音を紡いで21年 ~グリーンフェスティバルの魅力~フロントライン

― Chapter 2 ―
音を紡いで21年 ~グリーンフェスティバルの魅力~

神戸学院大学 上村 嘉夫 名誉教授

上村名誉教授
グリーンフェスティバルは、1988年にスタートした際、1回のみの開催で終わる予定でした。と言いますのも、会場であるメモリアルホールのオープン記念コンサートとして開催されたからです。その際、ずっと親交があった指揮者の朝比奈隆先生が率いる大阪フィルに出演していただくことになりました(指揮は別の方でしたが)。その際、クラシック音楽の演目1つだけでは寂しいということで、演劇その他の催しも入れていくつかの演目が決まり実行できるめどがたったので、公演の開催に至ったわけです。計画された当初は学生を主な参加者として想定していたのですが、当時すでに「開かれた大学」という言葉はいろいろなところで言われており、地域住民の方にも来ていただこうと、一般公開することになりました。ついでに、せっかくだからアンケート用紙にご意見を書いていただくということになりまして。そうしましたら、好意的な意見が続出しました。そんなに喜んでいただけるなら、次も開催しようと(笑)。そんなことで継続していくうちに、気がつけば今年で21年目、演目に限って言いますと、このリサイタルで271回目を数えるまでになりました。

鈴木さん(写真左)と、田中さん(写真右)

田中さん
大阪フィルの団員として、私も毎年のようにグリーンフェスティバルで演奏をさせていただいています。いつもですと、大勢の仲間と一緒に盛り上がって演奏するという感じなのですが、今回はソロですので非常に緊張しました。しかし、気持ちを強く持たないとよい演奏にはならないということは頭にありました。でも、毎年来ていただいている方も多いと思いますので、そうした方が私を覚えていて下さっていたのでしょうか。観客席から、温かな声援をかけてくださったので緊張がほぐれました。

鈴木さん
グリーンフェスティバルを楽しみにしておられるという雰囲気を、こちらの会場で強く感じました。常連の方が多いためかアットホームな会場だと思います。ただ、私たち演奏家はプロですので、大きなホールであっても小さなところであっても、常に真摯に取り組み、皆さまに聴いていただこうと思っています。

上村名誉教授
ホールによっては、演奏しやすい、あるいは、しにくいといったことはあるのですか?

鈴木さん
あります。メモリアルホールは、観客席の床のかなりの部分が絨毯敷きにもかかわらず、音が反響して演奏しやすいと思います。

上村名誉教授
音がよく響くので、演奏する場所としては、いわゆる“多目的ホール”にしてはいい方ではないかと言って下さる方が多いです。また、グリーンフェスティバルでは、今回のリサイタルのように休憩時間のあとに質疑応答の時間が設けられているのも特徴です。お客様に事前に演奏者に聞きたいことを書いてもらったアンケート用紙を回収し、その中から私が質問をいくつかピックアップして演奏者に答えてもらっています。これは、演奏者の方の了解をとったうえで行っています。演奏者の方には、演奏以外のことをさせるので心の中では“悪いなぁ…”と思ってはいるのですが、お客さまには好評ですので(笑)。また、演奏曲目については、何度も出ていただいている演奏者の方には、主催者の立場を悪用して(笑)、あまり一般的でない作曲家の曲をリクエストすることが多々あります。そのような曲にもぜひ聴いていただきたいよい曲があるので。

田中さん
たまに、ミニコンサートなんかで演奏しながら司会もしてしまうというようなこともありますが、今回のように質疑応答を演奏時間のなかで行うのは初めての経験です。

左から田中さん、上村教授、鈴木さん

上村名誉教授
本来、演奏会の中で演奏者にトークショーのようなことをさせるのはクラシック音楽の世界では邪道とされていました。私の若い頃など、開演、終演のアナウンスさえも入れてはならぬという雰囲気でした。でも、クラシック音楽に対して学生が親しみを感じないというのはそんな理由もあるのかなと、現在のような趣向をグリーンフェスティバルに取り入れたわけです。そうしましたら、お客さまにはとても好評でした。それ以来、ずっと続けています。ここ数年、ポピュラー音楽の影響からか、他のクラシック音楽のリサイタルでもそうした場面がよく見られるようになりました。それと、お客さまからいただいたアンケート用紙には、さまざまなことが書いてあるわけですが、私は、すべてに目を通したうえでほとんどの方にお返事を書いています。

田中さん
鈴木さん

本当ですか?

上村名誉教授
ええ、そうです。中には、マーラーの交響曲を聴きたいなどこの広さのステージには無理な注文を出される方もあり、そうした方には、実現できない理由を長々としたためてお返事を出しています。別の話題だったのですが、有難いことに反論を寄せて下さる方(笑)もあり、そんな風にして手紙のやり取りをさせていただいているお客さまも結構いらっしゃいますよ。

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