学びのなかで身に付ける実践力フロントライン

学生が運営する“チャレンジショップ”の試み

― 学生がショップ経営やイベント企画などを実施 ―

学生チャレンジショップは、神戸市の要望をもとに、ポートアイランドの地域活性化のための具体案として経済学部の角村教授らを中心に考案され、2008年12月にオープン。ポートアイランドにキャンパスを構える他大学と、地元自治体や企業もこの事業に参加しています。「しおさい」は、“とうふドーナツ”を販売する喫茶スペースや駄菓子屋を設置。また、地域の方々に棚のボックスを貸し出すレンタルボックス“おかしばこ”などで構成されています。「きらめき」は、ポーアイ4大学による連携事業が学生からアイデアを集めて採択されたプロジェクトを実施する、学生研究活動事業「きらめきプロジェクト」を開催するなど、各種イベントや授業などに利用するフリースペースとして設置されました。これまで、地元企業との連携によるワインの試飲会・即売会や地元の子どもたちの参加による「手作りたこ教室」などを開催。ポートアイランドに拠点を置く企業の組織・神戸ファッションタウンネットワーク主催の清掃活動に参加するなど、積極的な活動を行ってきました。学生チャレンジショップでは新たな店舗事業の考案や「きらめきプロジェクト」各企画の実施を進めるなど、今後も地域活性化のためのさまざまな企画を行っていく予定です。

今年の5月に開催された「手作りたこ教室」の様子。港島幼稚園の子どもたち約80人が参加
今年の5月に開催された「手作りたこ教室」
の様子。港島幼稚園の子どもたち約80人が参加
学生チャレンジショップ「しおさい」。地元住民の交流の場に
学生チャレンジショップ「しおさい」。
地元住民の交流の場に
“とうふドーナツ”は、プレーン・ココア・抹茶・レーズン・アールグレイの5種類。プレーンは100円で、他はすべて120円で販売
“とうふドーナツ”は、プレーン・ココア・
抹茶・レーズン・アールグレイの5種類。
プレーンは100円で、他はすべて120円で販売

さまざまなことを経験して、
自分を高めることができた実践の場

経済学部経済学科4年次生
学生チャレンジショップ代表
中村 卓 さん

経済学部経済学科4年次生 学生チャレンジショップ代表 中村 卓 さん

学生チャレンジショップのオープン自体は2008年の12月ですが、私たち学生が立ち上げの準備を始めたのはその年の夏休みからです。インターンシップや授業のなかで、ポートアイランドのことを調べてタウンマップにして発行した「ポート愛ランドきらめきマップ」の作成に関わっていたメンバーのうち、私を含む5人が学生チャレンジショップに参加し、プロジェクトがスタートしました。オープンからしばらくは「しおさい」への来客が少ない状態が続きましたが、4月からレンタルボックスと駄菓子屋を設置してからは地元住民の方々の訪問も増えました。親子で来られたお客さま同士が楽しく会話しておられる場面も多く見られるようになり、よい交流が生まれてきていることを実感しています。また、「ポーアイ4大学による連携事業」が支援する「きらめきプロジェクト」の地域貢献活動に関するアイデア募集に、学生チャレンジショップとして「ポートアイランド美化計画」「読書の島」「地域の方と楽しくレクリエーション『地域で健康』」の3案を提案し、すべて採用となりました。今後、フリースペースの「きらめき」を利用して、それぞれ街のクリーンアップや子どもたちに対する本の読み聞かせ、エクササイズ教室といった内容で順次開催する予定となっています。私はこのプロジェクトのなかで、多くの企業の方々とビジネスの現場で一緒に仕事をするという貴重な経験をさせていただきました。そうした経験を積み重ねることで、コミュニケーション能力が随分とアップし、社会人となるための自信も身につきました。当初5名のスタッフから始まった学生チャレンジショップも、今では20名を超える大所帯となりました。あとに続く後輩のみなさんには、失敗を恐れずにどんどんさまざまなことに“チャレンジ”してほしいと思います。

ポートアイランドのマップづくり

― 地域活性化のために学生が街を再発見 ―

ポートアイランドの活性化を考えるために実際に学生が現地を歩いてその魅力を発見し、各学生がおすすめのスポットを掲載したのが「ポート愛ランドきらめきマップ」です。現在、このマップの内容を学生チャレンジショップのホームページで公開する作業を進めています。そのなかで、経済学部の角村正博教授のゼミ生も参加し、新たに3施設を加えた形で更新を図る予定です。

初めての経験ばかりで苦労の連続
なんとか形にして結果を発表したい

経済学部国際経済学科3年次生
永岡 英奈 さん (写真上)
経済学部国際経済学科3年次生
中村 光一郎 さん (写真下)

経済学部国際経済学科3年次生 永岡 英奈 さん

経済学部国際経済学科3年次生 中村 光一郎 さん

今回私たちは、「ポート愛ランドきらめきマップ」のウェブ化にあたって、「介護老人福祉施設 ぽー愛」と「水上消防署」、アパレルメーカーのアウトレットショップ「FALKLAND」の3施設をとりあげ、取材を行いました。「介護老人福祉施設 ぽー愛」は島唯一の老人福祉施設で、消防署は地域住民の生活に欠かせない施設であり、「FALKLAND」はアウトレットにおける低価格のシステムを知りたいという理由で選びました。ゼミ生は3班に分かれ、それぞれの施設を訪ねて取材を実施。私たち2人は「介護老人福祉施設 ぽー愛」を担当したのですが、職員の方には施設内を案内してもらうなどとても丁寧に対応していただいたので緊張感も和らぎ、無事取材を終えることができました。この3施設の紹介に関しては、神戸市の大学や高校などの学生や生徒が参加して今年の10月に神戸で開催される「地域学発表会」で、レポートを発表する予定になっています。今回のプロジェクトは、私たち3年次生のゼミ生が外部社会に接する初めての機会だったので、当初、何をすればよいのか分からずまったく白紙の状態でした。そのため、施設へのアポイントひとつをとってもすべて試行錯誤。すべて手探りでさまざまなことを行わなければならなかったので、きちんと遂行できるかとても不安でした。なんとか、取材を無事終えるところまでこぎ着けたのでほっとしています。作業は大変ではありますが、今後も公園や博物館など、ウェブに掲載する施設を増やしていきたいと考えています。

ポートアイランドの地の利を生かし
学生に“チャレンジ”の場を提供

経済学部  角村 正博 教授

経済学部 角村 正博 教授

学生チャレンジショップの構想は、神戸市からポートアイランドの活性化について考えてほしいとの依頼があった際に考えました。2007年の本学ポートアイランドキャンパス開設時に「ポーアイ活性化研究会」が発足し、プロジェクトがスタートしました。まず、街のことを知らないといけないということで、学生に実際にポートアイランドを歩いてもらって情報を集める作業を進めました。その成果の第1段階として、「ポート愛ランドきらめきマップ」の作成があります。そして、街の活性化の最終段階として学生チャレンジショップの開設にたどり着いたわけです。メンバーも当初は5名だけだったので、各学部やゼミナールをまわってスタッフの募集を呼びかけたりなど苦労したようですが、今ではクチコミなどで多くの学生が参加を希望するようになっています。現在は運営も学生の自主性にまかされており、さまざまなイベントをどんどん企画し実行するまでになりました。また、ポートアイランドには、アパレルをはじめこの地に本社をおく企業がたくさん集まっています。私は、総務や人事など、こうした企業の主要な部署の責任者の方と学生を結びつけるために、交流の場をできるだけ設けるようにしています。面接とは違う和やかな雰囲気で学生と企業人が交歓の場を持つことは、お互いを理解するうえで大いにプラスになります。実際に、そうした企業に就職した学生も出てきているなど、目に見える成果として現れています。この学生チャレンジショップにしても、マップづくりに関してもそうですが、私の役割はあくまで学生のサポート役に徹することだと考えています。手取り足取り教えるのではなく、社会人としてのさまざまな素養や知識を身に付けられるような環境を用意し、あとは彼らが主体的に動いて自分たちで学んでくれることを願っています。

ゼミナール・レポート

法学部法律学科 佐々木光明ゼミ
「新春学生企画市民シンポ 少年に対する裁判員裁判―あなたが死刑を…?!」(2009年1月10日開催)について
法学部法律学科 佐々木光明ゼミ
準備から開催まで
ゼミ生でシンポジウムを運営

これまで市民シンポジウムは、それぞれタイトルや内容を変えて過去2回同じ時期に実施されてきました。いずれも佐々木ゼミの研究テーマである、刑事法や少年法に関する内容で開催されています。今年は、「新春学生企画市民シンポ 少年に対する裁判員裁判―あなたが死刑を…?!」とのタイトルで実施されました。裁判員制度のもとでは、私たち国民が18、19歳の未成年に対して死刑を宣告しなければならないケースもあるということは一般にはあまり知られていません。そうした、未成年者が関わる裁判の場合、どのようなことが問題になるのか。シンポジウムを通じて、地域の方々とともにこうした問題を考える機会としたいとの願いから、今回のテーマが設定されました。

シンポジウムの具体的な準備を始めるにあたっては、例年前期授業が終わる前に、佐々木教授及び3年次生と2年次生とで、まず“シンポジウムを開催するのか否か”という議論からスタートします。白熱した議論の結果、今年もなんとか開催する運びとなり、テーマも決定。3年次生が「少年の刑事裁判制度班」「死刑班」、2年次生が「被害者参加制度班」「裁判員制度班」「更正保護班」の各班に分かれて、それぞれリーダーを中心に文献を調べたりアンケート調査を行ったり、専門家の意見を聞いたりしながら徐々に形にしていきました。「法律の専門家の方にお話を聞きに行く時は、失礼のないように事前勉強をしっかりしなければならず、結構プレッシャーがかかりました。また、一般の方々に内容を分かっていただくために、どこまでの知識を盛り込めばよいのかを考えながらの作業だったので、結構辛かったです」と語るのは、幹事の森崎早苗さん(現4年次生)。12月には、シンポジウム開催を新聞社などのマスコミ関係や法律関係機関、行政などに広報するため、挨拶文の書き方や、電話での連絡の取り方などを各自で学んだうえで3年次生がアポイントを開始。プロジェクト全体を統轄する立場にあったゼミ長の中尾亜希子さん(現4年次生)は、「対応した担当者の方に冷たく対応されたゼミ生もいて、広報活動には苦労しました。それでも、新聞社から取材に来ていただいたり、チラシをおいていただけるところも結構ありましたので、おおむねうまく広報できたと思います」と、当時を振り返ります。最終的には、編集責任者である木谷駿さん(現4年次生)が各班からまとめられたレポートを1つの冊子に集約し、当日の資料が完成。今回は、開催日直前までかかったそうです。またシンポジウムでは、毎回、法律になじみのない一般の方でもよく内容を理解できるようテーマ内容を20分程度の劇にして上演しています。今回も、劇の企画やシナリオ、出演まですべてゼミ生が担当。「最初にいくつかの案を私がプロットとしてまとめてみんなに見せて、採用になったシナリオに肉付けしていきました。その間、さまざまな意見が出ましたが、それを調整するのがとにかく大変。途中で放りだしてしまおうかと思ったくらいです(笑)」と語る、シナリオ作成の主担当だった番麻未さん(現4年次生)。こうして、準備段階で意見が衝突し、その度調整しながらも、何とか開催にこぎ着けることができました。

7月の前期最後の授業に佐々木ゼミの3、4年次生が集まって、シンポジウムについて語っていただきました
7月の前期最後の授業に
佐々木ゼミの3、4年次生が集まって、
シンポジウムについて語っていただきました
今年の中心メンバーだった4年次生。(左から)中尾亜希子さん、番麻未さん、木谷駿さん、森崎早苗さん
今年の中心メンバーだった4年次生。
(左から)中尾亜希子さん、番麻未さん、
木谷駿さん、森崎早苗さん

ゼミという自由に“考える時間”を
有効に活用して成長してほしい

法学部法律学科 佐々木 光明 教授

法学部 法律学科 佐々木 光明 教授

今まで私のゼミでは、2007年に「『頑張れば』社会に戻れますか」というタイトルで少年の更生に関する問題を、2008年には、「少年の刑事裁判(裁判員)、大人と同じ?!―少年審判から考える」というタイトルで少年法改正に伴う問題をそれぞれ取りあげ、市民を対象にしたシンポジウムを開催してきました。今回の「新春学生企画市民シンポ 少年に対する裁判員裁判―あなたが死刑を…?!」は、同じ形式での3回目の開催となります。また、私のゼミの学生は、刑罰を受ける年齢が16歳から14歳に引き下げられる少年法改正に対して、あるいは、裁判における被害者参加制度に対しての「意見書」を国会に提出し、そのための記者会見を地裁司法記者クラブで開くなど、社会に対してさまざまな問題提起を行ってきました。私は学生が、自分たちの学んできたことを自ら社会に発信することが大事だと考えています。そうした意味でも、佐々木ゼミの学生は積極的な姿勢でこれらの課題に臨んでくれていると思います。何より、こうしたプロジェクトを通して、人間的にも随分成長していると感じます。ゼミとは、いわば大学のなかの“University”。つまり、自治集団“Guild(ギルド)”のようなものだと私は考えています。この独立した人間集団のなかで、いかに学生が“考える時間”を持てるかが重要なのです。考える時間=余暇をラテン語で“Schola”といい、School=学校の語源でもありますが、大学のゼミという「場(空間)」は、理論研究や聞き取りなどの実証研究において、人と関わること、社会を見つめることが不可欠です。そうした過程で自分という存在にも向き合うことにもなります。「自由な思考」には、トレーニングが必要なのです。
ゼミ仲間と理論課題にもまれ「思考の鍛練」を積んだゼミ生の顔つきは、たくましく大きく成長します。ゼミを卒業するときの彼らの顔は、もう大人の風貌です。私はそんなゼミ生の伴走者、パートナーです。

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