Cubeads」シリーズから新たな商品を発売しました。「キュッキュッ」と名づけられたこの商品は、開発段階から本学総合リハビリテーション学部の古田恒輔教授がアドバイザーとして参加。古田教授が専門とする作業療法分野の知識やノウハウが反映された、腰にやさしいクッションとなっています。制作過程では、ゼミ生もネーミングやカラーの選定に関わりました。「キュッキュッ」は、伸縮性の高い側生地のなかに発泡スチロールの極小ビーズが適量詰め込まれており、腰にあてがい左右にキュッ・キュッと引っ張ると、使う人の腰の形状にぴったりフィット・腰をホールドします。用途によって通常の椅子に座る際に使用する「スタンダード」と、クッションの上段に2つのくぼみを入れた車のシート専用の「えくぼつき」の2種類。星形のユニークな外見と種類豊富なカラーリングもあって、販売店では人気商品となっています。

できるだけ多くの人を笑顔にする
福祉用具を熟知した開発者として、
わかっているセールスマンとしてものづくりに関わる

総合リハビリテーション学部
医療リハビリテーション学科 作業療法学専攻
古田 恒輔 教授

総合リハビリテーション学部 医療リハビリテーション学科 古田 恒輔 教授

今回、「Cubeads」シリーズの新商品開発で、龍野コルク工業とは初めて一緒に仕事をさせていただいたのですが、非常によいタッグが組めたと思います。企業とうまく連携していくには、こちらの要望を押し付けるのではなく、できるだけ企業側のアドバイスに耳を傾けることだと思います。リハビリテーションとものづくり、分野は違っても、それぞれがその領域のプロ。お互いが各自の意見を主張し合うだけでは、ものづくりはうまくいきません。尊重し合ってはじめて、商品開発は成功するのだと思います。また、私が常に心がけているのは、そうして完成した商品を、できるだけ多くの方に使っていただけるよう販売促進に努めること。今回の新商品も、見本市で来場者に対して自ら実演し、龍野コルク工業のセールスマンに使用方法を指導したりしました。今後は学生が指導実演の動画を制作し、商品紹介のウェブサイトにコーナーを設けることも考えています。また、販路を広げるために、福祉関係専門でクッションを取り扱っている卸業者に新商品を紹介したりもしました。私がこれほどまでに“セールスマン”に徹するのは、利用者が心から満足している笑顔が見たいからです。かつて、医療現場で作業療法士として勤務していた当時、自分の作った福祉用具が通院する患者にしか行き渡らないことに矛盾を感じていました。すべての人に使ってもらうには、一般販売するしかない。そう痛感したことが、現在の私のこだわりにつながっています。さまざまな専門家が集まったプロジェクトのなかで、自分自身も歯車のひとつとして十分機能し、画期的な用具をつくる。完成した福祉用具で日本を変える。今後もそうした意気込みで、福祉用具づくりに関わっていきたいと思っています。

何気ない一言からプロジェクトが始まり
短期間での機能性クッションの商品化に成功

龍野コルク工業株式会社
片岡 孝次 代表取締役社長

古田教授には、当初、医療施設で使用するリハビリテーション用の移乗マットの開発に関してのアドバイスをいただくためにお会いしました。しかし、その打ち合わせの際に、私がふと「腰にやさしいクッションを作りたい」と発言したことで、新たなクッションの開発を考案する流れができた、というわけです。その際、私が持参したいくつかの自社の機能性クッションのサンプルのなかから、「ヒポタン」というカバの顔をかたどったビーズクッションをピックアップされたのです。古田教授が「ヒポタン」を縦横斜めに引っ張りながら腰をホールドするのに程よい形をあみ出し、私も、座ったときに極小ビーズが左右均等になるよう、クッションの中央縦にミシン目を入れるといった工夫を教授に提案しました。最終形へと近づけてその日のうちにすぐに試作品作成にとりかかりました。

でき上がったサンプルを古田教授にお見せしたところ一発で了解をいただき、品質の安全を検査する作業を経て商品が完成したのです。そして4月には、店頭に並ぶこととなりました。今回の商品開発は、異なる専門知識を持つもの同士が、一つの目的のためにお互いの知識や技術を出し合った結果、見事にかみ合った希有なケースではないでしょうか。私たちのような、研究施設を自前で持たない中小企業が商品を開発する場合、大学と連携して事業を進めることは非常に意義があります。大学から“お墨付き”を与えられた商品であると世間の方に認知してもらえるからです。私は、自身の会社以外に、地域産業の振興を図る目的で組織されている「はりま産学交流会」の副会長も務めています。こうした団体を通じて地域周辺のさまざま大学や異業種の企業とも連携を図り、今回のような機能性の高い商品の開発を進めていきたいと思っています。

自分たちが関わった商品が店頭に
ものづくりの感動を学べるユニークな授業

総合リハビリテーション学部
医療リハビリテーション学科
古田恒輔教授のゼミ生の皆さん

総合リハビリテーション学部の皆さん

今回の「Cubeads」シリーズの新商品開発において、私たち学生は、ネーミングやカラー展開の選定に関わりました。名前に関しては、分かりやすい名前を考えてほしいとのことでした。そこで、“腰”に合わせて “キュッキュッ”と引っ張って形を整えるクッションということで、「腰キュッキュッ」というアイデアがすぐに思い浮かび、古田教授に伝えました。すると、ストレートで分かりやすいということで、あっさり決定(笑)。カラー展開に関しては、販売対象がOL層だということを聞いていたので、はっきりした色合いで数種類しかなかったものを、色のバリエーションを増やしパステルトーンの淡いカラーも加えるという提案をしました。こちらにも、私たちの意見がかなりの部分で反映されました。こうして自分たちが制作に関わった商品が、実際に店頭に並び、しかもヒット商品になっているそうなのでうれしい限りです。一般的に、リハビリテーションを学ぶと聞くと、身体機能を正常に戻す知識を身に付けるといったイメージがあるかと思います。古田教授の授業では、今回のプロジェクトだけにとどまらず、学生が実際の福祉用具づくりに参加することができます。リハビリテーションには、機能の回復だけではなくそれを支える道具も重要です。そうしたさまざまな側面を、ものづくりを通して学べるところが古田教授の授業の魅力です。

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