特集:教育活性化会議 座談会
「神戸学院大学における今後の教育改革 ― 学士課程教育の構築に向けて ―」フロントライン

3.入学者受け入れと高大接続をめぐって

全学的な教育研究誌の発行など
教育開発センターが教育改革の核となるために

初年次教育・導入教育の必要性

座長: 最初に申し上げましたが、大学全体がユニバーサル段階、いわゆる「全入学時代」に突入していると言われています。こうした、さまざまな学生の学力レベルを引き上げることと質の高い教育を施すことは相矛盾する話でありますが、中央教育審議会の答申では、これらを同時に実行することを大学に求めています。このユニバーサル段階の問題に対しましては、アドミッションポリシー(入学者受け入れの方針)と関連して、いわゆる初年次教育、導入教育をどうするのかという問題と関わってくるかと思います。

平成20年度サイエンス・パートナーシップ・プログラム事業の一環で、薬学部が企画した体験授業に県内の高校生が参加
平成20年度サイエンス・
パートナーシップ・プログラム事業の一環で、
薬学部が企画した体験授業に
県内の高校生が参加

横井教授:私が担当しているアドミッション・ワーキンググループで、各学部に推薦入試で入学が決まり、学習量が減った生徒に対して、何らかの対策を講じているかといったことをアンケート調査いたしました。その結果、おおよその学部では何らかの対策をしているということでした。特定の書籍を指定して感想文を書かせたり、あるいは、薬学部においては、物理や数学、化学といった科目の問題を入学予定者に配付して解答し送ってもらい、添削して再び返したりということを実施しています。このような入学前教育に関しては、満足しているという学生調査の結果が出ているようです。各学部ともそれなりの効果はあるのではないかと思われます。入学者全体に対しての調査では、全学的に学力のレベルが満足のいくものではない、あるいは、学習意欲が低い学生も少なからずいるというアンケート結果が出ています。そうした学生に対する対策としては、1年次の科目において、高校生が学習する段階の内容を少し含んだものを教えて、大学のレベルまで引き上げるといった工夫をしている教員もいます。このときに一番大事なことは、そうした学生を含めた全ての学生が、学習意欲をかき立てられるような教育を行っているかどうかということだろうと思います。本学でも、大学入門や基礎演習という形で、少人数の学生と教員が触れあう機会を設けてモチベーション向上を図るなど、初年次教育として教育環境を良好に保つさまざまな努力をしています。ただ、他大学においては、もっと積極的に初年次教育を行っているケースもあります。例えばK工業大学では、学生が毎日の出来事を綴った1週間分の記録(ポートフォリオ)を、担当教員がそのつどチェックしていくような試みをしています。これは、入学した学生の大半が100字も作文できないことに危機を感じて始められたということです。そのほかにレポートを随時書いてもらい、多くの文章を書くことができた学生には学食の500円券を配るなどしているそうです。そうすることにより、卒業するときには600字以上の作文が書けるようになるとか。本学でも、そうしたことを考える必要もあるのではないかと思っています。薬学部の山岡由美子教授は、このようなことを1年次生にやってみようと考えておられるようです。

座長: 基本的には各学部で学生を募集しているわけですから、アドミッションポリシーを各学部が明確にしたうえで、初年次教育、導入教育を行う必要があるでしょう。本学でも、初年次大学演習を実施してはいるようですが、今の話を聞いていますと、学部によって議論がされているところとそうでないところがあるように思います。

学長: やはり、学生が入学して、どういった順番で何を学修すればよいのか分からないというのでは困ります。そのためにも、導入ゼミとか基礎ゼミなどで、4年間にこのような学習をし、こうした順序で学んでくということを知ってもらうことは必要だろうと思います。それは、学部によって方式が異なってもよいでしょうし、例えば人数によって、薬学部でしたら1人の教員で15名くらい受け持てば充分足りるということもあるでしょう。ともかく、学生が入ってきて、卒業までにどのようなことを学ぶのかということを理解してもらうために、初年次教育、あるいは、導入教育が始まったわけですから。

横井教授: 薬学部の1年次生を見ていても、全体的に十数年前までの学生に比べると自立性に欠けていると感じます。何でもかんでも聞いてくる、ノートの取り方も分からない、教員に対する接し方すら分からない学生も目に付くようになっています。そこで薬学部では、3年ほど前からK国際大学の先生方が作成した初等教育に関するプログラム「知へのステップ」を参考にし、それに準じた教育を実施し始めています。その内容は、4月の入学時、オリエンテーションの1週間に、大学で勉強するレベルについての説明やノートの取り方などです。

備酒准教授: 大学の入口が全学的に極めて重要だということであれば、教育開発センターのなかで、各学部の初年次教育や導入教育についてのヒアリングを、教員全員参加で実施するということはできないのでしょうか。そうすれば、教員間でモチベーションを共有することができると思うのですが。

学長: 教育開発センターには、私も大きな期待をしています。この座談会で話し合われたことは、実際に行動に移さないと意味がありません。こうした議論の受け皿となって、全学に発信していくというよう意味でも、センターの役割は非常に大切だと思っています。もうひとつ、私がこの場を借りて提案したいのは、本学で行われている教育が分かるような冊子「教育ジャーナル」を定期発行してはどうかということです。今までも、本学の研究成果を発表する発行紙や、各学会の形で紀要を発行しています。ところが、教育が重要だと言いながら、今はそれを評価する場が設けられていません。そこで、教育方法に関する研究報告の投稿ができるような冊子を発行することができればよいと考えているところです。教育開発センターから、この「教育ジャーナル」を発行することも考えてよいのではないでしょうか。誌面には、大学教育に関する事柄や、FDに関する成果を発表したり、論文を掲載したりしてはどうかと思います。継続的に発行して認知度が高まれば、将来的には、本学だけではなく他大学からの投稿なども期待できるかもしれません。

座長: 教員に積極的に投稿してもらえるよう宣伝をする必要がありますが、「教育ジャーナル」のような冊子は、ぜひ発行したいと思います。また、「教育ジャーナル」以外の方法として考えられるのは、FD委員会で実施している研究会をもっと大規模にして、大学教育全体を学会風に研究発表してしまうというようなことでしょう。そうした機会に研究発表を行った教員の方にジャーナルにも投稿していただくというような方法もあるのではないでしょうか。このように、さまざまなアイデアが今後も出てくると思います。

課外活動が担う役割

山上教授:学生が卒業の際に必要な履修要件としては、コアとなる専門教育科目のほかに、キャリアトレーニングやリテラシー、コンピュータ教育などが含まれるわけですが、コミュニケーション能力やリーダーシップも重要です。例えば、そうした素養を身に付けてもらう場として、ボランティア活動や課外活動、ゼミでの発表なども評価すべきではないかと考えています。とはいえ、なかなか現在の単位制のなかでどう評価し、どう認定するのか、難しい問題があります。ただ、そうした活動を行う場所と能力を提供して評価することは重要ではないでしょうか。

座長: それは、まさに中央教育審議会でも示されている事柄です。課外活動を評価しなさいと、答申にも明示されています。そのためには、単位制をどこかで脱却することも考えないといけないのかもしれません。

山上教授: FD活動の一環として、各学部で懇談会を開いて、学生との交流を図るということを行っています。そんななかで学生に意見を求めると、こうした場をもっと設けてほしいと言われたりします。私も、学生同士が情報を交換したり意見を言い合ったりする場を持つことが重要だと思っています。また、学生にも、大学教育を考える場に積極的に参加してほしいと思っています。そうした場を設けて、学生が求めている教育や科目はどのようなものなのかといった、彼らの考えを吸い上げることが大切ではないでしょうか。それと、本学ではスポーツに関する課外活動方は盛んですが、文化系のものが少ないと思いますので、その活動を積極的にサポートする必要があるのではないでしょうか。

横井教授: 国立T大学のFD発表会に参加したのですが、そのなかで、高等教育研究会という課外活動団体の女子学生が教育実践項目について20分ほど発表していました。本学でも、学部生でなくても大学院生が代表を務めるなどして、そうした研究会のような課外活動団体を学生が立ち上げてくれると素晴らしいと思います。また、この発表会のなかでは、四国の4大学が連携した事業に対して文部科学省から補助金をもらっているようなことについての発表もありました。このように、できれば教育開発センターが、文部科学省から補助金をもらえるような活動ができるよう私たちで後押しする必要があると思います。

常廣准教授: 課外活動に関しては、ポートアイランドキャンパスにおける活動はほとんど行われていないのが現状です。せっかく、薬学部、法学部、経営学部、経済学部の学生が集まっているわけですから、ポートアイランドキャンパスの活性化をもう少し真剣に考えるべきだと思います。

座長: 教育開発センターにおいても、ポートアイランドキャンパスを活性化する方法について議論していかないといけないと思っています。今回の座談会のなかで、4月に発足する教育開発センターが担っていかなければならない課題が数多くあることを感じ、改めてその役割の重要性を認識することができました。私たち教員は、本学が生き残っていくためには、学生に対する教育をきちんと施すことが一番大切であると考えております。教育開発センターがその役割の一端を期待されているということを念頭に置き、センターがスムーズに機能するようにサポートしていきたいと考えています。また、教育に対する期待が高まっている今日、センターの位置づけについてもさらに検証する必要があるのかもしれません。4月の発足後も、組織や体制に関することも含めて、議論をしていきたいと思っております。

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