ライフサイエンス産学連携研究センター(LSC)フロントライン

本学研究機関を拠点とした、地域社会とのつながり
ライフサイエンス産学連携研究センター(LSC)
神戸学院大学地域研究センター

ライフサイエンス産学連携研究センター(LSC)

「高齢化社会における加齢性疾患の予防・治療薬の開発研究」を行うことを目的とし、食品薬品総合科学研究科の共同研究プロジェクトとして、2000年から2004年まで「ハイテク・リサーチ・センター」が有瀬キャンパスに開設されました。2007年4月には同センターの役割を引き継ぎ、さらに研究内容を発展させて実用化を目指した新プロジェクトが、文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業「学術フロンティア推進事業」の選定を受けました。これに伴って、ポートアイランドキャンパス内のC号館1階に「ライフサイエンス産学連携研究センター(LSC)」が設立されました。大阪大学、徳島大学、医薬基盤研究所など他大学や研究機関、地元企業、神戸市や兵庫県など自治体とも連携しながら、医薬品と機能性食品開発の実現に向けた基礎研究を推進しています。

進行中の共同研究事例

  • 「PVA共重合体を用いた医薬品製剤の品質に関する研究」

    (2009年4月1日~2010年3月31日)
    【本学研究者】 福森義信 教授(研究代表者)/市川秀喜 准教授/吉野廣祐 客員特別研究員
    【共同研究機関】 日新化成株式会社
  • 「新規医薬品添加剤POVACOATに関する研究」

    (2008年8月1日~2009年7月31日)
    【本学研究者】 福森義信 教授(研究代表者)/市川秀喜 准教授
    【共同研究機関】 大同化成工業株式会社
  • 「薬物を評価するための培養細胞の特性評価と最適化」

    (2008年9月1日~2009年8月31日)
    【本学研究者】 李英培 教授(研究代表者)/榎本理世 助教
    【共同研究機関】 アドメリサーチ株式会社

産官学連携に有利な立地を生かし
加齢性疾患の予防・治療薬の実用化を推進

ライフサイエンス産学連携研究センター 運営委員長
薬学部 生命薬学部門 薬理学研究室
李 英培 教授

ライフサイエンス産学連携研究センター 運営委員長 薬学部 生命薬学部門 薬理学研究室 李 英培 教授

ライフサイエンス産学連携研究センター(LSC)では、「高齢化社会における加齢性疾患の予防・治療薬と機能性食品の開発研究」という課題を遂行するために7つのサブテーマごとにグループに分かれて共同研究が行われています。LSCのあるC号館には専用の研究室が3つあり、LSCでの研究推進に欠かせない分析機器類が配置されています。特定の細胞集団だけを選択して回収することのできるセルソーター、特定分子の発現やイオンの動きを経時的に観察できる共焦点レーザー顕微鏡、分子の同定などに不可欠なLC-MSなどの設備を有する研究機関は全国でもそう多くありません。LSCは、前身であるハイテク・リサーチ・センターで行っていた“高齢化社会における加齢性疾患の予防・治療薬の開発”を実用化にまでつなげるという目的で誕生しました。ポートアイランドには神戸医療産業都市構想の拠点としてさまざまな関連企業や研究所が集まっており、LSCの研究拠点がポートアイランドに移ったことで、産学が連携するには非常に有利な環境が整ったといってよいでしょう。実際、いくつかの企業と共同で研究を行い、すでに実用化へ向けて動き出しているプロジェクトもあります。また、“産”や“学”との連携だけでなく、神戸市など“官”と協力関係を築きやすい点もポートアイランドに拠点を置く利点だと思います。例えば、神戸市の産業誘致課からベンチャー企業を紹介してもらったり、経済産業省近畿経済産業局が運営する「関西バイオクラスタープロジェクト」のコーディネータが、事業化につながるネタ、いわゆる“技術シーズ”を求めてLSCにコンタクトを取ってきたりなど、ポートアイランドに開設した意義は大変大きいものがあると実感しています。連携先組織などによる学術講演がLSC主導で開催されるなど、学生が外部組織と接する機会もでき、学生の教育という観点からも大いに意義があるといえるでしょう。学生の知識や技術、コミュニケーション能力が磨かれるだけでなく、企業などにとっても優秀な人材を発掘する場にもなり、双方にとってメリットが多い点も評価できるのではないでしょうか。今後は、周辺地域との連携だけでなく、“地域”の範囲を広げてインターナショナルな展開を図っていきたいと考えています。

トピックニュース

本学薬学部の研究成果が
総務省消防庁の提案公募事業に採択

本学薬学部の佐々木秀明教授を中心にした本学研究チームと、神戸市消防局特殊災害隊、株式会社島津製作所の共同研究により進められていた研究課題が、総務省消防庁の提案公募事業「平成21年度消防防災科学技術研究推進制度」に採択されました。研究課題は、特殊災害発生時の原因物質を迅速に特定するために機能特化した耐久性の高い可動型高感度GCMS(ガスクロマトグラフ-質量分析計)を3年間で開発し、実用化するというものです。現在この装置は、水上消防署特殊災害隊に配置されています。また、2007年10月には、神戸市内で発生した危険物や毒劇物などによる特殊災害が発生した際の協力体制について、本学と神戸市消防局は覚書を締結しました。2008年8月、この覚書に基づき、水上消防署特殊災害隊員を対象に、装置の効果的な活用法について第一回夏期講習が本学ポートアイランドキャンパスで実施されています。

神戸学院大学地域研究センター

文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業「学術フロンティア推進事業」に、本学の共同研究プロジェクト「阪神・淡路大震災後の地域社会との共生をめざした大学の新しい役割に関する実践的研究」が採択され、2002年より5年間の計画でプロジェクトがスタートしました。人間文化学研究科を中心に大学内の研究科組織を横断的に組織し、このプロジェクトを遂行する研究組織として「神戸学院大学地域研究センター」が設立されました。センターでは、「心理学」「地震・防災学」「芸術学」「文化人類学」「地域社会学」「環境衛生学」「地域医療薬学」「生涯教育学」の8分野に分かれて、地域の活性化を図り、地域社会の健康や安全に寄与するための研究活動が行われています。2006年には3年間の事業の延長が決定され、引き続き研究・調査活動が行われています。

各分野の主な成果

  • 心理学分野

    心理臨床カウンセリングセンターが開設され、地域住民の子育てを支援し、心理相談を必要とする人々の要望に応える拠点が確立した。さらにこのカウンセリングセンターを中心として、人間心理学科の教員および学生が共同で、学内に母親の集まりの場(「子育てサロン」)を提供し、学生と赤ちゃんの交流の場を作っている。また、神戸市教育委員会との連携による小学校への特別支援教育を実践し、教員、学生が教育現場に参加している。
  • 地震・防災学分野

    この分野では、阪神・淡路大震災を経験した地域社会と大学がどのように共生できるかを模索し、行動することを目指している。分野の組織は、避難所研究班と地震関連情報研究班の2つに分かれている。まず、避難所研究班は、1995年1月17日の兵庫県南部地震の被災地で大量に出現した避難所を中心に、震災資料に対する検証・評価・保存の必要性を、地域社会との連携関係を深め、大学の本来の使命である「教育」と連関させることで実践している。現在、連携から「共生への実践的研究」を「協働」という形態に見いだして深化させている。
    また、地震関連情報研究班は、震災を経験した地域に、大学が収集し分析した地震関連情報をいかに平易に、かつ、有効な内容にするかを模索してきた。その結果、情報発信の方法をWebサイト(「なまず相談室」)による双方向の情報交換とアプローチに見いだし、地震に敏感な地域社会と大学とが情報分析を「共有」する実践を試みている。
  • 芸術学分野

    研究機関の特色を生かした芸術ソフト中国演劇「カプチーノの味」(喩栄軍作、本学中山文教授訳)を上演。2009年には「天国の隣は」(同作、同訳)を上演予定。教育機関の特色を生かした芸術文化活動として、多様なジャンルについての研究講演会を実施している。生の芸術に触れる喜びを体感した上に教養が身につく講演会スタイルを確立し、多くの地域住民・学生がジャズやゴスペルを楽しんだ。このような機会を通して、芸術ボランティアに参加する学生を育成している。
  • 文化人類学分野

    地域の祭りや年中行事、伝統芸としての獅子舞、地場産業である酒造りや魚醤造りなどを対象として、文化人類学的な視点からフィールドワークを行い、地元住民とさまざまな人的ネットワークを構築している。その絆の上で地域の民俗文化についての記録保存を行い、映像民俗誌を作成している。さらにそれらをデジタルアーカイブとして公開し、地域と研究者との双方向的な対話に基づく民俗資料の構築を行っている。また、これらの民俗資料を活かした地域の活性化を探求している。
  • 地域社会学分野

    地域商店街や地場産業の活性化を考えている。たとえば、垂水商店街のイベント活動に学生が参加し体験的に商店街の活性化を考えてみたり、三木市口吉川地区の酒米(山田錦)生産農家を学生たちが訪問し、その現状と課題について考えている。特に後者は、酒米の保存・育成から生産、それが醸造され日本酒となって販売店を経て消費されるまでのプロセスを視野に入れつつ調査・研究している。
  • 環境衛生学分野

    水は、地震などの災害時に最も必要なものなので、明石川および伊川の定点観測を継続して実施し、カチオンやアニオンを測定して、新しい汚染指標として用いることを提案した。環境に取り組む市民活動と大学との共生の一環として、市民活動家を支援するために、活動そのものを研究し、ゴミの収集および震災後の市民活動について検討した。その成果は、「明石学」の中で教育の一助として、2005年、2006年に講演した。講演は、大学のLANによって、授業ムービーとしていつでも閲覧できるようにしている。
  • 地域医療薬学分野

    地域医療薬学として、このプロジェクトの開始直後(2003年3月)、地域住民に対するアンケート調査を実施し、2890人中1389人(回収率50.5%)の回答を得た。このアンケート調査から得られた主な傾向は、「薬に関する疑問が生じたときの解決法」に対し、「掛かりつけの医師に聞く」(54.6%)、「かかりつけの薬局に聞く」(49.5%)であった。その他地域住民の薬剤師、薬局、本学に対する関心、要望を踏まえ、以下の活動を行っている。医薬品情報に対する基本的な情報の収集を行い、地域医療薬学分野のホームページから、その資料が閲覧できるようにした。「お薬相談室」を開設し、インターネットを介して相談の受付け、e-メールで回答をしている。年1、2回地域の薬剤師を対象とした講演会を開催し、その内容を小冊子にまとめ、インターネットで希望者に無料で配布している。医療薬学の本質は、化学物質を含めた医薬品の開発とその適切な利用にある。その観点から、化学物質を含めた医薬品の基礎的な研究、さらには応用研究を行っている。具体例としては、コンピュータシミュレーションにより、薬物設計を行い、現在6種類の新規化合物を得ている。以上の成果を、今後地域に還元していきたいと考えている。
  • 生涯教育学分野

    兵庫県内の高齢者大学、自治体主催の生涯学習活動の情報収集を実施し、データベースを作成するとともに本研究のホームページに掲載して、可能な限りリンクを貼って情報提供をしている。とりわけ、平成の大町村合併によってどのように変わりつつあるか追跡調査している。また、国立教育政策研究所の支援を受け、全国の生涯学習に関する基本文献・答申・計画等を収集し、同様にホームページで収集資料を紹介している。さらに、これらの施設に加え、小学校や高等学校とも連携し、学生・大学院生が教育・研究の場として、大学を出てふれあうことで、お互いに元気と刺激をもらい、教育の活性化を図るという実践的成果を出しつつある。

多彩な分野での地域貢献を通じて
学内活性化にもつなげていきたい

神戸学院大学地域研究センター センター長
人文学部長・人間文化学研究科長
伊藤 茂 教授

神戸学院大学地域研究センター センター長 人文学部 伊藤 茂 教授

神戸学院大学地域研究センターは、大学院人間文化学研究科が中心となって、地域を考え地域と大学の共生を目指すために、文化学にとどまらず自然科学からもアプローチできる幅広い学問分野から成り立っています。
そもそも神戸学院大学地域研究センターは、阪神・淡路大震災後の被災地域に対して、大学がどのように関わり、どのようにすれば地域に貢献していけるのかという命題を掲げて出発した研究機関です。私たちは、従来の地域研究が特定の地域を調査し、データを収集し、その分析結果を論文にして発表する"客観的"なものに終わっていたことを反省し、もっと積極的に地域に入り込んで連携し、人々と一緒になって実践していく中で共生の可能性を探るべきだと考えました。そういう実践自体が研究方法であり、研究成果であるという新しい発想に立った研究活動です。
たとえば、大蔵谷稲爪神社の祭りの調査などわかりやすい事例だと思います。まず文化人類学的に祭りを調査し、映像記録を撮ってデータベース化する研究があります。しかしそれにとどまらず、多くの学生が実際に祭りに参加して御輿を担いだり、祭りの盛り上げに一役買ったり、あるいは祭りで披露される「大蔵谷の獅子舞」(兵庫県無形文化財)をグリーンフェスティバルの芸術公演として上演し、そのときの照明や音響は学生がボランティアスタッフとして担当する。一つの研究テーマに多面的なアプローチが可能であり、そのすべての実践が私たちの研究の成果だということです。
大学が地域と連携することで、教員や学生はこれまで以上に地域に出て社会と接触する機会が増えています。神戸学院大学地域研究センターの研究活動が地域の活性化につながればうれしいことですが、同時に私たち教員や学生の潜在力が引き出され、大学の研究と教育のレベルを押し上げることが重要であり、またそうなると期待もしているのです。

フロントライン 一覧